新人隊員
戦争を止めると聖竜様に宣言はしたものの、どうしたら良いのでしょうか。昨日はアシュリンが去った小屋で考えていましたが、王様を抹殺するくらいしか思い付きませんでした。
あと、シャール側のカードは私だけでなく、アデリーナ様を王都側に差し出す手もあるんじゃないかと気付きました。
だって、アデリーナ様、王都への報告係とか言う人達を排除したのです。多分、アデリーナ様にとって報告されて都合が悪い事があるから。つまり、彼らはアデリーナ様の監視だったんですよね。
……もしかしたら、私よりもロクサーナ様にとっては良いカードになるのでは無いでしょうか?
扉を開けたら、今日も朝からアシュリンがいました。
「メリナ! 喜べ、魔物駆除殲滅部に新たな隊員が配属されるぞっ!」
隊員って。そこは普通に部員で良いのでは無いでしょうか?
しかし、嬉しいです。
「本当ですか!? もう洗濯とか掃除とかしなくて良いのですか?」
「貴様っ! それを取り上げられたら、貴様の仕事がほぼ無くなるぞっ!」
それでも良いですね。私はのんびり毎日、お茶を飲んで過ごします。あと、たまに石を砕きます。
「副神殿長殿の最終確認で変更も有り得るが、後で迎えに行く。貴様も来るかっ!?」
「はい。是非とも!」
私だけで迎えに行った方が良いのではと心の奥で強く思いました。
「今日で丁度メリナが来て一ヶ月だな! 給金も支給される。序でに本部で受けとるぞっ!」
おぉ、戦争が近づきつつ有りますが、私の日常は素晴らしいものになりそうです。何を買いましょうか。やはりパジャマ、いえ、化粧品ですかね。で、余ったお金でお酒とお料理と、あっ、鞄が欲しいです。
私、ずっと布袋ですが、肩掛けの皮鞄がいいですね。
靴下だ! いや、これはゾビアス商店に言えば支給して貰えるのかな。
新しい本も欲しいな。村から持ってきたのも繰り返し読んでいるけど、もう暗記できるくらいになってるし。
イヤッホーーー!!! 夢が広がりまくりで御座いますよ!
「私、先に行ってますね!」
「おい、待――」
アシュリンさんの声は扉を閉めたバタンという音で消されました。
嬉しいですね。お給金と後輩です。向かう足が凄く軽やかですよ。
副神殿長の部屋は覚えています。確かあそこには窓があったはずです。
私はそこから覗きます。
今回も三人ですね。
左の子は眼鏡ですね。はい、経理部です。そんなイメージです。
真ん中の子は、あっ、シェラ程ではないですが、胸が大きいです。うーん、礼拝部、いえ、ここは参拝客の案内係でしょう。殿方のリピートを狙いましょう。
で、最後の子は、…………ルッカさんですか。ルッカさんですね。うーん、魔物駆除殲滅部の後輩はルッカさんですかね。相変わらずの派手な服装で御座います。胸元を開けても、ここには女性しかいないんですよ。
ルッカさん、私よりも歳上だしなぁ。後輩って事で良いのかな。んー、彼女がアシュリンさんと仲良くやっていけるのかという疑問もあるなぁ。
窓から聞き耳を立てます。
最初の子は販売部とかいう所に配属となりました。お土産とかを売る所でしょうか。頑張って下さい。
真ん中の子は、清掃部との事です。聞いた事のない部署ですが、色んな所をお掃除されるのですね。
くっ、じゃあ、ルッカさんで確定じゃないですか!? 見た目的にも、実年齢的にもアシュリンよりも歳上ですよ!
オロ部長の年齢次第では最年長じゃないですか!
「メリナ、待てと言っただろっ」
アシュリンの声が後ろからしました。
「聞こえませんでした」
そちらを向くと、巫女服姿のアシュリンがいました。一応、新人に気を使ったのですね。
「ったく、貴様、新人に舐められないようにしろよ」
「勿論です。鉄拳制裁がうちの部署の伝統ですよね」
「そんなつもりはないっ!」
いや、そこは否定してはいけないでしょ。初日の事を覚えていないのですか。
私たちはルッカさんを迎えに行きました。
今回は他の部署の方々と同じタイミングですよ。私の時は一人だけ残されたのです。
「あら、メリナさん。お久しぶり。ご活躍は耳にしています」
副神殿長から声が掛かりました。
「こちらこそ、ご無沙汰していました。副神殿長様はお眼鏡を変えられたのですね」
「あっ、そうなの。これも有名な職人さんが作られてね。フレームのここが――」
「すみません。急ぎますので、ここで失礼致しますね。またお聞かせ頂けると嬉しいです」
ぶった切ってやりました。私、成長していますね。
「あら、そう……。残念だわ。あと、メリナさん、お城での事も伝わって来ています。しばらく身を隠されても神殿は不問に致します」
戦争の事でしょうか。私の身を案じて、その様な事を仰って頂いたのかもしれません。
私は無言でお辞儀してアシュリンさんと部屋を出ました。他の部署や新人さんのいる中でする話ではないと思ったのです。
ルッカさんも付いてきました。
「巫女さん、一緒の部署なのね。これから宜しく。エキサイティングな日々を――」
「黙って付いてこいっ! このクズがっ!」
わぉ、アシュリンさん、怖~い。
新人さん虐めですか。良くないですよ、それ。
「ちょ、アーミー風なの、ここ? あなた、巫女さんとは違った感じで、頭おかしそうね」
巫女さんとは私の事でしょうか。それとも、うーん、アデリーナ様の事でしょうか。
うん、きっと、アデリーナ様ですよ。
「あ? 上司に逆らうかっ!? 返事はイエスマムだっ!」
振り向いたアシュリンが大声を出します。これはあれですか。新人が使えるか試しているヤツですか。
しかし、ルッカさんは入り立ての時の私と違って、かなり擦れた人ですよ。一筋縄では行かないと思うんです。
「あら、こうよ。Yes, ma'am」
ほら、ルッカさんは抵抗します。しかも無駄に発音良いです。異国出身なんでしょうか。
そして、アシュリンさん、これはカッコ悪い! まさか、発音を新人に注意されるとは。
もう今後もイエスマムとは言い難い状況となりましたっ! どうする、アシュリン!?
「私の発音は王都式だから良いのだっっ!!」
ブワンとアシュリンの腕が振るわれます。
そして、ゴガッとルッカさんの額を直撃しました。
腕力で解決です。流石はアシュリンさんです。
あっ、ルッカさんの首が折れた。後ろ方向に直角以上に曲がっております。頭の重さに皮が負けたら血が吹き出しますよ。
……アシュリンさん、手加減を間違えました?
「…………済まない。死んだか?」
……えぇ、済まないですよ、これは。普通の人だったら、アシュリンさんは殺人罪です。
でも、ルッカさんだから大丈夫です。ほら、不自然に頭が持ち上がって、ちゃんと元の位置に戻りましたよ。
「ほう、貴様、化け物かっ!?」
当たりです。そいつは牢屋でも周りを阿鼻叫喚にしてました。
あと、アシュリンさん、少し声が上擦りましたね。ほっとした感情を隠せていませんでしたね。素人をぶち殺したと少し後悔してたでしょ?
「痛いわね! いきなり何をするのよ? 巫女さんでさえ、もう少し気を配るわよ。クレイジーよ」
私を何だと思っておられるのか。
「来い! 相手をしてやるっ!」
アシュリンが構えます。
それにルッカさんも応えます。
「良いわよ。返り討ちね」
ルッカさんの手が光りました。で、それが消えると手に剣を持っているのです。転送魔法でしょうか。
でも、流石に剣は不味いですよ。ということで、私は木の棒というか、枝を拾って渡してあげました。
「何発でお前が沈むか、楽しみだ」
「当たるとでも思っているの? ストゥーピッドね」
二人は対峙します。どちらも真剣な顔ですね。
そして、私は大事な事を思い出しました。お給金を頂くことを忘れておりました。お二人とも早く終わらせてください。




