計算
私は寮の部屋で金貨を並べて満悦しております。
魔物駆除殲滅部の部屋に行ったら、アシュリンさんもルッカさんもおられなかったのです。だから、アシュリンさんの分のお給金を机の上に置いて、寮の自室に戻りました。
勤務を怠けたのではないのですよ。そう、これは自習。算数を学ぶのですよ。うふふ。
あんな薄汚い小部屋では能率が悪いのです。だから、柔らかいベッドの上で寝転びながらゆっくりとですね。
金貨が一枚、二枚、三枚……………これで千枚。
うふふ、千枚。十ずつが百個集まって千枚。
白いシーツの上に黄金がいっぱい。壮観ですね。
こちらの金貨の山には475枚があって、こっちに831枚あります。差し引き、何枚でしょうか!?
メリナ、分かります。即答ですよ。
356枚です。合っているか、数えましょうね、くふふふ。
あぁ、指の油が付いてしまいました。
キュッキュッしましょうね、可愛いゴールド達よ。私は上掛け布団で擦ります。
あっ、金箔って作れるのかな。
一枚勿体無いですが、やってみましょう。
私は一枚を指に挟んで押し潰す。ぶにゅーと延びました。石とは違いますね。
それをベッド横のランプテーブルに置きます。そして、激しく拳で叩きます。
おぉ、ドンドン延びていきますよ! どこまで広がられるのですかっ!
適当に千切って、更に叩きます。何回か千切っては叩いてを繰り返しましたが、うーん、紙みたいになる前に切れてしまいますね。割れるって表現する程は厚くなく、裂けると言える程には薄くない。
ですが、こんな物でしょうね。金箔は出来ませんでした、と。
そうだ! これを粉々にすれば金粉になるのかな。んー、分からないです。そんな時は実行有るのみですよね。
はい、出来ました! ちょっとザラザラするけど、素人にはこれで十分としましょう。
私はそれをマリールから貰っていた小瓶に入れます。
美しい……。この金粉を聖衣の巫女お手製として売れば、更にお金が増える予感がしますの……。
ゴクリと喉が鳴った音で、我に返りました。
危なかったです。聖竜様を間接的にでも利用して儲けるなんて許されない事です。
さてさて、正気になるのですよ。
途中で出てきた余り物は…………捨てるのは忍びない。いつもの皮袋に入れましょう。
この中には聖竜様の所へ二度目に行った時の服が入っております。存分に匂ってから、金貨を延ばした物とか欠片を入れます。
素晴らしい袋が出来上がって来ましたね。私の宝物入れですよ!
夕方くらいにマリールが戻ってきました。金箔の作り方を尋ねますと、「金に銀と銅を混ぜると延び易くなるよ」と答えを貰いました。
銀貨と銅貨も必要だったのですか……。早速、それをグチャグチャにして混ぜてみました。
「信じられない怪力……」
呆れた顔をされました。どうも銀と銅の比率も決まっているようで少しの量で良かったようです。
ごめんなさい、お母さん。折角貰った銀貨を無駄にしてしまいました。このぐねぐねになった元金貨も宝物入れに収納致します。
しばらくして、シェラも帰って来ました。
相変わらず、胸の所がすっごく伸びた巫女服を着ています。アシュリンさんが構えた時と同じ様にびよーん、びよーんですね。
「シェラ、そろそろ竜の舞のお披露目なんじゃない?」
マリールが訊きます。そう言えば、結婚退職されるルーシア様から引き継ぎをしておるのでしたね。
「そうですね。ただ、ルーシア様のご結婚が延期になるかもしれなくて、私としては時間の余裕が出来て、喜んではいけないのですが、少しほっとしております」
「えっ、そうなの? ルーシア様はハッシュ伯爵家の方でしょ? 家格は十分だと思うけど」
「えぇ、ただシャールを取り巻く状況が少し以前と変わっておりまして、移動も含めますと危険と言いますか……」
シェラは言葉を選んでましたが、戦争になりつつある件でしょうか。
そんな思いを抱いた私を見て、シェラは続けました。
「メリナさん、心配ですか。ルーシア様ももう少し神殿で過ごせる事を聖竜様に感謝されていました」
そうですか。んー、そうなのかな。
「でも、シェラは踊るんでしょ? 仕事がなければ、見に行くよ」
マリールに続けて私も言います。
「私も暇なら見に行きます!」
ほぼ毎日が暇だということは、二人には秘密です。
そこで扉がノックされました。
アデリーナか!?
この団欒を邪魔しに来たのか。それともお金の臭いに敏感なのか!
「どうぞ。ご遠慮なさらず」
シェラが答えました。私はドキドキしております。
扉の向こうはルッカさんでした。脱力ですよ。良かったです。聖竜様に感謝致します。
「誰よ? おばさん」
攻撃的なマリールは久々です。シェラには負けていますが、ナイスバディなルッカさんに敵対心がふつふつと湧き出たのでしょう。
「お、おばさんって!? 私、15歳なんだよ」
ルッカさん、サバを読み過ぎで御座いますよ。計算を誤っておりますよ。
どう見ても20代半ばか後半です。お肌の曲がり角を越えられています、明らかに!
「はぁ? メリナと同い年のはずがないわよ。頭がおかしいでしょ、おばさん」
マリールのご遠慮が有りません!
「ルッカさん、15は無理です。24くらいならまだ望みが……」
私、的確なアドナイスを伝えました。
「えー、アンビリバボーよ。比べてよ! ほら、巫女さんの肌と少ししか艶とか変わらないって思うの!?」
そうかな。確かに肌はお綺麗ですよ。でも、若くはないんですよ。何て言うか煌めきがないというか……。
「メリナ、このおばさんと知り合いなの?」
「えぇ。最初は牢屋でお会いしました。今日から巫女見習いです」
「犯罪者かよ。きっと詐欺師だね。世も末よ、そんなのが巫女見習いだなんて」
えぇ、少なくとも年齢詐称ですよね。
「でも、この人をアデリーナ様はお母様と呼んでいました」
「!?」
マリール、顔が真っ青になられました。初日に絞られたのを思い出したのでしょう。
「もちろん、違いますよ」
「だ、だよね。悪い冗談は止めてよ」
「臭いがお母さんっぽいのです」
「それは止めてっ! シャラップよ。……ずっと気になってるんだから」
私もそんな事を指摘されたら非常に辛く感じるでしょう。
しかし、15とは。明晰だと思っていたルッカさんがバレバレの嘘を付くには、それなりの事情があるのでしょう。
「皆さん、失礼ですよ。ルッカさんで御座いましたか? 私はシェラで、そちらがマリールです。今日はどんなご用件でご訪問を?」
「そう、私はルッカ。今日からこの部屋で寝泊まりするから、宜しくね。あと、あなたのバスト凄いわね。なかなか見ないわ。モンスター級よ」
ルッカさん、驚いたのは分かりますが、素直すぎるコメントです。ほら、シェラも黙ってしまったじゃないですか。




