ふーみゃん
「メ、メリナさん、これは何で御座いますか!?」
「アデリーナ草です。猫さんに食べさせてあげたくて」
村に着き次第、猫をまだ抱いているアデリーナ様が騒ぎます。
私が手にしていた花束というか、舌束が目立ったのでしょう。
「……私を何だと思っての命名ですか。いえ、そんな事より、私のふ……ふーみゃんにそんなものを与えることは許しません」
アデリーナ、貴様、私が不在時に勝手に猫さんの名付けをしやがったな!
ふーみゃんだと!? 幼児のセンスではありませんか!
「その猫の名前はメリナザセカンドにしたはずです。お忘れですか? ねぇ、メリナザセカンド」
「シャーーーー!」
今日も元気そうで良かったです、黒猫さん。……私の推す名前はお気に召さなかったのですか。
「メリナさん、私が申しましたのはそちらの話では御座いません。後ろの方々の事です」
あぁ。
「こちらは王都の兵の方々です。作戦に失敗されまして、ラナイ村にも戻ることが出来ないそうです。死罪の恐れが有ると聞いています」
「……だから?」
「コッテン村で過ごして貰うことにしました。お母さんからのお願いでして断れなかったです」
「ちょっと来なさい、メリナさん」
アデリーナ様に村の中へ連れて行かれました。兵隊さん達は柵の向こうでステイされています。
「事情は分かりませんが、食料的にも無理です。ノノン村にお返しください」
「無理ですよ。ノノン村にも余裕は無いと思うんです」
兵隊さんが来たことを、村の外の騒がしさと魔力感知で気付かれたのでしょう、エルバ部長もやって来ました。
「おい、可哀想だが間引きしないと、豹変したあいつらに攻められ兼ねないぞ。マジで」
「部長、しかし、彼らは犬蜘蛛にさえ負けるんです。はっきり言って部長未満の戦闘力です。余裕で撃退ですよ」
「マジでお前は私を何だと思っているんだよ……。お前らが異常なだけで、私もそれなりに戦えるんだぞ」
はいはい、寝言は十年後くらい経って大人になってから言ってくださいね。
「……仕方御座いませんね。私が話し合いましょう。メリナさんに逆らっても良いことは御座いません。ねぇ、ふーみゃん」
「にゃー」
くそ。会話してるみたいです。
私もやりたいです!!
「交渉次第ですが、最終的には村に入らない事と食料は自給自足で手を打ちましょうかね」
アデリーナ様は猫を抱いたまま、カッヘルさんの方へ向かいました。
「おい、メリナ。その手にしているマジで気持ちの悪い物は何だ?」
舌がベロンベロンしてますものね。でも、二つ足みたいな短い根っこは、ひょろっとして可愛くありませんか。
「アデリーナ草です」
「こんな化け物と同名とはアデリーナも複雑な思いだろうな。で、どうして持っている?」
むしろ、アデリーナ様みたいだからアデリーナ草なんですけどね。
「猫さんが食べるかなと思いまして」
「……それ、食べられるのか? いや、犬蜘蛛も旨かったものな。これもいけるのか……」
私はむしゃりと舌を引っこ抜きます。ちょっとしっとり滑っていまして、若干嫌な感じです。
舌の根本は植物質なのでしょうか。白緑のお葱みたいな色をしています。
そして、焼く。魔法でこんがり焼きます。
エルバ部長にナイフを借りまして、舌の先を切断し、その肉片を部長の口に指で持って行きます。
はい、あ~んですよ。
私はエルバ部長の咀嚼に注目します。
美味しいでしょうか……。いえ、食べ物なのかな……。
ごめんなさい、部長。自分で試さずに部長を毒味に使いました! 解毒魔法はスタンバイ完了ですので、ご安心下さいっ!
私の手に汗が滲んできましたよ。ドキドキします。白眼を剥いて倒れたら、後から叱られますよね。
ごっくんと、今、喉を通りましたね!
「……うまいな、これ」
部長は無事でしたっ! しかも、美味しいとまで仰っております。
「良かったです! では、今からケイトさんに見てもらいますね」
「あ? 何でケイトなんだ? あいつ、専門は薬毒学だろ。植物にも詳しいとはいえ……あっ!」
気付かれましたか、部長!? 自分が実験台にされた事を!
私は走って逃げました。
さて、猫さんのご飯を作りましょう。私は一番大きな家の台所に立っています。
ここは私が骸骨をいっぱい発見した例の家です。私の家宣言をしたはずなのですが、ニラさんトリオやケイトさんとかのお住まいとなっています。
よく働いておられますからね。私も快く承諾しているのです。
ささっと炒めまして、細かく包丁で切ってから皿に盛ります。味付けに塩を掛けておきましょうかね。
「メリナ様、とても良い匂いがします」
ニラさんですね。匂いに釣られて部屋から出て来られましたか。
一切れだけですが、お口に入れてあげました。
ニラさん、嬉しそうですね。そんなに良い顔だと私も笑顔になりますよ。
ブルノとカルノも来たので、彼らにも差し上げましょう。
「旨いな! コリコリして少し固いけど、深みのある味です」
うーん、ブルノさんとカルノさんの二人組はいまだ判別が付かないですね。名前だけでも覚えられた自分を誉めましょう。
「とっても美味しいですよ、メリナ様! これは何の肉なんですか?」
ニラさんが目を輝かせながら尋ねられましたので、私は舌を捥ぐ前のアデリーナ草を見せました。
一気にニラさんの目から光が消失しました。スゴく残念そうに下を向いています。
「ニ、ニラ……メリナ様に失礼だろ」
「そ、そうだよ。旨い物だったことには変わらないじゃないか。ほら、メリナ様は水棲蜥蜴も食べられていたじゃないか」
えぇ、あの聖夜の日、酒場でちょっと良い気分になって捕まった日ですね。
「森の中では何でも食べるように、冒険者の俺達に教えてくれているんだよ」
そんなつもりではないのですが、確かに何でも食べますね。でも、私も口にしないものが有ります。
「ゴブリンは食べませんよ」
切り落とした足とか口に運ぶだけで、人を食べてる気分になったものですから。味はまぁ、塩を掛ければ行けました。
「あれをちょっとでも口にするヤツは異常者でしょ。メリナ様は冗談が好きだなぁ」
ブルノとカルノは笑ってくれました。
私も微笑んだのですが、ちょっと隠しきれなかったのでしょうか。
「えっ、メリナ様……えっ、まさか?」
異常者ではないですよ。




