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人間は儚い

 聖竜様ですよ。聖竜様のお住まいの香りがしますよ。この匂い、大変に香ばしくて癖になりそうですね。


 あっ、アデリーナ様も酔いが覚められたようですね。何でしょう? 転移魔法には酒を抜く力が有るのでしょうか。



「あなたも油断しすぎだったわね。ベリーバッドよ」


「ルッカには助けられました。大変に感謝致します」


 おぉ、べらんべらんだったのに、しっかりとしたお返事ですよ、よく出来ました、アデリーナ様。



 私は嬉しくてアデリーナ様に微笑みかけたのですが、キッと睨まれました。

 それから、拳骨で両側からこめかみをグリグリ、グリグリと締められました。



「い、痛いです! 止めてください、アデリーナ様!」


「はぁ!? メリナさん、あなたのせいで、恥を掻かされましたよ! 誰が友達いないですか!?」


「い、いるのですか?」


「…………いるかもしれないでしょ!」


 それ、いないですよね。あっ、オロ部長がいらっしゃいましたか。



「あぁ、アデリーナ様のお母様、お助け下され~」


 私はルッカさんに助けを求められます。


「くぅ、悔しい! メリナさんごときにからかわれるなんて!」


 おっ、さっきの記憶があったのですね、アデリーナ様。でも、もう痛いので勘弁して下さい。

 非常に苦痛なので、腹に一発、良いパンチを入れてしまいますよ。



「あなた、もう毒は抜けたの?」


 ルッカさんがアデリーナ様にお尋ねされました。


「えぇ。今は大丈夫で御座います。まさか、あそこで毒を盛られるとは思っていませんでした」


 ん? お酒でなく毒?


「そう、良かった。転移魔法ってね、余分な物は転移出来ないのよ。だから、毒とかは抜けた状態で、移動できるの」



 そういう物なのですか。

 ……うんちとかはどうなるんでしょうか。


「……メリナさん、あなたのお考えの事が分かるようになってきましたよ。喋るな」


「えっ、まだ言ってないのに。大きい方とか小さい―――」


 私、アデリーナ様にまたグリグリされました。酷いです。



「恐ろしい毒だったんですね」


 私は側頭部を擦りながらアデリーナ様にお尋ねします。


「えぇ、自分の意思とは関係なく思ったことを喋るなんて。それに段々自分が子供の頃を思い出していくのですよ」


 何のための毒なんですか、それ。


「皆殺しとか、おっぱい欲しいとか、心の叫びにしても程がありますよね」


 またグリグリされました。




 私たちがじゃれあっているのを見届けていらっしゃったのか、静かになったところで重く響く声がしました。


『ルッカよ、よく参ったな。しかし、ここは最も深き聖域。お主と謂えど簡単に立ち入っては困るぞ』


 おぉ、聖竜様、スードワット様です。

 今日もお美しい。とても真っ白ですよ。


 しかし、です! 何故にルッカさんに語り掛けて、私には無いのですかっ!? ジェラシーです!



「ごめんね、スードワット様。この子の毒抜きと、お伝えしたい事があって、ここに転移させて貰ったのよ。シャールと王都タブラナルとで戦争が始まりそうなの」


 ルッカさんの言葉に聖竜様は黙ったままでした。



「それでいいの?」


『すまぬな、ルッカ。我は人間の営みには興味がない』


「2000年前には、その人間を救ったんでしょ?」


『……あの時代には仲間がいた。そやつらの意思だ』


「なら、今も仲間がいるじゃない。私もだし、メリナも」


 聖竜様がじろりと私を見てくれました。ニッコリします。

 でも、特に反応が有りませんでした。



「困ったなぁ」


『ルッカよ、余り人に関与するでない。命短き者の行く末など泡沫の如し。気を病むだけでなかろうか』


 ふむ、私、聖竜様の言い様に若干の不安感を覚えました。……私も人間なのです。命短き者なのです。

 もしかして、私も泡沫の如しと思われてます? 眼中には無いので御座いますでしょうか?


 ルッカさんが憎いです。いえ、魔族が長命であるなら、全ての魔族が憎いです。手がプルプルしてしまいます。



「聖竜様! このメリナ、僭越ながら申し上げます!」


 大声で言ったので、皆の注目を浴びました。聖竜様も私を見てくれたのですよ。やりました。


「私、幼いときに聖竜様に助けて頂きました。とても感謝しています。そのご恩をお返しする時は今ですよね」


『続けるが良い』


 おぉ、優しいお言葉を頂きました!



「私だけじゃないです。聖竜様はマンデルさんの信仰心に対して彼のご家族の病気などをお治しになられました」


 あの変態おっさんであっても。


「きっと人間に対して、そんな投げ槍な気持ちは持たれていないと思うのです。聖竜様はお優しいんです!」


 あれ、何故か、私、涙が出てきそうです。


「私、戦争を止めます! だから、人間を諦めないで下さい!」


 言わないけど、ルッカでなく私を見て下さい。


「人間は儚い生き物ですが、私のように一生懸命、毎日を過ごしています。どうかずっと見ていて欲しいんです!」


 最後に自分をアピールすることを忘れないのよ。聖竜様に見捨てられたと思うと涙が止まりません。



『……メリナよ。その決意、我は尊重しよう』


「よく言ってくれたわ、巫女さん!」


 ルッカさんに髪の毛をグリグリされました。アデリーナ様からの拳骨みたいのじゃなくて撫で撫でしたんですよ。


「じゃあ、スードワット様もメリナに少しは協力するんでしょ? オッケーよね」


『う、うむ。そうなるか』


「言質は貰ったわよ、スードワット様」




『我からメリナに言っておきたい事が一つある』


「はい、何でしょうか?」


 まさかプロポーズって事はないでしょうか。でも、期待してしまいます。


『街域で破滅的な威力の魔法を使うなど言語道断。何のつもりだったのか?』


 うっ、これってスードワット様に責められているのですか? 塔を破壊したことが悪かったのですか?

 しかし、私は真意を知ってもらう必要があります。


「申し訳ありません。ただ、あれは聖竜様への愛がそうさせたのです」

 


『……意味分かんない。ルッカ、説明』


「ハハハ、私も分かんないわよ」


『えー、怖い』

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