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準備万端ですよ、聖竜様

 爽快な朝です。昨晩は素晴らしかったです。

 アシュリンさんを殴り倒せたのですから。


 心は晴れ晴れで、外から聞こえる小鳥の鳴き声も大変爽やか。そんな中、寝床を綺麗に整頓して、私は一つだけの丸椅子に座ります。



 さて、準備万端ですよ、聖竜様!

 いつでも私に話し掛けて下さいっ!

 時間的にそろそろだと思うんです。



『メリナよ、元気であるか?』


 頭の中に全身を震わす様な声が響きます。とても重低音で痺れますね。


 はい。

 私は声を出さずに返答の言葉を思い浮かべる事で返事をする。


『そうか。では――』


 お待ち下さい、聖竜様!


『……如何にメリナであろうと我を制するとは無礼ではなかろうか』


 全くもってその通りで御座います。しかし、今日ばかりはこの聖竜様の忠実なる未来の愛妻メリナの話を聞いて頂けないでしょうか。


『えっ、何って……愛妻? 進化してる……?』


 わぁ、ちゃんと伝わりました。嬉しいです。


『こ、この子、大丈夫かな』


 えぇ。何も心配しなくて良いですよ。



『……ごほん。メリナよ、何であるか?』


 聖竜様が仰っていた魔族フロンの件です。

 猫になっているのですが、殺すべきかどうか迷っています。


『フロンが分からぬな。一ヶ月ほど前に依頼した件であるか?』


 そうです! ルッカさんが噛み付いて猫に変わったらしいんです。


『もはや魔族でないのであれば、捨て置くが良かろう。生きるも死ぬも天運に任そう』


 分かりました。良かったです。にっくきフロンだったとは言え、今のふーみゃんを殴るのは大変な覚悟が必要だと思っていました。


 ところで、畏れ多くも重ねての質問ですが、聖竜様は何故魔族を生かすなと仰るのですか?


『……あやつらは魔力が暴走しているのだ。自分の意志もあるだろうが、根本としては魔力自身が意思を持ち、現世に現れようと周りの力を求めているのだ。それを放置する先は世界の破滅』


 魔力感知の能力を持つエルバ部長が、魔族は吸い込まれる様な黒色に見えると言っていましたが、それと関係しそうな話です。


『そうだな』


 きゃ! 私の独り言、いえ、独り考えを読まれました! いやん、全てが筒抜けなんですね。


『……メリナよ、ふざけるでない』


 聖竜様、すみません。どうしても、この敬愛の気持ちは納まらないのです。



『魔族を放置すると周囲の地の魔力、生気その他諸々の魔力が失われ、世界の秩序が乱れる。我はその悲劇を二度と繰り返さないために生き続けておるのだ』


 了解致しました!

 ふーみゃんは殺さず、でも、魔族に成り次第に撲滅ですねっ! 塵一つ残さず、この世から消し飛ばしてやります!


『……う、うん。ルッカを頼ってね。そしたら、殺さなくて良いから』


 ……くそ、ルッカめ。吸血鬼だからって、聖竜様の信頼を独り占めしてずるいです!

 私も魔力を吸収する魔法を絶対に編み出さないといけません! 絶対にです!


 あっ、そうだ。もう一つ訊きたいことが有ったのです。


『申してみるが良い』


 ありがとうございます!

 私、ふーみゃんに魅了魔法を掛けられてませんか? もし、そうなら、即座に殴り殺しに行くのですが。


『ん、んー? 命を奪いに行く決断が早いね……。掛かってないと思うかな』


 良かったです! やっぱり、ふーみゃんは純粋に可愛いんですね。



『我からも良いだろうか?』


 はい! 何で御座いましょうか!?

 私の好きな方という質問なら、勿論、聖竜様です!

 

『……そんな質問、今するはずないかな。……メリナよ、お主は『戦争を止める』と言ったが、全く止まっていない事をどう思っているのだ?』


 止まっていない? 確かにシャール伯領は囲まれていますが、戦闘は始まっていないと思うのです。それではいけないのでしょうか。


『……確かに戦闘での死者は出ておらん。しかし、王都に占領された村の者共は虐げられ始めておるのではないか』


 !? 

 ……なんと、そうなのですか?それではダメなのですか? いえ、聖竜様は私を咎めているのです。ダメなんですよ!


 戦争って皆で殺し合いをする事だと思っていました……。だから、まだ始まっていないと思い込んでいました!



『……メリナよ、しかし、被害が少ないのは良いことなのだと思うぞ。止められなかったとしても、それはお前の責任でも無かろうしな』


 ……今からでも挽回しなければ、そうでないと、聖竜様に呆れられます!

 私の正妻としての地位が危なくなります!


『ちょっと……そんな地位は最初から無い――』


 聖竜様!

 絶対に戦争を終結させます! ……どうすれば、良いのですか!?

 

『えっ、知らな、いや、分からぬ。魔物であれば群れのリーダーを倒せば、大体逃げるがな』


 やはり、王を倒すしかないのですね。


『だが、お主が頑張った所で精々十年程度の平和である。お主が危険を冒す必要は全く無いのだぞ』


 あぁ、聖竜様からお気遣いを頂きました。

 何たる幸福なのでしょうか。このメリナ、必ず戦争を終わらせます。


『……うむ、我も人の営みには関与しないと言いつつも、お主に期待している部分もあったのだろう。済まぬな』


 はい!

 聖竜様はやはりお優しいです。

 人が嫌いな訳ではないと分かりましたよ!



 聖竜様との会話はここで終わりました。


 さて、ふーみゃんを始末しなくて良いとのことですので、たくさん可愛がりましょう。

 どこにいらっしゃるかな。楽しみです。


 そして、ふーみゃんとの戯れが終われば、戦争を止めるために、このコッテン村を去りましょう。

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