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アデリーナ様とふーみゃんの過去

 私はアデリーナ様のお部屋をノックしました。


「いらっしゃいましたか。お入りなさい」


 落ち着いた声が私を出迎えます。



「にゃー」


 きゃー、ふーみゃんが鳴きましたよ。

 遊んであげたいなぁ。

 ……いえ、フロンです。遊ぶどころか殴り合い対象です。



「ふーみゃんは魔族です。アデリーナ様はどういうおつもりですか?」


 私の質問にアデリーナ様は涼しい顔です。


「聖竜様も仰ったのでしょう。フロンはもう魔族でないと」


 確かにラナイ村の戦闘直後は仰られました。しかし、その後にまた魔族として復活したようにも思います。


「分かりません。今はそうだとしても、また魔族になるかもしれません」


「なら、ルッカに吸わせれば良いのですよ。ずっと、猫さんの姿で良いですよね、ふーみゃん」


「アデリーナ様とフロンの関係について教えて下さい。爛れた関係なら、神殿と関係の無い所でお願いします。何なら一戦も辞しません」


「私に巫女を辞めろと? まぁ、何て不遜なのでしょう。……良いでしょう。お伝えしましょう」


 机の上にあった丸い水晶球をアデリーナ様が床に落として割りました。

 これは牢屋で会った時にも使用された、密会用の防音魔法具とか言うものです。ご準備されていた事からすると、ここまで想定内という事ですね。


 周りが黒いモヤモヤで覆われます。



 アデリーナ様はふーみゃんとの出会いから話されました。



 前王の孫であったアデリーナ様は幼い時から王宮で過ごしていました。将来、立派な支配者層に成るように帝王学を学んでおられていたようです。


 聞いていると、礼儀作法、一般教養の他に、人間の欲の利用法とか、損得を提示したときの人間の心理だとか、人間を動物と同じ目線に下ろしての行動学とか、そこらに、今のアデリーナ様を形作る要因がいっぱい有るように思いました。


 ふーみゃんはそんな彼女に与えられたペットでした。母親からのプレゼントで賢い子猫と言う触れ込みだったそうです。


 本人曰く、友人が居なかったアデリーナ様にとって、一番の親友であり、心を許せる存在だったそうです。毎晩、ベッドで一緒に眠ったりしていたらしいです。


 良いですね。フロンと知らなければ、私も是非、一緒のベッドで床を一緒にしたかったにゃー。


 当時からふーみゃんは人間の言葉を理解できていたようで、小物を取ってくれたり、家庭教師から出される宿題を可愛い黒い手で答えを示したりしていたのでした。


 本を自分で開いて、該当箇所を肉球でポンポンする猫! とっても欲しいです!



 皇太子様のご息女であったアデリーナ様に不幸が襲います。ある日、家族で湖へ遠遊された帰りに乗られていた馬車が土砂崩れに逢ったのです。


 王族の方が通る道でその様な事が起きるとは信じがたい事ですが、現実の事故でした。

 それは一行を全て呑み込む程の大規模なものでして、アデリーナ様のお父様もお母様も、その方々の護衛も含めて、皆が土の中に埋もれてしまったのでした。


 その日に限って朝から騒ぐふーみゃんを落ち着かせる為、同行していなかったアデリーナ様と少ないお伴だけが一命を取り止めたのです。



 当時の王はアデリーナ様のお祖父さん。アデリーナ様のお父さんが死んだことにより、継承権第一位はアデリーナ様の叔父に渡りました。何故なら、王位は現王の血にどれだけ近いかで決まるからです。


 更に前王が崩御されると、その叔父が王となります。今日現在の王様ですね。その結果、次期王のご子息様達の継承権がアデリーナ様を凌ぐことになりました。


 アデリーナ様の継承権13位でも凄いのに、以前は一桁前半だったのでしょうか……。




「……ご家族を亡くされていたのですね……」


「古い話です」

 

 アデリーナ様はふーみゃんを撫でながら続けます。



 その頃になると、叔父家族が幅を利かすようになった王宮に住み続けることが耐え難くなり、アデリーナ様は王都に新しく館を構えます。これは親しい従者の進言でもあり、暗殺の虞を緩和する為でした。


 しかし、ある日、強盗が入ります。何人もの召し使いが倒され、また、アデリーナ様も刃物を突き付けられました。


 今なら即座に光の矢で瞬殺でしょうが、この時はまだ幼かったのです。アデリーナ様はまだ純粋無垢な10歳でした。いえ、違ったかもしれませんね。エルバ部長並みにくそ生意気だった可能性も否定できません。


 その危機一髪を助けたのがふーみゃんで、アデリーナ様の代わりに暴漢の剣を受けたのでした。


 まぁ、ふーみゃんは偉いですねぇ。痛くなかったかな。お腹をヨシヨシしてあげたいなぁ。


 そして、血を流すふーみゃんを手に抱き、呆然と立ち尽くすアデリーナ様を救ったのが、たまたま通り掛かって異変に気付いた、当時、駆け出し軍人のアシュリンさんだったのです。



 アシュリンさんはヨシヨシしなくて良いですね。



 その後、アデリーナ様は竜の巫女となられました。明らかに命を狙われたために、王都からも世俗からも離れるためです。

 


「アデリーナ様。結局、今の話だと、ふーみゃんは飼い猫だったとしか分からないのですが?」


「あら、そう? 当時から人語を理解していたと明示しましたよ。ふーみゃんは昔から賢いでちゅねぇ」


「いえ、今の話のふーみゃんと、そこにいるふーみゃんが一緒だと言う証拠が全くありません」


「これですよねー、ふーみゃん」


 アデリーナ様はふーみゃんを持ち上げてお腹を見せました。

 まぁ、お腹も丸っこで可愛いですね。


 アデリーナ様が毛を掻き分けると、長めの傷痕が見えました。まぁ、なんと痛々しいんでしょう。


「アシュリンの回復魔法でも治りきらなかったのよ。よっぽどな魔剣だったのね」


 私は回復魔法でその傷を癒してあげました。

 フロンだと思うと憎々しさしかありませんが、今はふーみゃんですものねー。


「……相変わらず、ふざけた効果の魔法で御座いますね。当事、どれだけの一流の回復術士に診てもらったと思うのですか」


 そんな大したものではありませんよ。

アデリーナ様、「前王の娘」とどっかで書いた気もしたのですが、孫でお願いしますm(__)m

該当箇所を探したけど見つからなかったので、そんな気がしただけかなぁ。

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