皆の意見
可愛い猫さん、ふーみゃんが魔族フロンであった事に私は大混乱しました。
殺したいのにさわさわしたい。仲良くなりたいけど、ぶっ殺したい。
聖竜様、どうしたら良いのでしょうか。
いっそ、ふーみゃんがアデリーナ草だったら良かったのに! そうであれば、全力で顔面パンチだったのにぃ!!
考えが詰まった時は、肩の力を抜くのが大切です。そして、色んな人の意見を聞くのです。お父さんの本に書いてありました。やらしい方の本では御座いません。
私はルッカさんに一人ずつでも良いので、この部屋、一番大きい家の食事部屋に案内するようにお願いしました。
そろそろ、誰か来る頃でしょう。
私は正面に扉が見えるように座っております。
コンコンコン。
ノックです。
「どうぞ、入ってください」
私の声を聞いて、扉が開く。ルッカさんが先に見えました。が、奴の意見は分かります。ふーみゃんを太らせて食べる事しか眼中に有りません。だから、助手としているのです。
さて、一人目は誰でしょうか。
引き締まった体格の男性です。
あ? お前はお呼びじゃないんですけど。
確か、王都の軍人カッヘルさんです。
「ルッカさん、帰らせてください。その方には用は有りません」
「ですって。うちの巫女さんはクレイジーでしょ」
お前がクレイジーですよ、ルッカさん。私が真剣になっているのが分からないのですか!?
「ま、待ってくれ! 投降する! 絶対に逆らわないから、村に置いてくれ」
アデリーナ様に言ってもらいたいものです。
「ラナイ村に帰りたいと言った部下が、反逆の疑いで裁判に立たされ有罪になったらしい……。もう俺達には選択肢がないんだ!」
知りません。猫に生まれ変わって出直して下さい。と、言いたい所ですが、粘られて時間を浪費するのが勿体無いです。
「誠意を見せてください。それから、考えましょう」
「これでどうだ!? 俺の知っている王都の軍団の配置予定図だ」
擦り切れた大判の紙を出して来ました。地図っぽいですね。
しかし、アデリーナ様やルッカさんが把握しているよりも劣る情報でしょう。
そして、早く帰れよ。
「感謝致します。協議しますので、お帰りください」
「おぉ! 何卒、何卒、宜しく願う!」
カッヘルさんが頭を下げて退席されました。
「ルッカさん。村の方をお呼びください。あなたは期待外れですよ」
「まぁ、何て言い草! 勝手にあの人が来ていただけよ」
「言い訳無用です。早く次の方を」
――――――
「メリナっ、貴様、上官を呼び出すとは無礼千万だなっ!」
アシュリンさんですか……。いきなり、きっつい人を持って来ましたね、ルッカ。
有意義な議論が出来るとは到底思えないです。拳で語り合うのが専門の方ですよ。
まぁ、いいです。フロンに体を奪われた稀有な体験をされた方ですからね。貴重なご意見を、ホンの少しだけ期待しましょう。
「猫のふーみゃんが魔族フロンである事が判明致しました。アシュリンさんはふーみゃんをどうすべきかと思いますか?」
知らんっ!って答えでしょうね。
「おぉ、懐かしいなっ! アデリーナの飼い猫の名前じゃないか!?」
!?
「グハハハ、アデリーナがご機嫌なのは、よく似た猫を見付けたからか。まさか同じ名前を付けるとはなっ!」
いえいえ、あなた、その猫に体を乗っ取られていましたよ。
「……アシュリンさん。殺すか、飼うかの質問でして……」
「お前、見境なく殺生するのは良くないぞっ! アデリーナを取られたと思って、猫に妬いているのではなかろうな!」
まさか。快適生活をゲットですよ。
「アシュリンさん、あなたはフロンに体を支配されたのですが、近くにいて危機感は無いのですか?」
「あぁ? 次にそんな真似をしたら殺す!」
んー、豪放なのか考え無しなのか分からずですね。
「私がふーみゃんを殺したら?」
「お前、弱い者苛めはいかんぞっ!」
えっ、ちょっと……。私に対する肩車とか巫女服びりびり事件とか覚えてます?
「……人間、ファルの姿なら?」
「息の根を止めろっ!」
こいつ、ダメだ。訳が分からんです。
――――――
「メリナ、お前、あの猫さえも無慈悲に殺すと言うのか……。どんな罪があるのか知らんが、巫女と言うものは、何故にそこまで苛烈なのか」
グレッグさんです。この人は魔族フロンを知りませんものね。
「いえ、本当に魔族なんですよ」
「……お前が言うならそうなのだろうな。しかし、俺はあの猫に剣を向けることは出来ないぞ」
えぇ、私もそれを迷っているから聞いたのですが、まぁ、そうでしょうね。
「メリナ様、命は大切なんです。猫を殴るなんて、ダメですよ」
「俺達なんか、躊躇なく投げ飛ばされて、殴り倒されたよな……」
「……あぁ、猫未満の存在だったのか……」
ニラさん、ブルノ、カルノも同席です。
うむぅ、やはり、ふーみゃんの外観に沿った回答ですね。一般人の意見として参考にしましょう。
――――――
お次は巫女長です。とても偉い人で、何日も神殿を空けて宜しいのでしょうか。
「まぁまぁ、メリナさん、お悩みなのね。そういう時は聖竜様にお訊きするのが一番よ」
おぉ! 流石です!!
もう、それが答えですよね!
「でも、いつ聖竜様のお声が届くか分からないのが問題よね」
いえ、私は毎朝会話をしておりますよ!
『メリナ、元気か?』
「はい」
『そうであるか。では』
って、長年連れ添った夫婦の様に、短い会話で思いが通じ合っているのです!
……もっと長く話したいです……。私、「はい」としか言ってないし。
いえ、その件は頭の隅っこに追いやるのです。巫女長には他の事も尋ねないといけません。
「聖竜様は魔族を敵視しているのだと思っていました。でも、ルッカさんも魔族なのに、聖竜様の使徒で――」
「まぁ!?」
巫女長の目が大きく見開かされました! 私、ちょっと驚きます。だって、巫女長は何があっても動じない人だと思っていたのですから。
「ルッカさんって、そこにいらっしゃるお嬢さんの事よね。まぁ、聖竜様の使徒ですか。まぁまぁ、神殿の巫女に来られないのですか」
もう巫女見習いとなっておられますよ……。設定年齢15歳とかいう謎で無駄な拘りを聞いたと思います。巫女長まで話が行ってないのですか……。
話題が脱線して、それ以上はふーみゃんの事については聞けませんでした。




