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跪く

⭐エルバ部長視点


 伯爵による謁見を受けるという事は、シャールの上流階級に迎え入れられるという事。メリナの様な庶民であれば、一代貴族に叙されるようなものだな。

 勿論、本当の爵位の授与なんて王にだけ許された行為だから、メリナが私たちと同じ貴族になる訳ではない。


 伯としては、今話題のメリナの聖衣の巫女としての名声、うーん、名声なのか、まぁ、それを利用しようと言うことであろう。更に、気に入れば、(めかけ)にでもしようとでも思っているに違いない。


 伯だけではないか。他の貴族の男共も同じだ。

 聖衣の巫女を抱いたなんてなったら、仲間内では男が立つんだろう。

 調査部の部下からメリナは酒に弱いと聞いた。酔い潰れて云々って事にはならんように注意してやらんとな。



 謁見の間に着いて、しばらく時間が空いている。私は他の招待客と共に部屋の脇で今日の主人公たちを立って待っているのだ。


 何度か来ているが、流石に古くからの都市シャールの宮殿だな。高い天井にきらびやかな魔法式照明がいくつも並んで、つるっつるの床にその光が反射している。壁を飾る種々の装飾も無論、一流の物を使用している。

 そして、部屋の一番奥、最も高い位置には伯爵が座るための派手な椅子が置かれている。

 メリナは深紅の絨毯を進んで、あの椅子の手前で跪くのだろうか。似合わんな。




「よー、エルバ。久々だな。元気していたか?」


 背が低い私は最前列にいたのだが、横に巨体の男がやって来た。この馴れ馴れしい奴は知っている。元騎兵隊長のヘルマンだな。私の旧友だ。


「あぁ。お前も変わらんようだな」


 体と同じくがっちりした印象を与える顔を見ると、現役引退の元となった古傷がまだ深々と残っていた。片目の上から頬を通って顎まで刃傷が走っている。

 相当な魔剣でヤられたらしく、回復魔法でも治らないらしい。


「まだエルバは結婚していないのか?」


 何を言ってるんだ、こいつは。


「お前な、こんな子供姿のヤツに求婚する変態と一緒になりたいと思うのか? マジで勘弁だぞ」


「カカカ、体だけで結婚する訳ではあるまいさ」


 いや、そうだけど、そうじゃないだろ。



「ヘルマン、お前はどうなんだ?」


「あ? 俺はアレだ。バンディールの戦闘の時にしくじって、不能になったんだよ」

 

 下品な事をおおっぴらに言うヤツだな。

 しかし、バンディールで隣国の捕虜になった連中は壮絶な拷問を受けたと聞いている。

 ヘルマンも苦痛を与えられたのだろう。命が残っただけでも有り難く思うしかないな。



 徐々に謁見の間に人が増え始めた。塔が破壊された恐怖に帰ったヤツもいるだろうが、それでも聖衣の巫女を見てみたいヤツも多いんだろう。



 そんな時、また魔素が激しく乱れるのを感じた!


 メ、メリナかっ!?

 この場にはシャールの街を代表する者共がここに集まっている。それを一網打尽に消滅させようとしているのかっ!!



 私の反応はまたも遅れ、既に術は完成されたらしい。床から白い光が溢れ出す。


 伯爵の縁戚と思われる貴婦人達から悲鳴が上がる。


 ……私は既に覚悟を決めていた。避けることも防ぐことも不可能。さっきの火炎魔法を見れば、誰でもそう思う。



 光が消えても皆、無事だった。


「エルバ、大丈夫だったか?」


 ヘルマンの男らしい声が聞こえた。


「あぁ。聖衣の巫女の悪戯だな」


 隠す必要もないだろう。

 あいつ、城の中で使いやがった。傍にアデリーナや伯爵の従者がいるのも魔力感知した。

 マジ、おかしいだろ。



 ヘルマンが妙に黙っているので、そちらを見るとズボンの中に手を入れて股間を触っていた……。

 まさしく変態だな。死ね。


「生えてる?」


 絶句だな。マジで笑えない冗談だ。

 そういうのは部隊仲間だけの飲み会でやってくれ。


 !?

 ヘルマンの顔の古傷が消えている!



 そこから、謁見の間は大混乱となった。武官を中心にどこそこの傷が消えたと大騒ぎだ。老貴族も腰痛が治ったとか言っている。


 マジヤバ。私、メリナの仕業とか口に出してしまったぞ。いや、すぐにバレるんだから関係ないけど、この場にいる全員が奇跡を体験してしまった……。


 そんなことを仕出かしたヤツが今から謁見で伯爵の庇護下に入るのかよ。



 騒ぎは謁見の間に入る大きな両開きの扉が動いた瞬間に鎮まった。そこから入ってくるのは今日の主役しかいない。私達、招待客は部屋の横にある別の所から入るのだから。



 黒い服に身を包んだ少女は長い黒髪を少しだけ揺らしながらゆっくりと絨毯を進む。

 高貴な石を使ったアクセサリーを身に着けて、今日は珍しく着飾っているな。


 視線は真っ直ぐに部屋の奥だ。それが荘厳さを醸し出し、あいつを知らない連中には、正しく敬虔な巫女に見えるだろう。



 えっ!

 伯爵が座るはずの椅子に座った!?


 何、これ?

 アデリーナも横に来ているから、これで良いのか? 今日はそういう流れ?


 周囲が再びザワザワし出した。


 私はメリナから視線を離せない。一言二言、アデリーナと話した後、メリナは大きく目を見開いて、じっと扉を見る。


 なんだ? 全てを見透かされる気分になるぞ。これが聖竜様に二度もお会いした巫女の本質なのか!



 メリナのいる場所より奥の扉から伯爵が入って来る。


 数歩で止まった。驚愕の表情だ。

 自分が座るはずの所に別の人間がいるんだもんな。

 一つ分かった。これ、演出じゃないぞ。



 その先はアデリーナが仕切った。

 冷たい視線と口調で伯爵をメリナの前で跪かせ、微動だにしないメリナと聖竜に忠誠を誓わせていた。


 ……マジ?

 これ、伯爵の地位を否定しているんだから、王国に対する反逆だよな?


 招待客の何人かは王都の連中と繋がってるんだぞ、マジでどうすんだよ……。

 

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