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刺客

 私の気持ちを察してくれたのか、ルッカさんがアデリーナ様をお姫様だっこして、外に連れ出してくれました。


 あぁ、ありがとうございます。

 でも、演説の途中で響いたアデリーナ様の奇妙過ぎる笑い声は皆に聞こえているのです。


 その場に一人というのは、非常に居づらいので私も付いていきました。さようなら、お料理達よ。そして、また、いつかお酒様。




 外はもう完全に夜となっていまして、夜風が頬を流すのが心地良いです。そこに誰もいないのは、会場に戻ったからでしょうか、それとも、先に出られた方はもう帰宅されたのでしょうか。

 

 ルッカさんはアデリーナ様を階段に座らせていました。アデリーナ様は頭が上下にこっくりこっくり動いてらっしゃいますので、階段に腰掛けたまま眠っていらっしゃるのですね。



「ルッカさん、どうやってここに来られたのですか?」


「ふぅ……。私ね、空を翔べるのよ。分かる、フライング?」


 さすが魔族です。何でも有りですね。そう言えば、フロンも最後は宙に浮かんでおりました。

 転移魔法も浮遊魔法も無詠唱だったんですよね、あいつ。聖竜様は魔族から獣人になったと言っていましたが、本当にそうだったのでしょうか。いえ、聖竜様を疑うなど、私は凄まじい重罪を犯してしまいました。罰はアレですね、聖竜様の前でずっと正座です。


 でも、フロンは最後も無詠唱の転移でどこかに行ってしまったのですよねぇ……。



「聞いてる、あなた?」


 他事を考えていましたが、私は首を縦に振ります。


「お昼頃にね、いつも通り空を翔んでいたら、シャールの方角からトンでもない火柱が向かって来たのよ。で、慌てて戻って来たら、これって訳。とてもクレイジー」


 私が塔を破壊した時のヤツですね。

 ちょっとだけ手元が狂ったのですよ。いえ、言い換えましょう。私の聖竜様への愛が溢れた結果で御座います。



「さっきのお婆さんの話、意味が分かっている? シャールとタブラナルの街で戦争よ」


 それは、幾らなんでも分かりましたよ。会場にいた人達を鼓舞しておられましたから、これから王都をお攻めになるのでしょう。


「はい」


「どうするのよ!? 戦争なんて不幸な人がいっぱい出るのよ!」


「ギャハハハ、皆殺しよ、皆殺し!!」


 私もルッカさんもビクッとしました。眠っていたはずのアデリーナ様が叫ばれたのですから。

 当のアデリーナ様はまた頭を揺らし始めました。寝言でしょうか、この酔っぱらいめ……。


 

 ルッカさんも物騒に思われたのでしょう。アデリーナ様を抱かれて階段を下り、建物の裏に移動したのです。

 前は壁、後ろは建物といった狭い場所でして、昼間だとしても人目が付かない場所ですね。真っ直ぐな通路みたいになっています。




「ったく、本当にクレイジー。今日は休みなくね。もう来たわよ」


 アデリーナ様を石段に座らせたルッカさんが言います。

 

「何がです?」


「刺客」


 刺客?


「ギャハハハ、どこのかな。伯爵かな、王都かな! 色んな所がこんがらがってます、お母様」


 ちょっ、アデリーナ様。本当にどうされたのですか? 大狂乱じゃないですか。

 メリナ、心配です。明日のお昼御飯は食べられるのでしょうか。

 


「あなた、伯爵にも恨まれているの? もうアンビリバボーよ」


「そんな事ないはずです。無事に謁見式は終わりました」


「謁見? 何があったのよ。本当にクレイ――、あっ、来るわよ!」



 ルッカさんが私の後ろを見ながら言います。


「ルッカさん、そっちにも居ますよ。黒い人」


 お城に入る前の墓場で見た人みたいに黒いローブで体を覆っていまして、夜の闇に溶け込むようでした。



 私とルッカさんは互いに自分が視認した方向に入ります。交差する時に手を出されたので、軽く合わせる感じで叩きます。


「死んじゃダメよ、巫女さん」


「ルッカさんこそ。聖竜様の所に私を連れて行く使命があるのですよ」


 それから、走って敵に向かう。


「ギャハハハ、頑張ってぇ! 粉々にするのですよぉ!」


 陽気なアデリーナ様の声が響きます。……これ、お酒様のせいじゃない気がしてきましたよ。



 動けないアデリーナ様を守るため、私は相手にかなり接近しました。闇に紛れる刺客さんもかなりのスピードで向かって来ていたのですが、音を立てないんですよね。だから、私、距離感を誤りました。



 お互いに腕を伸ばせば届く距離になってしまったのです。驚いたのは向こうも一緒だったようで、一瞬戸惑った様子で、後ろを見ました。


 ……仲間がいる? それとも逃げ道を確認?



 私は氷の魔法を唱えます。

 殴ろうと思っていたのですが、相手の手にナイフがあるのを視界に捉えたんです。逆手に持っていた上に、黒い刃で気付くのに遅れました。


 絶対に毒が塗ってあります。だって、私が武器を使うんだったら、そうするもん。

 で、毒って怖いんです。お母さんが魔獣を狩るのに仕込んだ団子を知らずに食べた時は、気付けば三日も経っていたんです。解毒魔法を使うどころか、毒を摂った事も認知出来ずに倒れたんですよ。



 刺客さんはナイフを持った手を鋭く前に出されましたが、残念。私が張った氷の壁にしこたま拳をぶつける羽目になりました。


 直ぐ様、仕留められなかったと判断した彼は後ろを向いて逃げようとします。


 しかし、しばらく走った先で仰向けに倒れられました。少し前傾姿勢で走っておられたので、おでこを、もう一つの私が出した氷の壁にぶつけられたのですね。


 身動きしない事を確認した後に、私はルッカさんの加勢に入ります。



 ルッカさんは二人を相手にされていました。ルッカさんは牢屋の時と違って、よく見る形の剣を手にしていました。普通の大きさで、普通の両刃のヤツです。


 駆けながら私はルッカさんの力量判断です。うん、すばしっこい連中を懐に入れないだけの技量をルッカさんをお持ちでした。薙いだり、突いたり、いなしたり。

 なかなかの腕前です。グレッグさんの千倍は上手です。


「ルッカさん、救援です!」


「サンキュー」


 しかし、ここは狭くて、私が並んで戦うことは能いません。なのに、敵は前衛と後衛を交互に入れ換える見事なコンビネーションでした。

 ナイフを突き出したかと思えばバク転で後ろに、その瞬間に下から後衛が出てきて、ルッカさんの足を狙うとか。


「一匹、殺しますね」


「ダメ。生捕り。オッケー?」


 ルッカさんが剣を振るいながら、短く言います。


「了解です」



 私は後ろに下がって、魔法を唱えます。

そして、ルッカさんごと、敵を炎の雲に包み込んだのです。


 のた打つ三人。その内、動かなくなったので炎を消しました。


「わぁ、お母様、燃えた。わぁ」


 アデリーナ様の無邪気な声がしました。

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