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ロクサーナさんの歴史

 スードワット様は私への咎めをご容赦して下さったようで、その後、すぐにアデリーナ様の部屋へ転移させてくれました。


 一つ分かった事は、何らかの方法で聖竜様は地上を視ておられるのです。つまり、私の露な姿もですよね!

 これは私、自分を磨かないといけませんよ!



 私が決意を新たにする一方、アデリーナ様とルッカさんは話し合っていました。



「シャールとタブラナルはいつ衝突すると思う、アデリーナさん?」


「決戦という意味なら、タブラナルによるシャール領の包囲準備が整うのに一ヶ月」


「シャールの勝ち目は?」


「単独では無いでしょう。しかし、あのロクサーナが勝算のない戦いをすることも無いと思います」



 アデリーナ様が伯爵様のお祖母さんであるロクサーナさんについて教えてくれました。


 ご両親を亡くされたため、若くして女伯爵として家を継がれたロクサーナ様は内政に力を入れられました。


 シャールは大昔から他国にも通じる大きな街道が交錯していまして、また湖による水運も利用できる事もあり、商業が盛んです。


 それをより強化する目的で、伯領における治安を重視され、旅商人を襲う盗賊連中や魔物の類いを退治されました。また、街域での魔法の禁止というのも、この辺りで定められたのです。



「そこの巫女さんは魔法を使い放題になっているけど、いいの?」


「正式な認可があれば使って良いのですが、メリナさんはまだですね。私が使って良いと申した事もありますが、もう諦めてるんじゃないでしょうか。今となってはメリナさんを咎める方もいらっしゃらないでしょうし」


「ほんとクレイジーね」


「その点は私の間違いでもありましたが、あそこまでとは思っていませんでした」


 二人して私を見てきました。ルッカさんも使っていた癖に……。



 続きです。

 目論みは成功し、シャールはより一層栄えました。しかし、ある日、隣国が王国との国境を閉鎖したのです。

 これはシャール側の苛烈な狩りに追われた盗賊や魔物たちがシャールの隣のバンディールだけでなく、更に遠い隣国にまで逃れ、そこで悪さをしていた為でした。それらの流入を止めようという判断なのです。


 しかし、それはシャールにとっては不都合で、通商ルートが変化してシャールが担っていた貨物集積の役割が他都市に移る可能性が出てきました。


 そこで、シャールはそれまでに培った狩りのノウハウと武力を持って隣国を助けることにしました。助力を求められていないにも関わらずです。

 本来なら戦争になってもおかしくないし、シャールと隣国の間にある、王国に属する街バンディールの意思も無視したものでした。


 筋は通らない話だったのですが、ロクサーナ様は陣頭に立ち、悪さをしている者共を制圧されました。更には、盗賊と繋がっているとして、他国の都市を落としたりもされたようです。


 最終的には他国の王から感状を貰う程で、その武威から女獅子と呼ばれるようになったらしいです。



「今はミイラみたいだったけど、昔はイケイケドンドンの戦士だったのかしら?」


「白銀の鎧に身を包まれていたそうです」


「ふーん。女騎士って感じかな? ジャスティスは我に有り的な」


 アデリーナ様はルッカさんの言葉にニヤリとされました。


 証拠はなく、アデリーナ様の推測らしいのですが、盗賊の一部とロクサーナさんはグルだったのではと言うのです。

 

 そして、当時は豊かだったバンディールの富を吸収し、更には隣国への影響力も得たのです。



 数年前にロクサーナ様が病気で倒れた時に、隣国との戦争が起こりました。苦戦の結果、バンディールは中立域とするために治めていた貴族の封の任を解き、王国直轄領となったのです。アデリーナ様の推測では、苛政を敢えて強いて荒れ地にしてしまうのではと言うのです。……住んでいた方々には大変厳しい判断ですね。移住先を作って差し上げれば、まだ宜しいのに。

 あっ。確か、ナタリアが犠牲になっています! グレッグさんもか?



 実質支配下にあったバンディールの利権が無くなった事はシャールには痛手でした。

 だから、シャールには王都への反感があるとアデリーナ様は言います。



「あら、陰謀が得意なタイプだったのね」


「恐らくは、そうで御座います」


「なら、巫女さんが危ないわね」


「そうで御座いますね」


 なっ! どうしてなんでしょうか?



「タブラナルが勝てば、無論、旗印のメリナさんは処刑。シャールが勝っても、その時点で旗印は不要。むしろ、邪魔。適当に理由を付けて処刑」


「よねぇ。巫女さんは庶民だから、お気の毒だけど誰も困らないし。ソーリーね」


「そして、一番高い確率なのが、戦線膠着した際に、メリナさんの処遇をカードにしての交渉で御座います。結果はもちろん――」


「処刑ね」


 ……おぉ、私、かなりまずい状況で御座いましたか? 村に帰った方が宜しいのでしょうか。



「アデリーナさんは?」


「私?」


「メリナさんをカードにするでしょ?」


 ルッカさんの言い方が少し鋭くなりました。


「ふふふ、メリナさんをどうにかするなんて、聖竜様をどうにかするのと同じくらい手が掛かりそうですよ。私が殺されます。だから、裏切りませんよ。いえ、これでは伝わりませんね。私はメリナさんを好ましく思っています。この先も傍にいますよ」


 何と素晴らしい事を聞いたのでしょう。

 私、聖竜様との共通点がもう一個あるみたいですね、うふふ。


「なら、いいのよ。先程の毒ね、あなたがご自分で飲まれたのかなと思ったのよ。正気でなかったとか、事後に言い訳できるように。とてもクレーバー」


「それも良いですね」


 アデリーナ様は笑っていましたが、これ、ルッカさんの言う通りに、何かあった時の保険を掛けてられる気がします。笑顔が軽い感じがしたのです。

 コリーさんもそんな事言っておられましたし。



「何だかんだ言っても、巫女さんを気にされているのよ、スードワット様も。だから、私も気に掛けてるの」


 !!

 そうなのですか!? 最近の聖竜様、少し素っ気ない感じがすると思っていたのですが、そうなのですか!?


「……お二人ともありがとう御座います。私には勿体無い話でした」


 私は涙を流しています。歓喜の涙です。

 聖竜様、聖竜様、あぁ、聖竜様!

 もっと素直に私へ愛を伝えて下さっても宜しいのですよ。



「鬼の目にも涙ですか、メリナさん……」


「アデリーナさんのお優しい言葉に感動したのよ。巫女さんの涙で、私もウルウルしちゃう」

 


 私、今晩は気持ち良く眠れそうです!

 明日の聖竜様とのご挨拶、楽しみですっ!



「巫女さん、泣きながらにんまり笑ってるよ?」


「そういう人で御座いますよ」

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