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貴族流の教育

 業務を終えても黒い巫女服に身を包んだままのシェラが言います。


「では、私が扉を開けます。その後にメリナはゆっくりと歩いて入るのですよ」


「分かりました。その後は?」


 お料理を取るのですね。その順番を教えて下さいっ!


「ゆったりと胸を張って、前の方に向かってください。視線はどうしましょう。メリナは威厳が欲しいですか? それとも親しみ易さ?」


 一番欲しいのは肉です。


 シェラは考えています。胸の前で腕を組んでいるのですが、乳が圧されて凹んでおりました。ものっすごいサイズ感を見せ付けられております。



「メリナの雰囲気だと親しみが一番素直ですね。視線は皆に振り撒いて下さい。で、本来なら壇上にエスコートされますが、今日はお一人でお願いしますね。それから、ご挨拶です。その後は全て笑顔でお過ごし下さい」


 お料理の話は……。いえ、まずは言われたことを致しましょう。


「分かった。ありがとう、シェラ」


「厳しく行きますからね」


 お手柔らかにお願いします、シェラ。



 彼女は扉を開きました。

 同時に拍手が起こりました。おぉ、ニラさんとお食事したあのお店での出来事が思い浮かんできました!

 とても気持ちが良くて……良過ぎて……店にいた人を全員ぶっ倒したのです……。

 今日はしませんよ。


 精々、両手を振って応えるだけですっ!



 バシッ! と、私の手が何かに叩かれました。とても痛いし、びっくりしました。

 こんな所に魔物なんかいないし、暴力的な方はもっといないはずです。横にいるのはシェラだし。


 シェラでした。馬のお尻を叩くヤツよりも短い鞭を手に持っていました。


「メリナ、宜しくありません。礼儀正しく、且つ、ほんわり笑顔で応えなさい」


 えー、えぇ? 私、シェラに打たれたのでしょうか?

 手を見たら赤く筋が入っています。


「もう一度です」


 私は登場シーンからやり直しさせられました。


 

 笑顔ですね、笑顔。私は拍手をしてくれる礼拝部の方々を見ながらスマイルを振り撒きます。


「キョロキョロしてはなりません!」


 ひっ。怖いです。鞭は私に向けて振るわなかったのですが、ヒュンと空を鳴らします。


「もう一度です」


 ……シェラ、こんな人だったんですね。幼めのゆったり顔に騙されていましたよ。

 アシュリンともアデリーナ様とも違った厳しさを感じております。



 三度目の入場です。

 私は拍手の中、笑顔で佇みます。視線はぼんやりと部屋の奥の壇上です。


「よし、進みなさい」


 シェラ、いえ、暴力コーチの指示で私は歩み始めます。


「手を前後に振らない! 歩幅が大きいっ!」


 ビシバシと言葉だけでなく鞭が飛んできました。

 これが貴族流の教育ですか……。なんて恐ろしい。



 少しだけ段差になっている壇上に上った私は、そこで後ろを振り向きます。


「よろしいです。とても優雅なターンでした」


 ありがとうございます。鞭が怖くて、ゆっくり体を捻ったのが奏功しました。



 ほんの少しの沈黙の後、段横にいた司会役の人が喋り始めます。


「厳粛なる謁見式にご参加されました皆様、お疲れ様でした。偉大と言う言葉さえ霞んでしまう聖竜様、それに並ぶ程の大シャールにおきましても、本日の事は紛れもなく歴史の書に多くが記されることでしょう。そして、ここに参上頂いた方が、皆様ご存じの聖衣の巫女メリナ様で御座います。実はメリナ様は本日が初登城日でもありまして、皆様とのご邂逅を心の底から――――」


 長い……。早くお食事を。私にお肉を。


「――それでは聖衣の巫女メリナ様から皆様にご挨拶とさせて頂きます」


 えっ。私からですか!

 シェラに挨拶があるとは先程言われましたが、完全に聞き流していましたっ!


「え、えー、本日は御日柄もよろしく、二人の門出――」


 鞭をお腹に受けました。


「それでは結婚式です!」


 正しい突っ込みです。そして、非常に鋭い一撃でしたよ。私の虚を付くとは、恐ろしい娘です、シェラさん。


「でも、シェラ。私、演説なんかしたことないです」


 それどころか、正式なスピーチを聞いたこと、結婚式くらいしか無いのですよ。


「無くてもしないといけないのです。私が手本を見せて差し上げます」



 横にいたシェラが一歩前に出ます。


「この様に盛大な祝いの場を設けて頂き、大変有り難う御座います。また、若輩者である私ですが、淑女紳士の皆さま方に御礼の言葉を申し上げる機会を下さいました、運営、進行の方々にも感謝申し上げます。巫女の身でしかない私にとりましては初めての場ともなります。余りの緊張に、私の胸は張り裂けんばかりに鼓動しております。さて、――」


 えぇ、あなたの半端ない巨乳は、はち切れんばかりですね。何ですか、自慢ですか?

 私の心の内など聞こえるはずもなく、シェラは恙無く続けて、見事な演説を見せてくれました。


 無理だ。素人には出来ません。付け焼き刃ではこの風格というか堂々さは出ないです。



「いいですか、メリナ。先程の冒頭で私は胸という自分の特徴を出しました。それが掴みです」


 あれ、意図的だったの!? 見事に掴まれましたよ!


「私も余り気が進まないのですが、人の心を向かせるには工夫が必要なのです」


 難しいです。



「自分の胸は嫌なんです。でも、それで場が盛り上がるならと、我慢しております」


 持てる者もなかなか大変ですね。マリールが聞いたら怒りマークですよ。


「メリナ、あなたも自分の武器をスピーチに入れるのですよ」


 拳による突きか……。本当に難しいです。


「当日までによく考えるのですよ。では、次が本番です。パーティに入ります」


 おぉ! ついにお食事ですね!

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