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巫女長からの誘い

メリナさん視点に戻っています。

 マリールに見せて貰った光の手品は面白かったです。もっと見ていたかったですが、用件が待っているのでした。


 私はノックをして部屋に入る。ここは、神殿で最も偉い人、巫女長の執務室。


 中から返事があってから、ノブを回して中に入りました。


「まぁ、メリナさん、どうもお久しぶりね」


「はい。謁見式ではお会いできず残念でした」


「まぁまぁ、そんな気にされなくても良いのよ。私も伯爵とお話したり、探検したりと忙しかったのよ」


 巫女長はお笑いになられました。皺がより深くなられましたが、とてもキュートで可愛らしい笑顔です。


 しかし、巫女長は伯爵様とお話と言われましたが、その伯爵様はどこにいるのでしょう。アデリーナ様は行方知れずと仰っていたと思います。


 もう一つの忙しかった理由である探検について、巫女長が続けます。


「私ね、シャールの宮殿の地下に潜っていたのよ、メリナさん」


 はぁ。

 本題なのでしょうか、それとも雑談なのか、よく分かりません。


「普段は入れないんだけど、ほら、メリナさんが塔をお破壊になられたでしょ? あのお陰で警備が手薄になって入り込めたの」


 ……それ、入ってはいけないゾーンだったのでは無いでしょうか。


「深い階段の先に新しい地下道が有ったのよ! メリナさん、これ、聖竜様のお住まいに続いているかもしれないの」


 おぉ、それは素晴らしいです!

 マリールのよく分からない発見なんかより遥かにワンダフルな事ですよ!



「食べ物がなくなって、途中で戻ったのだけど、メリナさんもどう一緒に行かない? 行きましょうよ」


「でも、本当に聖竜様の所に繋がっているのですか?」


「ロルカさんを覚えてる?」


 500年前に聖竜様の下へ行かれたという巫女さんですね。以前に巫女長が教えてくれたので知っています。


「ロルカさんの記録でシャールの地下道から行ったと書かれてあるの。でも、街中では未だそんな地下道は見つかっていなくてね。それを探すのが私のライフワークなの」


 巫女長はお茶を飲まれた。


 聖竜様か……。

 ルッカさんの力を使えば、一ヶ月に一回だけどお会いできる。でも、それってルッカさんが居ないと会えないってことなんだよね。


 しかし、その地下道の先にお住まいがあるのなら、自力で辿り着くことが出来るようになるのです。とても魅力的です。


 しかし、地下となるとオロ部長と一緒に行きたい。部長はお強くて頼りになることもあるのですが、何より穴を掘るのが得意です。直接訊いてはいませんが、ラナイ村まで穴を掘ったのだと思いますから、きっと、絶対得意なんですよ。

 巫女長が言うその地下道がグネグネ曲がっていたり、枝分かれしていたりしても、部長なら真っ直ぐ突き進むことが出来るのではないでしょうか。


 なので、その旨を伝えます。



「それ、いいじゃないの。ほんと、メリナさんは冴えているわ。今すぐに巫女長の座を差し上げたいのよ」


 そんなに評価して頂いているのですか。聖夜の時もそうでしたが、誉められると、とても照れ臭いです。……もちろん、嬉しいです!



 あっ、でも、巫女長に言わないと。


「すみません。私、実は神殿を辞めて、王都でパン作りの修行をしようかと思っています」


「まぁまぁ、それも楽しそうね」


 巫女長は否定もしなかったし、止めもしなかった。


「でも、メリナさん、私と一緒に来てくれてからでも良いじゃないの。ほら、聖竜様に逢って直接お別れをするなんて素敵でしょう」


 ……ルッカさんが居れば、すぐに簡単にお逢いできるのです。巫女長にお話しした方が宜しいのですかね。


 でも、ルッカさんの能力を知った巫女長様は聖衣の件と同様に公開してしまうかもしれません。それは大混乱をもたらすと、私は強く思いました。


 それに、聖竜様を独り占めできなくなるしなぁ。



「素敵です。でも、王都に行く前にノノン村への王都側の襲撃を止める必要もあるので御座います。なので、やはりご一緒には無理かと存じます」


「あらあら、そんな事にもなっているのね。メリナさん、大変ねぇ。よし、じゃあ、この私もお助けしちゃうわ。ノノン村に行きましょうね」


 巫女長は簡単に言われます。

 しかし、相手は兵隊です。しかも、シャール全体への見せしめのために本気で殺しに来るんだと思います。失礼ながら、もうお歳の巫女長では相手するのは難しいと感じるのです。


 巫女長は私の心を見透かした様に笑いました。悪戯っぼくですね。



「ほいっと」


 えっ!


 巫女長が軽く呟くと、立派な金縁の黒い巫女服から金属鎧の出で立ちに変わられました!


 無詠唱の魔法です。何でしょうか。エルバ部長の部屋で見せて頂いた収納魔法っぽいですが、もしかしたら転送系かな。いえ、自動装着されるような術式なのかもしれません。


 それにしても、フルアーマー巫女長ですよ。全身鎧のギンギラギンで御座います。お顔もフルフェイスの兜でして、さながら鳥の嘴の様に前が尖ったデザインです。中に老婆が入っているとは思えない雰囲気です。


 椅子から軽やかに立たれました。

 節々から金属音がカチャカチャなります。


「どう、メリナさん? 強そうでしょう」


 くぐもった声が聞こえてきました。

 えぇ、強そうですが、巫女長様は剣士だったので御座いましょうか。以前に冒険者をされていたとお聞きしていましたが、巫女らしく魔法使いだと早とちりしておりましたよ。


「これね、昔に洞窟の中で拾ったの。仲間の剣士が欲しがったのだけど、後衛でもしっかりした装備が必要よね」


 やはり後衛なので御座いますか!?


「さぁ、行きますよ、メリナさん」


「いえ、巫女長様。オロ部長とは明日の朝にと約束しております」


 あっ。勢いに負けて伝えてしまいました。もはや、連れていかないとは言えなくなりました。


「あらあら、そうなの? じゃあ、たくさん食べ物とかも持っていきましょうね。大丈夫ですよ。私、収納魔法には自信あるの」



 次の日、私はオロ部長の巣穴へ行きました。巫女服姿の巫女長の他にエルバ部長と、エルバ部長のお父さんがいらっしゃいました。住民役が三人増えたのですね。

 お父さんは私を見て引き吊った笑いをされました。その節はどうもすみませんでした。


 あと、出発前の寮でシェラとマリールに今後の事を伝えますと、シェラが幸運の祈りを私に捧げてくれました。とても有り難いことです。持つべき者は友人ですよ。

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