コッテン村について
食事が終わってからルッカさんと一緒にアデリーナ様のお部屋を訪問致しました。
この豪華な部屋ももう見慣れた感じです。陳列されているお酒様の種類が一部変わっていることも分かるくらいですよ。グラスの場所も把握しています。
お金持ちに変身した今の私なら、アデリーナ様から買い取れるのでは無いでしょうか。
あっ。でも、一番最初に貰ったお酒はトンでもなく高価だったような気がします。
「簡単な話で御座います」
アデリーナ様の第一声はこうでした。しかし、私は分かっています。今から無理難題を言う枕詞だと。
「ロクサーナ様とお話をしまして、戦争を止めるには王を説得するしかないとなりました」
それ以外には何があったのでしょうか。しかも、こちらから戦争を煽った気がします。
「こちらにはメリナさんという戦略兵器があるとロクサーナ様はご判断されていました。王都に送り込んで脅迫させたいとの意思もお持ちでした」
はあ? 私、王様を脅すので御座いますか!?
「無理ですよ! そもそも小娘の言葉なんか、王様は無視ですよ!」
「そうでしょうね。……しかし、ロクサーナ様はリアリストです。メリナさんが怖気付くと思われて、既に手を打たれていました」
アデリーナ様はグラスを出す為に背を向けながら言います。
「王都側にノノン村の場所をリークしていました。メリナさんの出身地に王都の軍隊を送り込ませ、村を焼かせるおつもりです。その結果、逆上したメリナさんは王都に憎しみを持つであろうと」
なっ! あのお婆さん、姿と違ってかなりの非道ですっ!!
真っ先にあいつを殺してやります! 今から行きますっ!!!
私が立ち上がった所をルッカさんが手を握って押し止めました。
貴様から死ぬかっ!!?
「巫女さん、待ちなさい。ウェイトよ。アデリーナさんの話を最後まで聞きなさい」
「村にはお母さんがいるのに、そんな事させません!」
……あっ、お母さんがいるから絶対に大丈夫ですね。村は安泰です。全てを撃退してくれるでしょう。
村を危険に曝された怒りで頭に血が昇り過ぎましたね。許してはいけないという感情は残りますが、最終的に勝つための手段の案としては理解できない事もないです。
「アデリーナさんは核心的な所を巫女さんにバラしたのね。私、サプライズド」
「えぇ、ロクサーナ様はメリナさんを甘く見過ぎています。黙ったままで実行されたら、私の身もメリナさんに破滅させられてしまいますわ」
えぇ、仮にそのまま村が滅ぼされていたら、しかも、アデリーナ様がその作戦を隠していたのなら、間違いなく殺していたはずですね。
「ノノン村の場所については王国の公式地図にも載っていないので、私の方から補足させて頂きました。ラナイ村近くの森に一本の道が出来ており、それがノノン村に続いているはずですと伝えています。先日、メリナさんが作った物で御座いますね」
私がナタリアさんを村に連れて行く為に魔法で開いた道ですね。
「私としてはメリナさんのご家族が犠牲になられるのは忍びないです。また、ナタリアさんを保護している場所でもありまして、私としても不本意で御座います」
グラスにトクトクとお酒を注がれました。二つだけです。私の前には水が置いてあります。
「ロクサーナ様は王都からノノン村までのルートについては防御線の外側とされています。ラナイ村については見捨てられました」
あぁ、あの村長も終わりですか。
でも、村には……小さな子供も何人かいたな……。
「人間らしい発想ね。とてもクレイジー」
うーん、魔族が言うと違和感あります。が、それだけ残酷と言うことでしょう。
「なので、私はコッテン村という架空の村を別に作ろうかと思います」
「何ですか、それ?」
「メリナさん、お忘れですか? ラナイ村でトリナーノ家の者に出鱈目を仰ったでしょ?」
あぁ! 誰だと訊かれて適当に嘘を付いてました!
それがコッテン村でしたか。コッテン村だったかはもう不確かですが、そんな事が有りましたよ! でも、シェラという偽名も使ったと思います。
「シュバイル・トリナーノは間違いなく、ラナイ村で投降します。領地と自身の命を守るためですね。彼は夜会でコッテン村のシェラがメリナという名の聖衣の巫女であった事にも気付いているはずです。なので、コッテン村を作り、そこに敵を誘き寄せ、私達で無力化します」
あの人の名前とかよく覚えていますね。アデリーナ様は細かい性格なのでしょう。
「それでラナイ村も救われますか?」
「ラナイ村に関しては、何もしなくても大丈夫でしょう。戦が終わるまでは、逆に丁重な扱いを受けます。他の村にもシャール側から寝返って欲しいでしょうからね」
それなら良かったです。戦争を止めるとか言いながら、壊滅した村があるなら意味が無いですからね。
「アデリーナ様、ノノン村は絶対に安全です。私の母がいます。あの人が負けるなら、シャールも間違いなく陥落します。私達の行動など無駄です」
「メリナさん、世の中に絶対というものは存在しないのですよ。コッテン村も用意致します」
うーん、仕方無いです。それに、確かに村の人達に迷惑が掛かるのは良くないことですね。
「分かりました。宜しくお願い致します」
「アデリーナさん、私は細かい地名が分からないのだけど、ラナイとかノノンとか、どこらに有るのよ?」
私はシャールから見て東南方向の小麦畑が広がる地域の端っこにラナイ村が、そして、そこに隣接する大きな森を抜けた所にノノン村があるとお伝えしました。
「あぁ、あの辺ね。ミラクルよ。私、あそこで魔力を回復させたの」
確か、エルバ部長が魔力が噴出する所があると言っていましたね。部長の頭に蹴りを入れたのです。懐かしいです。
「少しだけラナイ村から外れた所にある森の中ですか?」
「んー、少しだけではないかな。丁度、野良の魔族がいたから血を吸わせて貰ったの。本当にラッキー」
ん? 魔族?
……あいつか?
「女性で御座いますか?」
お酒を飲む手を止めて、アデリーナ様がお尋ねされました。
「えぇ、若い女の格好で、ファルと名乗ってたわ。いきなり顔を近付ける感じでもたれ掛かられて、ビックリしたわ。でも、ラッキー。私は無防備な首筋から血を飲んだの。デリシャス。やっぱり魔族はデリシャスなのよ」
共食い……。いえ、魔族にも色々あるから、それには当てはまらないのかもしれませんが。
しかし、それはフロンで間違いないでしょう。
「だから、予定よりも早く魔力が回復したのよ。うふふ」




