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観戦です

 さて、どちらから仕掛けるのでしょうか。

 私はベンチに座ってゆっくり見物です。



 アシュリンさんは前後に足を開いた構えで、例の如く、巫女服のスカートの部分がびよーんと伸びています。足技は使えないでしょう。

 対するルッカさんは右手に棒をぶらーんと持っています。構えてなくて、棒だけに棒立ちなんでしょうか。



 しばらく動きが無い中、アシュリンさんが口を開きます。


「素人か? 土下座をすれば許してやろう」


「うふふ、あなたがするのよ」


 んー、どちらも跪いている姿を想像できませんね。ルッカさんも昨晩の刺客との戦闘で、見事な剣技を見せていたのを私は覚えています。


 あぁ、飲み物とかお菓子とか欲しいです。二人の対戦をより楽しんで観戦できるのになぁ。



 先に動いたのはアシュリンさんでした。


 真っ直ぐに踏み込んでの正拳突き。鋭い動きですが、剣士を前にしての行動にしては無謀だと思いました。

 しかも、左手です。アシュリンさんは腕を引いているので、脇腹に隙が有りまくりで御座いますよ。


 ……アシュリンさんと戦闘経験がある私なら、それは誘いと判断しますね。

 が、ルッカさんは違います。可哀想に初見です。



 無造作に棒を持った右手で横に薙ぎました。アシュリンの胴を狙っての鋭い一撃。剣であれば切断したかもしれませんが、それは落ちていた只の木の棒です。棒ってゆーか、太めの枝です。

 でも、枝が光っていました。魔力で耐久力を上げたのでしょうか。一撃で伸せる自信をお持ちなのでしょう。


 もしかしたら、これは期待できますかね。アシュリンに深いダメージを与えられるかもしれません。


 と思ったのですが、折れました。そんなものでアシュリンさんは止まりませんよね。



 打たれた事を感じていないかの如く、アシュリンさんは腕を突き出します。

 当たった先はルッカさんの右肩の肩甲骨と鎖骨が繋がる関節の所。あそこ、痛いんですよね。

 狙いが頭じゃなかったので、アシュリンさんは本気では無いのでしょう。


 しかし、それも私の思い違いでした。

 そこはアシュリンさん。やっぱり体勢を崩したルッカさんに追い討ちを掛けました。体の右を押されて斜め前に出たルッカさんの左側頭部を撃ち抜きます。容赦ないですね。

 あれ、普通の人なら死んでますよ。いえ、一番最初の首折りパンチで天国に行ってましたね。



「なかなかタフじゃないかっ!」


 地面に頭から叩き付けられたルッカさんを見下ろしながら、アシュリンさんはご満悦です。


「………いつの間にか巫女さんはモンスターしかいなくなったのね。クレイジーよ」


 地に沈んでいますが、あなたこそ、正真正銘の化け物でしょうに。


「ガハハ、まだ戦えるのか?」


「私、まだ良いところを見せてないのよ」



 ルッカさんはゆっくり、スーと立ち上がりました。何て言うか重力を無視していまして、倒れた棒がそのまま直立する様な、不自然な起き上がり方です。浮遊魔法の応用でしょうか。


「ほう、魔法剣士かっ!?」


 違います。アシュリンさん、そいつ魔族です。矢が何本も顔を貫通しても平気な化け物です。



「メリナに続いての即戦力だな!」


 アシュリンさんは嬉しそうですが、一方のルッカさんは魔法詠唱を始めましたよ。


『我は願う、その冥き途を往く獅子に。舞い遊ぶ花唇は戦渦を惹起せん。辺陲まで吹き荒ぶ濡れ烏の羽音は鬼魅の風塵』


 比較的短い詠唱句でした。ルッカさん的には途中で邪魔されることを予想したのでしょう。しかし、多分、アシュリンさんは唱えさせて実力を計ろうとしています。


 

 ルッカさんが前に出した手から黒い風が溢れて来ました。細かくて固い小石みたいな物がたくさん混じって飛んできておりまして、関係の無い私にも当たります。

 非常に不愉快です。顔が痛いです。目を瞑らざるを得ません。


 でも、これではアシュリンには通用しないですよ。



「貴様っ! 神殿にゴミをばら蒔くなっ!!」


 踏み荒らすのは良いのかとか思いましたが、アシュリンさん的には叫ぶ事が出来れば、何でも良いのでしょう。


 強風を無視してアシュリンさんが踏み込みます。半目で見ているので、あんまりよく見えませんが。


 ルッカさんは顔面、それも鼻の上からアシュリンさんの全力っぽい殴打を受けます。

 ……私、知ってますよ、あれは並大抵の人では受けきれるものではないです。グレッグさんなら、100人並んでいても全員ドミノの様に倒れます、きっと。


 なのに、ルッカさんは立ったまま。本当にタフです。不意打ちでなければ、倒れない体なのでしょうか。そういう魔法でしょうか。



 ……風音で聞こえにくい中、彼女の声がうっすらと耳に入りました。唇が動いています。



「………ナハラワナユ………ヤミナタ………スヤナ………ナサナムガ………ラ。ラベルァラ………ニカサ………ハタァヤナヤカ……」


 あっ、お母さんと一緒のヤツ………かな。意味の分からない詠唱句だ。

 ちょっと危険かもしれませんね、アシュリンさん。



 地面に魔法陣が浮き出ました。黒色です。輝いていません。むしろ引きずり込まれそうな印象が有ります。



「ふう、久々よ。疲れた――えっ」


 ダメでしたね、ルッカさん。

 アシュリンさんは既に後ろです。すっごく速い動きでしたが、魔法が完成する直前にアシュリンさんは抜け出ていました。


 そのまま、背に強烈な一撃を受けたルッカさんは前向けに倒れてしまいました。

 ここまでですね。戦闘終了でしょう。



「ふん、なかなかやるじゃないかっ!」


「………まだ体が鈍っているのよ。次はヴィクトリーよ」



 ルッカさんも敗けを認めた様子ですが、本当にタフです。アシュリンさんの打撃でも骨折とか無いんですね。


 耐久戦だとアシュリンさんよりも強いかもしれない。いや、でも、アシュリンさんは蟻猿騒ぎの時に、一晩走り続けた実績がありますか。

 うーん、でも、命の取り合いだと、どうすれば死ぬのか分からないルッカさんの方が有利かなぁ。


 私やコリーさんの火炎魔法ではよくお燃えでしたので、そっち方向で戦うべきなんでしょう。

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