大蛇との戦闘
これ、シェラだったら扉を叩いて助けを求める前に食べられるんじゃないのかしら。
アシュリンさんもどうかしているわ。
こんな大蛇なんか、今まで見たことがない。精々、半分くらいの大きさよ。
でも、森の蛇なら不意に襲ってくることがほとんどだった。木の上とか。なぜ、こいつは暗闇で私を攻撃しなかったのかしら。
間合いが遠かったの?
地を這う蛇と森の蛇じゃ、動きが違うのかな。
私のやることは同じでいいのかしらね。
蛇が口を開けた。
立派な牙ね。二つとも大きい。
あら、白い牙に孔が空い――
危ないっ!
私は横へ体を投げる。
出来るだけ離れるように力いっぱい跳んで、それでも、次の攻撃に備えられるように視線は蛇。
良かった。
余り体勢は崩れてない。
蛇も動いてない。
チロチロ舌ばかり出してるわね。
さっきまで立っていた所から煙が出ている。
何、今の?
牙の孔から液体が飛んできたわよ!
これ、本当に何の仕事よ!?
マリールが血迷った挙げ句に言った通り、こんなの、冒険者ギルドとか治安担当の兵隊さんにでも依頼する案件じゃないの!
仕方ない。
蛇を殺る時は頭を潰すのがセオリーよね。
でも、あの高さじゃ、届かないよ。
とりあえず、魔法をぶちこもう。
火はダメだから、それ以外で適当に。
私は願う。
『氷、氷、尖った氷。
あいつの頭に、いっぱい刺さってくれたら――』
っと、危ない。
また、牙から液体を飛ばして来るなんて。
でも、ワンパターンね。一度見たら分かるわよ。
口を大きく開いたら、それが飛んでくるのね。
もう一度、やり直しね。
私は願――
もう! 魔法を使おうとしたら、あの液が飛んでくるのか。
私が止まっているから?
あれくらいの速度なら避けられるけど、ちょっと嫌な感じ。
壁際に追い込まれた?
蛇はまた口を開ける。
来るわね、あの液が。
って、今度は液じゃない!
首が前傾した!!
私は前へ壁に沿って走る。蛇の白い体が伸びるのが見えた。
蛇の頭は私の横を猛スピードで通り過ぎる。
蛇って、こんなに、ジャンプ出来るものなの!
一口で呑み込まれる事は避けれた。でも、ダメ。
これ、尻尾来るよ!!
あっ、天井に出した照明も消された! どうやって消したかは見えない。
死角から出てきた、くねっと曲がった蛇の尾に私は腹を殴られた。
蛇の尾が私から離れない。
これ危険。
あいつ、私を巻こうとしている。
このままだと締め上げられる。
私は願う。
『氷、氷、針の様に尖った氷
そこの蛇の頭を突き刺す感じで』
魔法、発動できた。最後まで願えたよ。
私は少し緩んだ蛇の巻きから脱出する。
蛇は声を出さないから嫌い。
攻撃が効いているのかどうか分からないんだもん。
でも、扉側を取られたのは不味いわね。
負けるとは思ってないけど、アシュリンさんに助けを求められなくなったじゃない。
いえ、松明を背にしてくれているから、蛇の位置は分かる。まだ行ける。
蛇はこちらを見る。私も当然睨み付けるわよ。こういうのは気合いが大切。
うーん、氷の針が蛇の頭に刺さっているけど貫通してないか。出来れば、口が開かないようにしたかったな。
堅いのかな。
とりあえず叩いてみよう。
私は直進する。牙から飛ばす液にさえ気を付ければ何てことないわ。
蛇はとぐろを巻けてない。頭の位置は低い。
一回、あの液を出したけど、横に避けて、また突進よ。
間合いに入った!
踏み込みの足に力を入れて、腰を捻る。
同時に、腕を引いて。
くぅ、口を開きやがった。
鼻っ柱に一発行きたかったのに、それは無理か。
動揺したわ。
と思ってると思わせて、
私は願う。
『氷、氷、でっかい氷
あの口の中に』
バカね、所詮は獣。魔法を知らないのかしら。口の中の冷たさにのたうち回るのがよろしくてよ。
……蛇が感じるのか知らないけど。
それにしても、アシュリンなら、この間合いに入らせないわよ。少なくとも口を開いたままで前に出てカウンターくらいして来るのに。アシュリン、あんなに口大きくないけど。
あら、私の中のアシュリンさんの評価が意外に高い。
氷を頬張りすぎて口が閉じない蛇から私は距離を取る。
どうしたものかしら。
アシュリンさんは殲滅して来いって言っていたけど、これを殺すの?
殲滅っていうには一匹しかいないんだけど。
もういいよね。生捕りでも構わないと思うし。
私は扉をノックして、アシュリンを呼んだ。




