戦士としては良いが
「メリナ! なんだ、その臭いは!?」
魔物駆除殲滅部の部屋に入った途端、アシュリンさんに怒られた。
突然の事とアシュリンさんの大声に、私はびっくりして立ち尽くす。
「それでは、魔物に気配を知られるではないかっ!!」
知りませんよ。
大体、この部署が何をするところかも聞いてないんですから。
いえ、部署名でおおよそは分かりますけどね。分かりたくないんです。
「同室の方に頂きました。今日はこれを付けて仕事します」
「何を言ってるんだっ!? 今日は実地で研修予定だぞっ!!」
研修内容を先に教えてよ。
私は、立ったままアシュリンさんに尋ねる。
「どういった事を計画されているのですか?」
「貴様がどの程度出来るのか見る予定だった」
要領を得ないなぁ。
「何についてですか?」
「魔物との戦闘だっ!」
なんだ。
「このままで良いですよ」
でも、今から街の外に行っても魔物がいそうな所に向かうとなると、帰りは暗くなってるわね。夕飯が心配。
「くっ、仕方ないな!」
アシュリンさんは机にドカンと座った。
なお、彼女の服は動きやすそうな長ズボンと皮製の上服だ。あの黒服は窮屈だもんね。
あっ、そうだ。マリールとの勝負を思い出した。
「アシュリンさん、ご存じでしょうか?」
「あぁ? 何だ!?」
目付きが怖いですよ。
そんなに香水がダメでしたか?
「あの、巫女さんの黒い服っていつ貰えるんですか? アシュリンさんも昨日着ていた物です」
「見習いが終わってからだな。高価な物だから、途中で辞めるかもしれない人間には支給出来ない」
おぉ、新品で仕立ててくれるのね。
俄然ヤル気が出るわ。
新しい服なんて、いつぶりかしら。
「私はいつ貰えるのでしょうか?」
「私が認めたら、だな。うちの部は辞退率が高いんだ。そうそう簡単には着せられない」
そうでしょうね。
巫女になりに来て、こんなおかしな名前の部署に配属されたら泣いて帰るわよ。
シェラが配属だったら、どうしてたのかしら。
「ここって、何をお仕事にしてるんですか?」
「はぁ!? 貴様、スカウトの際に聞いてないのか!?」
いえ、何も。
というか、紹介状の文字が立派過ぎて読めなかったし。おばあさんが『うちに来ない?』って軽く言ってからサラサラと書いただけだし、あれをスカウトっていうのかな。
「今回は異例尽くしだな。欠員補充が一日で終わるとか前例を知らんぞ。しかも、意思確認無しでうちに来るなど有り得んぞ」
少しアシュリンさんが私の目を見る。
どうしました?
「いや、しかし、これだけの戦力だ。副神殿長の眼鏡に狂いは無いなっ!」
それ、お眼鏡と眼鏡を掛けてるの?
リアクションに困るわ。
「で、私は何をすれば良いのでしょうか? この部署では何を求められているのでしょうか?」
無視を選択しました。
すみません、先輩。
「うむ、ここでは、未知の魔物の情報を得たり、各部署からの依頼で魔物系の素材を狩ったりしている」
殲滅と駆除はないのね。
良かったわ。
今の説明だけなら、部署名が名前負けしてるわね。
「余りに危険な魔物であれば、単体であっても群れであっても叩きのめすっ!」
くぅ、やっぱりか。
「それは巫女の仕事なのですか?」
聞いておこう。
お母さんにもちゃんと説明できるようにしておかないと。
「勿論だ。聖竜の言葉に由れば『敵を知り、それを殲滅しなさい。傲り昂る魔物には鉄槌を、忍び寄る魔物には鉄拳を、圧し寄せてくる魔物には紅蓮の炎を』とのことらしい」
ほんとう?過激ね。
でも、一番引っ掛かるのは、
「聖竜『様』ですっ」
「あぁ?……あぁ。そうだな」
アシュリンは素っ気ない。
何それ。
もう一戦したいのかしら。
「メリナ、分かった。聖竜様な。ぞんざいな言い様で悪かった。だから、その目を止めろ」
分かればいいのよ。
「お前な、昨日負けたばかりなのに、懲りないな。好戦的過ぎるだろ」
その呆れた様子は何かしら。
それに私は昨日も負けてないっ。
「戦士としては良いが、巫女としては失格だぞ」
なっ。あなたが言うの、それ。
いえ、おしとやか、おしとやか。
にっこり笑いましょう。にっこり。
「更に脅すか。止めろ」
なんと!




