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観戦

 細剣を布で拭いながらコリーさんが戻って来ました。微かに呻き声が森の奥から聞こえてくるので、足辺りを突いて動けなくしたのかなと思います。



 彼女は私が氷の槍の魔法で仲良く連なったまま突き刺した二人の男を見ました。


「巫女殿、殺してはいけなかったのでは?」


「大丈夫です! まだ死なないですよ」


 私は串刺しになっている男の口や鼻が動いているのを確認しました。うん、息をしていますね!


「しかし、時間の問題だと考えます」


 そうですか?

 うーん、心なしか顔色も悪いですね。死んじゃうのかな。



「では、一応、回復魔法を掛けますね」


 剣を没収してから、私の魔法で二人は光に包まれる。

 光が消えた後には、お腹からの出血も止まった感じでした。氷は刺さったままですけども。


「み、巫女殿…………これはどういった状態になっているのでしょうか?」


 えぇ、興味深いですよね。

 私も分かりません!


 訊いてみましょう。


「痛く有りませんよね?」


 前にいる男は黙って首肯く。いえ、首が縦に振られたような気がします。


 

「氷が溶けたら、また穴が空き、血が噴き出すと考えます」


 コリーさんは心配性ですね。


「もしかしたら、氷の部分を包むように傷が塞がっているかもしれませんよ」


「……分かりました。巫女殿が言うならそうであると思います。信じられない程の魔力です。牢での一戦、私に幸運が微笑んでいたのでしょうか」


 あの時か……。アンチマジックで魔法の威力が弱まっていたんだよねぇ。接近戦ではリーチの長さもあって苦戦したのを覚えていますよ。


「巫女殿、すみません。時間を無駄にしてしまいました。村の支援に入ります」


 コリーさんは相変わらずのスピードで去って行かれました。アシュリンさんとどっちが速いのか興味が有ります。



 私は適当な木に登って、村を観察します。既に戦闘が始まっていました。


 敵に広範囲の魔法を使える者は居なかったようです。居るならば、仲間が入る前に村へぶち込みますからね。


 アンチマジックや睡眠魔法の類いを撃たれて身動き出来なくなる事態を、アデリーナ様は心配されていました。なので、完全に包囲される前に私たちが出たのです。


 しかし、杞憂に終わったようですね。



 敵は三方向から入って来ていまして、それぞれ四人組です。

 対する村側もそれぞれに分かれて対処します。


 一組はアシュリンさんとアデリーナ様。恐らく、ここはどちらか一人でも十分だと思います。アシュリンさんが速攻で殴るか、アデリーナ様が光る矢を連射したら終わりでしょう。


 二組目はエルバ部長とそのお父さん、それから巫女長です。

 実力的には少し不安です。エルバ父娘はどっちも弱かったです。

 それにしても、巫女長の鎧は輝いていますね。こんなに遠いのに太陽でキラキッラです。あの中にお婆さんが入っているなんて想像できないでしょう。


 最後はルッカさんとグレッグさんですね。とても心配です。グレッグさんがルッカさんを庇って無駄死にしてしまいそうです。

 ただし、そこの地下にはオロ部長が隠れています。いざとなれば美味しく頂ける位置にいらっしゃいます。

 なお、美味しいって言うのは、食料的な意味でして、そういう意味でも心配です。

 消化して亡くなりましたはダメですよ、部長。


 残りの人達は建屋の中です。

 でも、薬師処から来ているケイトさんがニラさん達を守ってくれています。あの巫女さんはとても危険な人です。一番怒らせてはいけない人だと、私の本能が訴えます。平気な顔でというか、喜んで、他人に毒物を試されそうです……。




 わっ!

 余所見をしている間にアシュリンさんが最後の敵を打ち上げていました。アデリーナ様が早射ちで三人を仕留め、一番前にいたヤツをアシュリンさんが殴ったというところでしょうか。


 アデリーナ様の弓って、本当に見えないくらい速くて厄介なんですよね。こわこわです。



 エルバ部長の方はどうでしょうか。

 

 部長のお父さんぽいへルマンさんが前に出て、後方に部長と巫女長様の配置ですね。

 巫女長の全身鎧がやっぱり異様です。小柄の巫女長様ですので、鎧姿は威風堂々って訳でなく、コミカルな印象さえ持ちました。貴族の子供とかがお遊戯で鎧を装備しているみたいです。


 へルマンさんは二人を相手によく凌いでいます。いえ、凌ぐというより形勢優位ですかね。

 大きな盾で相手を押したり、片手剣で牽制したり。遠目でも相手に傷を負わせずに押さえ込もうとしている意図が分かります。

 さっさっと手足を切り落とした後に回復した方が早く終わるのに、おバカさんです。


 エルバ部長と巫女長は魔法を準備しているようです。へルマンさんが頑張っていまして、お二人からかなり離れた所での近接戦に持ち込んだのですかね。


 これ、なかなか難しいんですよ。明らかに魔法を準備しているのが相手にも分かりますから、早く後衛をぶっ殺すために脇を抜けようとしますからね。それを往なすのは大変です。

 背中を向けたら殺される。そう思わせる気迫をへルマンさんに感じているのでしょう。


 あっ、魔法が発動しました。

 上位魔法みたいでして、輝く魔法陣が出て来ましたよ。それが敵側の後衛を中心にグルグル地面を回ります。

 巫女長のものでしょうか、それとも、エルバ部長でしょうか。


 あっ、エルバ部長がグッと拳を握りましたね。喜んでおられるという事は部長の魔法でしたか。

 効果は何でしょう?


 うむ、魔法陣上の敵の人達が倒れました。アンチマジックで体内の魔力を吸い取ったのでしょうか、睡眠魔法や麻痺魔法かもしれません。

 何にしろ、敵にされるのを恐れていた事を、こっちがしたのですね。



 さて、あとは前衛を抑えれば、この組も安心か。

 私はへルマンさんの方を見ます。



 なんとっ、逃げるのですか!?


 うん、まぁ、後衛が崩れたらキツいですものね。しかし、へルマン、チャンスです!!


 早く死なない程度に深傷を負わすのです!

 その剣でグサーと背中に差し込みなさい! ドバーと血を見せなさい!



 遅っ。

 へルマンさん、足遅いですよぉ……。

 どんどん敵に離されていきます。万死に値しますね。

 


 倒れたままの後衛を放置したまま、二人が村の柵を飛び越えたところで異変が生じました。



 三日月のような形の光る何かが一つ、土煙を上げながら逃げる二人に向かいました。猛スピードです! そして、二人の胴体を分断したのでした。


 土煙を逆に追うと、出所は巫女長でした。



 ……ヤバイ、彼らが死んじゃいますよ!

 急ぎ、回復魔法ですよね!!


 私は木の枝から飛び降りて、村へ向かいました!


 流石の巫女長様です!

 一切の躊躇を感じさせない一撃で、私好みなのですが、今回だけはご勘弁して頂きたかったです!

 もう死んでるかもしれませんよ、これ……。

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