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目撃者 エルバ部長

ちょっとだけ時間を遡ります

⭐エルバ部長視点


 今日はメリナが伯爵に謁見する日だ。あの娘がどう思っているかは知らんが、楽しみだな。

 破天荒で規格外なあいつでも、人のしがらみには負けるかもしれない。けれど、変わろうとしない貴族階級に何かの刺激を与える期待もしているんだ。


 しかし、あのメリナ、スゲーわ。アデリーナとマジで仲が良いんだよなぁ。王家の嬢ちゃんも満更ではなさそうだし。アデリーナは距離を置かれるタイプだったけど、遠慮を知らないメリナの性格が奏功を為したのか。



 今日は魔法学校の代表として、謁見の見届け人の名目で招待されている。神殿からは巫女長が出席に違いないだろう。

 伯爵側は、シャールの上流を集めて聖衣の巫女でさえ、自分の庇護を求めたとアピールしたいのが透けて見える。それが謁見式というものだもんな。



 伯爵の宮殿の門を越えたところで、私は空に異変を感じ取った。魔素が震えていたんだ。



 !?


 巨大な火柱が城を襲っていた。


 なんだ!?

 強大な魔物が襲撃して来たのか!?



 近くにいた門番も気付き、慌てふためいていた。周囲からは若い女の召使いの悲鳴も聞こえる。


 私も理解を越えた光景に判断が鈍っていて、炎と思われる物をただただ見詰めるだけであった。



 空を突き刺す感じで伸び続ける火柱は不規則に揺れながら、宮殿の尖塔を襲う。

 そして、大きく振れたかと思えば、シャールの宮殿で最も立派で荘重な主塔に当たり、切断した。焼けたんじゃなくて当たった所が消失したように見えた。



 ……マジかよ。

 現役の城だぞ。隣国に近いシャールだから、魔法防御も念入りに施されていたんだぞ。それを無視して切り裂くのかよ!


 人間の所業ではないぞ……。メリナが魔族が増えていると言っていたが、まさか、そういう事か。魔王でも誕生しているのか……。



 スローモーションで塔が落ち、轟音と共に土煙がとてつもない速さで地を這って向かって来る。それを私は腕の一薙ぎで防ぐ。


 魔法障壁を無詠唱で出したのだ。私の周りを不可視の半円が囲み、たまに跳ね飛んだ瓦礫だろうか、それが当たる硬い音が響く。


 塞がれていた視界が元に戻る頃には、不幸にも身を隠す暇もなかった、落下時の破片にやられた負傷者達が地面に転がっていた。



 シャールは数年前の戦争でも前線拠点として機能していた街である。だからこそ、兵達の初動は早くて速い。

 魔法障壁を解除した私の横を騎兵と歩兵が駆けて行く。あれだけ派手な攻撃だったんだ。既に襲撃者のいる地点は把握済みなのであろう。



 一応、私も調べてやるか。


 私は目を瞑り、火柱が放たれた方向を頭に描く。あれ程の魔法を扱える者だ。多少遠くても、魔力の感知くらいは出来るであろう。


 いた!

 湖近くの墓場か。



 あっ…………この灰色の魔力を持つヤツ、知ってる……かな……。




 マジか。……メリナかよ。


 何してんの? マジで。




 気を取り直そう。自分の手足が震え気味なのを、まずは抑えなくては。


 私は自分の両頬を手の平でパシンと一発叩く。



 ふぅ。メリナの事を考えるのは後回しにしておこ。ヤバすぎ。



 塔は幸い中庭に落ちたから、被害は然程でもなさそうだ。小さな建屋が圧し潰れていたが、人が居なかったことを祈るしかないな。

 落ちた塔の中の人間は……聖竜、様のご加護があった事を願ったら良いのかな。


 ……メリナ、マジヤバすぎだぞ。



 まずは生きている奴の救助。

 私は魔力感知を用いて瓦礫に埋まった者共の位置を周りの無事だった奴等に伝える。



 それから、回復魔法だな。とりあえず、私は近くにいた血を流す門番に唱えてやる。

 あのメリナの様に切断した部位をくっ付けるなんてことは無理だが、傷を塞ぐくらいは出来る。


 ってゆーか、あの娘が異常なだけだ、マジで。

 あれだけの回復魔法を使えるのは、巫女長フローレンスと、後はアシュリンしか知らん。

 あの二人は化け物だ。



 しかし、それを上回るメリナは洒落にならないマジもんの怪物だ。無詠唱で部位欠損を治すなんて、伝説の魔物並みだぞ。冒険者にでもなっていれば、即座に最高峰に達していただろうな、マジで。

 あんな者がシャールにいるってだけで、王都の連中もこの街に余計な手出しできなくなるぞ。

 


 私は出来る限りの救助作業を終え、ベンチに座っていた。如何に天才の私と謂えど、流石に魔法を使いすぎて疲れたのだ。


 瓦礫の下から腕が千切れた奴も出て来ていた。メリナが問われるだろう罪の重さが、私を余計に疲れさす。



「あら、まぁ、エルバさん、奇遇ね」


 嗄れた声で横を見なくても分かる。これはフローレンスだ。調査部長である私をもってしても、その腹の底が見えない人物だ。

 お人好しなのに、抜け目がない。各国を旅した遣り手の冒険者だっただけはある。



「あぁ、フローレンス。メリナの精霊の時以来だな」


「えぇ。メリナさんの精霊さん、とても威風堂々としたお方でしたね。本当にメリナさんそのものでした」


 マジで言ってんのかよ、フローレンス。お前、メリナの事をあんなに禍々しい竜と同じだと思っていたのかよ。


 ガランガドーって名前からしてヤバいぞ。

 聖竜スードワットの「スー」が古語で「聖なる」って事を意味するように、「ガラン」は古語で「邪悪」とか「破滅」とかだぞ。


 さっきのおかしな威力の火炎魔法を見たら、どう考えても、危険な精霊だろう。


 うー、フローレンス、お前もさっきのをメリナの仕業と勘付いているのか。私は恐ろしくて認めきれないのだが……。



「お、おぉ。……確かにメリナっぽさのある精霊ではあったな」


「さすが聖竜様にお会いされた方ですね。私、いつでも巫女長の座をあの子に差し上げます」


 ……ほんと読めないな。

 聖衣の巫女って呼ばれ始めているが、狂犬メリナの異名の方が本質を表していると思うんだ、調査部長としては。

 そんな巫女長、嫌だろ。



 いや、確かにメリナは才能に溢れるし、ああ見えて、私の弟子にと思うくらいに存外、頭が切れる。あぁ、でも、戦闘では頭の線が一本切れているのかという感じだったな。

 フローレンスには何か思う所が他に有るのだろうか。




「あの塔、重いのよね。私もくたびれたのよ」


 続きを聞くと、私と同じ様に謁見のために城に来ていたフローレンスは、塔が落ちるのを見て、即座に魔法で塔を支えたらしい。


 だから、妙に落下速度が遅いと感じたんだな。まぁ、支えきれずにこの惨状なのは仕方ないか。いくら魔法でも限界はある。

 真下に人がいない事を確認して落としたんだろう。



「フローレンス、知っているか? メリナは二度目の聖竜様との邂逅を果たしたらしいぞ。ヤバいな」

 

「えぇ、聖竜様からお聞きしました。正直、羨ましいですよ」


 まぁな。

 私は聖竜など信じていなかった口だが、実存するというのであれば、会ってみたい。そして、…………レギアンスの呪いを解いて欲しいものだ。

 


「謁見は中止だな」


「あら、あら。もう準備は整っているのよ。やりましょうよ。私、伯爵様にお願いしますわよ」


「無茶言うなよ。怪我人が出ているんだぞ。日を改めて、もっと佳き日に改めるべきだろ」



 そんな時、門の方から馬が駆けてくるのと車輪が軋む音が激しくした。


 敵襲!! ここまで来たのか!?



「ア、アデリーナ様! 死ぬ! 転げ落ちて死ぬから止めて下さいっ!」


 あぁ、メリナの声だ。

 大丈夫だ、お前は滅多な事では死なんだろ。

 例え、あの塔が落下した地点にいても、お前は生きていると思うぞ、マジで。



 顔を上げると、大半の壁がなくなった箱馬車が、あっという間に目の前を通り過ぎていった。

 なんだ? スピードに耐えきれず箱の部分が吹き飛んだのか。まぁ、メリナなら大丈夫だ。



 しかし、本当に何のつもりなんだ。

 建屋だけでなく人にまで被害が及んでいるんだぞ。ある程度の怪我は魔法で治るとは言え、伯爵に喧嘩というか戦争を吹っ掛けておきながら、ここに来たのかよ。

 意味分かんねーよ。大罪で裁かれる前に隣国にでも逃走しておけよ。




「ほら、エルバさん。ご覧になられました? メリナさんも嬉しそうでしたよ」


 速すぎて、よく見えんかったが、絶対に喜んでなかったと思うな。悲鳴しか聞こえんかったぞ。


「ね、エルバさん。本人もヤル気なのよ。伯爵様のお城に悪戯されたのに、ちゃんといらっしゃったのですもの」


 ……やっぱり知ってたか。



「伯爵様のお付きの人にも、さっきのはメリナさんからのサプライズってお伝えしたの」


 フローレンス、お前も含めて神殿の人間は、本当に頭がおかしい奴しかいないな。

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