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私たちはここにいます

 私とアデリーナ様は墓場で立ったままです。

 遠くに伯爵様のお城が見えています。本当に大きくて権勢の強さを感じますね。


 対照的に、墓場と言う場所は、何故に薄暗くてジメジメしているのでしょうか。

 私の靴はアシュリンから貰った奴なので土汚れなんて大したものじゃないんですけど、アデリーナ様は艶々のお洒落ハイヒールです。それで歩かれたので、ぬかるんだ土が付いて見るに忍びないです。

 それにしても赤色なのは好みのお色なのでしょうね。貰ったパンツと同じ色です。



「ふぅ、お城までどうやって向かいましょうかね」


「馬車はまだ動きますよ」


「そうかしらねぇ……」


 アデリーナ様は暴走金髪族ですから本能として馬車は好きなはずです。

 何を躊躇うのですか!?




「……メリナさんね、馬まで焼くことはありませんでしたのに」


 おぉ!! なんて可哀想な事を!!

 立派なお馬さんが二頭倒れておりました。

 

「すみません。しかし、禍を転じて福と為すで、今晩の一皿に馬料理をお出し出来るのではないでしょうか!?」


「極めて猟奇的な印象を感じました。却下です。あなた、この死体のままでテーブルに乗せてしまいそうです」


 アデリーナ様、もう少し悩んでくださいよ。馬肉も美味しいんですよ。



 アデリーナ様は私の目を見ながら言います。


「ここは一つ、転移魔法でしょうね」


 本当に何なんでしょうかね、その転移魔法好きは。


「アデリーナ様、以前も申し上げましたが、私は転移魔法を使えませんのです」


「えぇ、お城に行った事がないからで御座いましたね。でしたら、神殿でも宜しいのよ。あそこには私の馬車が御座います」



 私はアデリーナ様から目を反らしました。こいつはバカですから、もはや伝わりませんよ。


 困りました。以前の一ヶ月後までに転移魔法を行なっている所を見せないと処刑の約束は生きているのでしょうか。



 改めて遠くを見ました。お城の尖塔がいくつも有りますね。


 そこまで遠そうです。

 目印としては充分で道に迷うこともなさそうですが、謁見の時間に間に合うのでしょうか。私は夜のお食事を心配しているのです。


 貴族様のお料理を口にしたいのですよ!



「謁見に遅れるのは流石に失礼で御座いましょう、メリナさん。さぁ、勿体ぶらず、さぁ、お願い致します!」


 満面の笑みでアデリーナ様は仰いました。

 転移魔法をどうしても使わせたいみたいです。何故なのですか!?



 私は汗だくで御座いますよ。頭をフル回転してこの苦境を乗り越えようとしています。アデリーナ様なら、本当に私を処刑しかねません。


 最初に思い付いたアイデアは、逆転の発想で、この場でのアデリーナの抹殺ですが、大丈夫でしょうか。

 いえ、私の思考は切羽詰まって致し方ないという事で問題無いのですが、この墓場、本当に誰もいないのでしょうか?


 ちらっとアデリーナを見ると、また、にっこりされました……。不自然な笑顔です。怖いです。仕留めきれるかも不安ですね。


 ……国家を敵に回すほど、私も大胆ではないのです。止めておきましょう。



 ナタリアを村に連れて行った時の方法も使えないですね。火炎魔法で真っ直ぐな道を作ったら、死人がいっぱい出そうです。



 閃きました!


「アデリーナ様、お城から迎えを寄越して貰いましょう!」


「どうやって御座いますか?」


「よく火球魔法で合図を起こすじゃないですか。あれをここでします」


「……うーん、その程度なら治安官程度の管轄になるでしょうね。 事情を説明したりするのを考えると時間的に間に合うのかしら」


 そうかもしれないですね……。いえ! ならばお城から来るように仕向けば良いのです!


「大丈夫です。お任せ下さい!」


 私は胸を張ります。


「分かりました。あなたにお任せしましょう」


 ありがとうございます、アデリーナ様!

 


 足を横に開いて踏ん張ります。服のスリットが広がって、私の太ももの露になる部分が多くなった気がします。パンツ、見えてないでしょうかね。


 両手を前にして、私は唱える。今回の照準はしっかり狙わないと。


『聖竜様、私、メリナです。お力をお貸しください。シャールのお城の皆に見えるように真っ直ぐな炎をたっぷりお出し下さい』


 唱え終えると、私の両手から煌めく炎の柱が直進していく。ときたま、その表面から小さな炎の舌が暴れます。

 私の願い通り、真っ直ぐ、遠くのお城の横を掠めて行きました。そして、そのまま先端が空を突き進んでいきます。私の手からは炎が出続けていますので、少し見え辛いですけども。

 しかし、これで、お城の方々も私たちがいる場所もすぐに分かりますね。



「メ、メリナさん……。止めなかった私が悪いのでしょうか……?」


 後ろからアデリーナ様の声がしました。

 私は狙いを逸らさないようにするのに忙しくて、答えられません。



「この炎の柱……いえ、竜のブレスみたいな魔法、シャール中の人に見られていますよね。突然の宣戦布告で御座いますか?」


 えっ! 竜のブレス!?

 いやん、そんな、私、聖竜様と同じなのですか!?


 あっ、ダメダメ。手元が狂いそうです。

 っていうか、狂いました。尖った塔の先っちょに付いていた、何かの棒が焼け落ちましたよ。屋根とかもジュッて蒸発したみたいな感じに見えました。


 しかし、ガランガドーさん、凄いや。こんな魔法を私に与えてくれるのですね、感謝です。



 ……!!


 私、今、聖竜様にお願いしましたよ!!

 私には二体目の精霊さんがいるとエルバ部長か巫女長様が仰っておられましたが、もしや、聖竜様なのですか!?


 ええー、畏まった言葉を使えば、鴛鴦之契(えんおうのちぎり)運命(さだめ)ですよね、私たち! うふふ、うふ、ぐふ。

 すっごく興奮してきましたっ!




「あああ!!!」


 アデリーナ様がお叫びになられました。私は恍惚状態だったのに邪魔されたのです。



 我に返った私が見たのは、一番太くて高くて立派な塔の半ばに炎が当たり焼失して、そのままずれ落ちていく姿でした。

 遅れて、ズシン!!と体に響くほどの音が届きました。


 手元が大きく狂ったようです……。

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