人生の岐路です
アシュリンさんが謎の攻撃でぶっ飛ばしたミミズは動きません。しかし、念には念です。
「ルッカさん、今の間にミミズを切り刻んで下さいっ! 横でなくて縦にお願いします!」
あいつらはすぐに再生するのです。切って切って切りまくって短くしても、何故か新しい頭が末端に出来ます。
それも不思議なことに切断された体の内、その時点で一番長いものが選択されるようなのです。だから、短くて動かないと思っても油断してはいけません。死体だと思ってたら、突然、頭が出現して食われてしまいます。
それを防ぐには、ぐちゃぐちゃに潰すか、縦に切るのが一番です。
その辺の事情をルッカさんに伝えました。
「動かない物を切り刻むとか、悪趣味ね。でも、仕方ないわ。オッケーよ」
よし、これで、あと一匹ですね。
と思っていたら、オロ部長がまた村の入り口の方に見えました。
部長の胴体が太くなっています。
……もうお腹の中にミミズがいらっしゃる?
部長が手招きするので近寄ると、メモを貰いました。
″美味しかったです。もっといないかな?″
部長の傍に大きな穴が地面に出来ておりまして、恐らくは地中で見えない戦闘、いえ、捕食行動があったのでしょう。
……凄いです。やっぱりオロ部長はお強い!
″ちょっと探してきますね″
部長は穴に消えました……。
残った四人で集まります。ルッカさんは肌が所々爛れた感じですね。シミみたいになっていますよ。ミミズを切るときに体液を被ったのでしょう。
くふふ、そのお姿で聖竜様にお会いされて幻滅されるが宜しくてよ。
「巫女さん、なかなか治らないんだけど、これ? 私、とてもアンハッピー」
「そうなんですか。不思議ですね」
「メリナさん、ちゃんと治して差し上げなさい。終わればお食事にしますから」
はい。お腹、空いてます!
ちゃちゃとルッカさんに回復魔法を掛けてやりました。
氷の上に座るのはとても冷たくて、風邪を引いてしまうかもしれないので、村外れの大きな一本木の下で頂きます。
いっぱいのパンが並べてありますよ。細長いのとか、捻れているのとか様々です! 王家の人のパン、とても私の胃袋を刺激しますです!!
食しながら、アデリーナ様は語らいます。シェラならお食事中に言葉を発するなんて最低限しかないのに、この人は違うんですね。
「ざっと見た感じ、少しの補修で住める家屋もありますし、使えそうな村ですね。適当に人を置きましょう。この後はフロンの探索にしますね」
その魔族に拘りますね。
見付け次第に頭を粉砕させて貰いますよ。
「アデリーナさん、ここに人を置くということは王都の軍の犠牲になるんじゃないの。私、アンクシャス」
アンクシャスの意味が分からないけど、危惧していると言うことでしょうか。確かに此処は一般の人が住むには適していないと思うのです。さっきみたいに普通に魔物が出てきますよ。
私の家で見付けた骸骨も、襲われて家に閉じ籠った所を毒か魔法で殺されたって感じがするのです。
「大丈夫ですよ。敵兵が来てもアシュリンやデュランのコリーさんに守ってもらいましょう。魔物に関してはカトリーヌさんが全て食すでしょう」
オロ部長、凄いな。確かに部長がいれば万事解決という気がします。
「任せるが良いっ!」
アシュリンさんも気合い十分です。頼もしい限りです。でも、王都側にもお強い人はいらっしゃると思うのです。慢心は良くないとメリナは思います。
「アデリーナ様、お母さんに来てもらいましょうか? 何なら村人役も本物の村人をノノン村からご用意しても宜しいかと」
私の提案にアデリーナ様は黙って考えられます。
「メリナさんの心遣い、大変に有り難い話です。しかし、当人の方々のご意思が前提となります。ですので、私もノノン村をご訪問致して協力頂けるかお訊きしましょう」
ということで、私とアデリーナ様で里帰りとなりました。ナタリアさんがお元気かどうかも気になりますしね。
ルッカさんも興味があるということでご同行です。期待に沿えず何の変哲もない村ですが、私、ご案内致しますよ。
さて、新しいパンを頂きましょう。先程のはお上品な舌触りでしたし、適度な塩味も美味しかったです。
次はこの珍しい丸っこいパンにしましょう。少なくとも私はこんな形のを見たことがありませんよ。
がぶりと頂戴します。
表面はサクサク、中はモチモチの生地ですね。
!?
中にパンじゃないのが入ってる!?
「ア、アデリーナ様! 肉です! 挽き肉がパンに埋まってました!!」
「えぇ、肉包みパンですから、そうでしょうね。最近、流行っているのよ」
何それ!?
パンとお肉がご結婚されているのですか!?
いえ、肉をパンで挟むのは聖夜の屋台とか、ガランガドーさんと出会った後の巫女長様からの差し入れで知っていました。でも、この挽き肉の味付けといい、油の適度さといい、絶品で御座いますっ!!
旨すぎですっ!
王家の人、こんな美味しくて画期的な物を口にされているのですかっ!?
悔しいです! 羨ましいです!
「このメリナ、聖竜様とお逢いさせて頂いて以来の人生の岐路に来たようです」
「はぁ? メリナさん、何を仰っておられるの?」
「アデリーナ、メリナは常にこんな感じだぞっ!」
「いえ、そうで御座いますけど」
否定はして下さい、アデリーナ様。
「このパンはどこで手に入れられるのですか? 今すぐ買い占めに参ります」
「ほら、いつも以上におかしくない?」
「いつも通りだろ」
「えぇ、私もいつもの巫女さんだと思うよ」
「お教えしても構わないのですけど、何故に人生の岐路なので御座いますか?」
ありがとうございます。私は真剣な眼差しを見せる。
「私、このパンを毎日食べたいんです! 最高の逸品を!」
「ん? 話が掴めないですね。まぁ、宜しいです。シャールでも買えますが、本場は王都です。王都にあるシャルマンの焼きたてパン屋のものが一番有名ですし、美味だと思いますよ。でも、やはり高価で御座いますから、メリナさんには……」
金なら有ります!
指で押し曲げたり、千切ったりして遊ぶくらいには持っております!
「分かりました。ありがとうございます。王都にあるシャルマンの焼きたてパン屋さんですね」
「どうする気なの、巫女さん?」
「買いに行きますっ!」
「戦争が起きようとしていますのよ、メリナさん? しかも、その王都と。停戦後ということで御座いますか?」
そんなに待てませんよ! それに人生の岐路なのです!
「神殿を辞めて、そこのパン屋で修行したいです!!」
「「はあ!?」」
アシュリンさん以外の方が素っ頓狂な声を上げられました。




