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帰り道

 お母さんが戻って来ないのもあって、私たちは外に出ました。ナタリアはスヤスヤです。悲しい時は寝るのが一番ですから、私はそっとして上げるのです。



 レオン君は相変わらず、私たちに纏わり付いておりまして、村には珍しい訪問客であるアデリーナ様とルッカさんの回りをうろちょろしています。無駄に跳ねたり、走ったりと、とても元気です。


「見ろよ、メリナ姉ちゃん。蛙がいるぜ! どっちが遠くに投げられるか、いつもみたいにやろうぜ!」


 やめなさい、レオン君。

 今日は街からの人がいるのですよ。

 私は微笑みで返します。絶対にしませんよ!


「メリナさん、蛙は投げるものではありませんよね?」


「勿論です!」


 ……食べ物です。神殿では出て来ませんでしたので、街の人は食べないのでしょうか。そんな気がしますので黙っています。


 蛙を煮付けると柔らかくて美味しいんですよ。小骨が多いから、ペッペッと吐き出すのが手間ですけども。


「えー、何だよ! しないのかよ! おっぱいの人、知ってるか。メリナ姉ちゃん、スゲーんだ。蛙を投げさせたら、村一番なんだぜ」


 止しなさい、レオン。それ以上、私を貶めるな。


「ソレハスゴイデスネー」


 とんでもなく棒読み! アデリーナ様、それはレオン君にも失礼です!



 村外れを更に進んで、森の中へ少し入った、まだちょっと明るい所まで来ました。綺麗に咲いている野草の花を幾つか折りまして、ポツンと置かれた石の前に供えます。


「何してるの、巫女さん?」


「死んだ弟と妹にご挨拶です」


 レオン君も半ズボンのポケットの中から何かを出して石の上に置きます。

 おやつの木の実です。ありがとうございます。


 弟よ、妹よ、ナタリアが早く元気になるように、あなた達も天から祈ってください。彼女は家族の全員を亡くされました。だから、代わりにならないかもしれませんが、私たちの家族の一員として彼女を招きましょう。



 さて、帰りますよ。神妙な顔付きのアデリーナ様が道すがら私に問います。


「メリナさん、あなたも死者を敬うという気持ちをお持ちだったので御座いますね?」


 何を仰る。もちろんでしょ。


「アデリーナ様がお亡くなりになった場合もお供えしますよ」


「嫌な仮定で御座いますね」


「お酒をたくさん墓に掛けて差し上げます」


 あっ、勿体無いので二、三滴で宜しいですよね。残りは私が頂いて、弔いと致しましょう。



 帰り道はちょっと変えまして、小麦畑に寄りました。お父さんがいるはずですから。

 って、居ました。お母さんと一緒です。日除けの麦わら帽子がとてもお父さんらしくて、お似合いです。


 近付く私に気付いて、声を掛けてくれました。


「おぉ! メリナ! 帰ってきたか!」


 健康そのものの白い歯を見せながら笑顔で私を出迎える。私も大きく手を振って答えました。


 ちょこっと雑談なんかをしていたのですが、どうもお父さんの視線が不自然です。



「メリナの父ちゃんも、おっぱい姉ちゃんのおっぱい、スゲーと思ってんな!」


 レオン君の一声でお父さんの笑顔が凍りつきました。

 ほう、そういうことですか……。

 久々に会った実の娘より、その連れの胸の谷間か。


「ち、違うぞ、ルー。俺は見てない。一切見てないぞ」


「えぇ、分かっていますよ」


 って言いつつも、お母さんはお父さんの耳を引っ張りながら、家へと連行していきます。



「メリナ。ノノン村は任せなさいね。あなたは、あなたのしたい事をやりなさい。では、またね」


 途中で振り返ったお母さんは私に言いました。


 私も手を振りながら、今回はちゃんとお別れの挨拶も致しました。

 そして、進みたい道を進めというお母さんの言葉に従って、私は立派なパン職人になると心に誓ったのです。


「では、名残惜しいとは思いますが戻りましょうか、メリナさん。急がないと日が暮れますし」


 その通りですね。夜の森は半端なく危険ですので、急ぎましょう。




「アデリーナさん、巫女さんの村ね、違和感なかった? 私、ちょっとセンシティブかな」


「植生がこちらの森とは違っておりました。以前にラナイの村長から森を抜けた先に開拓村があると耳にしておりましたが、ノノン村の奥にも森が見えました。あの辺りで、地の魔力の質が変わっている、そんな推測をしましたが、どうでしょうか?」


「んー、そうなのかな……」

 


 小難しい話なので私は参加しません。歩きながら、道端に生えている草に名前を付ける遊びをしましょう。


 はい、この茎の途中が不自然に双つ膨らんだ奴はシェラ草ですね。巨乳な感じで、お上品な黄色い花なのも彼女っぽいです。で、あっちの背高くて、鋭い刺みたいな葉っぱを持っているのはアシュリン草にしましょう。


 あっ、凄い。花弁で虫を捕らえる草を発見! パクって動きました。こっちをアシュリン草にしましょう。さっきの背が高いのは、どうしよう。んー、マンデル草でいいや。


 あっ、マンデルのおっさんも戦争に参加するのかな。変態だけど有能な下っ端だから、最前線候補よね。無駄死にしなければ、良いのだけど……。奥さんと息子がいるとか言ってたし。



「メリナさん、妙な顔をして、どうしましたか?」


「あっ、アデリーナ様。あの草をたった今アデリーナ草と名付けたのですが、宜しいですか?」


 トゲトゲがいっぱいで、自由自在に根っこの足で動いています。草なのに歩行するという点が、王家の異端児ぽいアデリーナ様に似ていると思ったのです。

 他の特徴としては、お花の部分には口があって、多肉な舌がだらしなく、鋭い歯の上から垂れています。明らかに肉食でしょうね。やはり異質な植物ですよ。


「何を仰ってるの? 明らかに化け物でしょ。焼き払いなさい」


「えっ、でも、アデリーナ草ですよ。アデリーナ様を焼くみたいで気持ち悪いです」


「はあ? じゃあ、あれの名前はメリナ草にします」


 言い終えると同時にアデリーナ様は矢を放って、アデリーナ草を正確に射貫きました。ポタッと花を付けたままの茎が無惨にも地に落ちました。


 満足そうなお顔のアデリーナ様です。とても悪趣味です。


「アデリーナ草、死にましたね」


「メリナ草で御座いますよ」


「どっちも強情ね。もうすぐ日が暮れるんだから、アーリーよ」



 何だかんだで、コッテン村には夕方には到着しました。残念ながら魔族フロンは発見できずです。

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