アシュリンの出自
翌日、私は魔物駆除殲滅部の小屋に向かいました。
戦争を止めないといけないのですが、どうやって止めるかはアデリーナ様が少し考えると言うのです。
敵を全部殺せば良いという私の提案は「それ、戦争するのと何が違うのよ?」と、お二人から全否定されました。
なので、難しい事はアデリーナ様にお任せなのです。でも、私にも何か良い案が出て来る事を期待して、のんびり部屋で考えようかなと思っていました。
昨日と打って変わって、今日は変わらない日常がまた始まりました。シェラもマリールに胸を揉まれてました。聖竜様のご挨拶も勿論あります。ただ、昨日出会ったばかりというのに、少し淡白な感じでした。照れ隠しかな。
私は「次にお会いした時は二人だけの時間をあげる」と言ったルッカさんとの約束が実行されなかった事を伝えました。聖竜様からは『次回に向けて、前向きに検討することを検討してみます』と、とてもポジティブな返答を頂きました。嬉しいです。だから、足取りも軽やかですよ。
着いた小屋の中にヤツがいた。アシュリンです。私のほっぺに屈辱の文字を刻んだヤツっ!
そいつが机に向かって書類を読んでいるのを、扉を開けて直ぐに確認致しました。
不意打ちしてやるか?
いえ、ヤツの事です。絶対に私を誘っているのですよ。もっと油断しているところを狙うべきです。こないだのタイマンでも誘いに乗ってしまって腕を折られたのを忘れていないです。
「おはようございます」
私は礼儀正しいレディーですので、柔らかくご挨拶しますよ。
「あ? 貴様は上司より遅く来て何とも思わないのかっ!?」
何を思えと言うのですか。むしろ、仕事も無いのに毎日来ている事を感謝して貰いたいものです。
「お早いお帰りでしたね。お仕事は終わったのですか? 確か素材狩りだとか」
私は殺意を隠しつつ尋ねます。
「そうだ。今回のコウモリの羽は良いものだ! オロ部長にも確認して頂いた」
またコウモリの羽ですか。何に使うのでしょう。
「骨が折れたぞ! メリナ、感謝しろっ!」
「むしろ、ぶちのめしたいんですけど」
「何だ、まだ根に持っているのか? しつこい性格だと嫁の貰い手に困るぞ」
お、お前に言われたくないわ。
アシュリンこそ、既に花嫁市場で叩き売り状態になっているに違いないでしょう!
しかも、私には聖竜様という絶対的な想い人、いや、人じゃないけど、そんな方がいるのです。
「コウモリの羽は巫女服の素材だ! 昨日取ってきた物をお前の巫女服に仕立てる」
……ん? いえ、こいつの言うことです。
簡単に信じてはいけませんよ。
「前回の物は私の手でも裂く事のできる粗悪品であった! 礼拝部で使うなら兎も角、お前の戦闘スタイルでは困ったことになるであろうという、私の配慮である!」
いや、お気持ちは有り難いんですけど、本当ですかね? あなたに関しては疑心暗鬼になるべきだと思うんですよ。
「ふん、まだ素直になれないか!? 子供だな、貴様は!!」
えぇ、ヌカ喜びを避けたいと思っていますので。
アシュリンは続けます。
「しかし、全力でぶん殴って来いと置き書きはしたが、伯爵の城を破壊するとは思わなんだぞ、グハハハ」
遠くからでも折れているのが見えていますものね。聖竜様には魔法を使ったことを怒られましたが、折れた塔自体は芸術的かもとか思ったんです。寂寥感かな。そういう線で攻めた前衛的な物に見えないこともありません。
「何をぶん殴れって事だったんですか?」
「もちろん、伯爵だろ。あいつはクズだ」
誰かもそんな事を言っていたな。どれだけなんですか、伯爵様。
あの謁見式で目の前に跪いている人かもとか思ったりもしましたが、まさかね……。
「すみません、伯爵様は同期の父親ですので、余り悪く言わないで下さい」
「あぁ。そして、私の伯父だっ!」
はぁ? はぁあ?
なんつった? 私の伯父?
アシュリン、実は貴族なの? 高貴な人だったの?
「……マジで?」
ビックリし過ぎてエルバ部長風になってしまいましたよ。
「あいつはクズだっ! 小さかった私にさえ色目を使うんだぞっ!」
それは相当ですよ。アシュリンさん、あぁ、思わず敬称を付けてしまった、アシュリンの子供の時なんてボーイッシュを通り過ぎてガキ大将でしょう。やばいわ、やばい。伯爵やばい。見境無いわ。
「シェラとは従姉妹関係だったんですね……」
いやぁ、本当に血の繋がりを感じませんね。ここが皆の憧れの竜の神殿だって言うことを忘れていましたよ。貴族の方々も多いんですが、まさかアシュリンも、とは。
だからアデリーナ様と昔から知り合っている様子だったんですね。
「あぁ。私は王都生まれ、王都育ちだから、そいつの事は名前しか知らんがな」
いやぁ、驚きましたよ。さて、本題を伝えましょうか。
「アシュリンさん、再度の決闘を申し込みます。今度は郊外で魔法有りでしませんか?」
ぼっこぼこにしてやりますよ。
「あ? ダメだっ! 今日はアデリーナに呼ばれている。日を改めろ」
そう言うと、アシュリンさんは書類をくしゃって持って出ていかれました。
私は衝撃的な話を聞いたばかりだった事もあって、止めることが出来ませんでした。




