エルバ部長の長い説明
ルッカさんが巫女長に捕まってしまいまして、人を呼びに行く人がいなくなりました。
だから、ここまでで緊急会議は終わりです。結論としては聖竜様にご相談です。
ただ、私はエルバ部長に確認しないといけないと思っています。あの人は魔族フロンを直で見た仲間ですから、何らかの思いを持っていると思うのです。余り期待はしていませんが。
そして、その後に、フロンと知ってふーみゃんを可愛がっている件でアデリーナ様を問い詰める、大仕事が待っています。
しかし、聖竜様がふーみゃんを殺処分と判断すると、あれだけご執心なのですから、アデリーナ様とは闘いになるかもしれませんね。
アデリーナ様の光る矢はノーアクションで放つ事が出来ると知っています。
彼女の部屋で「足が痛いよ、痛いで御座いますよ作戦」を決行した時に見せられた矢の鋭さは忘れられません。
この私が反応どころか射たれた事を感知する事も出来ない速度だったのです。
あれを抑えるには、虚を突くか、当たっても死なない様な対策を打つしか無いでしょう。
……巫女長の鎧兜を借りておこうかな。
私はエルバ部長を村の枯れ井戸の近くで発見しました。お父さんっぽいヘルマンさんもいますね。両目を潰した件はどうもすみませんでした。そっちが悪いから口には出しませんよ。
「何か用か?」
エルバ部長はいつも偉そうです。デフォルトを調査モードの可愛らしい言葉遣いにして貰いたい所です。
「ルッカさんが魔族フロンから魔力を吸って、ふーみゃんにしたと言っているのですが、有り得ますか?」
「はぁ?」
エルバ部長はポンコツですからね。そんな返事になるとは思っていましたよ。
先日、魔族についての考察を議論したので、念のために訊きに来たのですが、やはり無駄足だったでしょうか。
「……体内の魔力って言うのは元の体へ戻りたがるんだ、マジで」
おっ、何か知っている感じですね。
「ヘルマンを見てみろ」
指示通りに見ます。
がっしりした巨体の男です。鎧の様な筋肉を持っていますね。バワーはあるけどスピードに難有り。筋肉の無い柔らかい部位か、関節を狙って攻撃すべし。こんな所でしょうか。
あと、お父さんを呼び捨てとは感心しませんよ。また、グレッグさんに説教されますね。
それから、ヘルマンさん、変なポーズで筋肉アピールしないで下さい。そんなキャラクターだったんですか。
「こいつは魔法を使えない。しかし、こいつの体内の魔力は筋肉に宿っている。だから、重い盾や剣も片手で持てるし、多少の剣撃なら刃は深い所まで届かない」
うーん、知ってますよ。こういう筋肉モリモリタイプは大概そうです。締め殺しの何とかさんみたいな太っているタイプは脂肪に宿ってるんですよね。
「索敵で用いる魔力感知は、この体内の魔力を感知するのが一般的だ。これは年齢による増減はあるが、特質は個人特有のものだからな。区別しやすい、マジで」
たぶん、この先も長いな……。もう良いかな。アデリーナ様の所に行くか。
「魔力にも個性があるのだと思う、マジで。精霊に魔法行使を伝える魔力。土地に宿る魔力。もしかしたら、魂なんていうのも魔力かもしれない。私は、纏めて魔素と呼んでいるが、そういった物の違いを感じ取っている。その中で体内組織を強化する魔力を、私は体内の魔力と呼んでいる」
むー、来て後悔です。眠くなります。
そして、体内の魔力って、そのままじゃないですか。気力と私が呼んでいるヤツでしょう。
「ヘルマン、少し走ってみろ」
エルバ部長の言葉にヘルマンが全速で周囲を走り回る。帰ってくると息切れと汗が凄いです。
「見えんだろうが、周辺にヘルマンの黄色い魔力がばら蒔かれている。で、徐々にまたヘルマンに戻りつつある、マジで」
全く分かりません。
「私の転移魔法でも魔力を置き去りにして転移される。移動距離が長いと魔力が戻ってくるまで時間が掛かる。だから、擬似的に他の魔力で誤魔化したりもする」
あぁ、ラナイ村の近くで魔力が噴出する所だ云々って言ってましたね。
「アデリーナがフロンを地面に張り付けたのを覚えているか?」
まだ続くのか。語り好きですよね、エルバ部長は。年寄りみたいです。
「あの矢は体内の魔力を外に出すと言っていた。だが、フロンはその魔力が滞留する場に自ら転移することですぐに復活した。あんな感じで、体内の魔力は馴染み深い所があれば、すぐに中に入る」
「寝たら傷が治ったり、すっきりするのと同じですよね」
仕方ない。もう少しだけ付き合ってあげるよ。
「うむ。で、本題だ。ルッカがフロンの魔力を吸ったとしてだ、何故にルッカに留まるのだろう」
「ルッカさんは吸血鬼ですから、その辺りはどうにでもなるんじゃないですか」
「どうだか、マジで分からん。だが、特異な能力だ。過去に聞いた事はない。前に話したと思うが、体内の魔力が増大した獣人が魔族になるという話がある。それが真実なら、逆に、吸い取れば、魔族から獣人になるのであろう。更に進めば、獣人から人間に成り得ると考えてよかろう」
うーん、そうなのでしょうか。そんな簡単に獣人が人間になるのであれば、聖竜様もご苦労されないと思うんですよね。わざわざ、獣人が生まれにくくなるように、何かを制御されているみたいですし。
……いや、ルッカさんが居なかったからか……。
「メリナが言ったように、獣などが獣人化したものから魔族が発生するのであれば、フロンが猫になっても不思議ではない。元が猫で獣人となり、更に魔族となったパターンだな。この獣人がカトリーヌみたいな人とは思えない獣人の姿なら、より魔族が生まれる可能性は高くなるだろう。元のヤツが人間の姿になりたいのであればな」
そこまでは私も考えました。
犬の耳を持つニラさんがルッカさんに吸われたら、人間の耳が生えてくるのでしょうか。試したいですが、ニラさんで実験するのは不味いですよね。
「問題はルッカが溜めた魔力はどこに行くのかだ」
あっ、そっちはどうでもいいですよ。あの人、死にませんもん。
エルバ部長との話は、相談しなくても私だけで推測できそうな事しか出ませんでした。部長はやはりお子様です。私の方が賢いかもしれませんね。
「聖衣の巫女よ、先日は済まなかったな」
帰ろうとした私をヘルマンさんが止めました。王都のパン屋みたいな名前ですね。
「謁見式の夜会では喧嘩を振った事、深く詫びよう」
「……こちらこそ」
体格からして、たぶん軍人さんなんですよね。ぼっこぼこにして、こちらこそ済みませんでしたと、心の中で謝っておきましょう。
「シャールはお前を選んだんだ。上手く立ち回ってくれよ」
軽く頷いて、私は去りました。
ヘルマンさんの心配されている所は、アデリーナ様とロクサーナさんが担当されるべきなので、私はノーアイデアですけどね。
さて、アデリーナ様とお話しましょうかね。
新年度に入って、本業が激務の予感です( ;∀;)
毎日更新が途切れたら、そういう事情です。すみませんm(__)m




