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マリールに相談

 アデリーナ様から解放された私は、魔物駆除殲滅部の小屋で一人悩んでおります。

 どうやら、私、トンでもなく素晴らしい粉を作り上げたみたいなのです。ルッカさんが傍にいたら、ワンダフル、アメージング、マーベラスと煩かった事でしょう。


 アデリーナ様の所から戻ってくる間、皮袋に入れた粉をずっといじっておりました。感触が非常に良くて、心が落ち着くのです。


 石を砕いた粉とも、石鹸を削った粉とも違った新しい手触りが誕生しています。軽くて、するっと肌の上を滑る感じ。


 で、ここに戻ってお茶を淹れるために手を水で洗おうとしました。

 すると、どうでしょう。


 粉が水を弾くのです。私、知らない内に魔法を使っていたのでしょうか。これもガランガドーさんのお助けなのでしょうか。

 自称「死を運ぶ者」とか言っていましたが、やはりお茶目な方です。聖竜様もそうでしたが、竜の方々はユーモアセンスに優れているのでしょうね。



 その他に粉全体がふんわりしています。これも石粉や石鹸カスの状態では無かったものです。


 試しにお顔に塗ってみました。

 ああ、柔らかい。

 良いのかどうか分かりませんが、私には凄く上品なものに感じます。



 よし、これは仕方ありません!

 薬師処を訪問してマリールに相談しましょう。

 場所は分かります。一度、畑の巫女さんに連れていって貰いましたもの。

 私は再び小屋を出ます。今日のお仕事は終わりましたというか、そもそもがいつも暇でしたね。



 薬師処には調査部みたいに受付ロビーは御座いません。なので、適当な人を掴まえる必要があります。


「すみません、マリールとお会いしたいのですが、取り次いで貰えませんか?」


 私は巫女服を着た方に声を掛けました。年頃はアデリーナ様、いえ、それより上のアシュリンくらいの人でしょうか。

 肩くらいまでの髪が軽くカールして、可愛らしい雰囲気です。


「えぇ、大丈夫ですけど、あなたのお名前は?」


「メリナです。魔物駆除殲滅部で巫女見習いをしております」


 本当にこの部署名は何とかならないのでしょうか。とても恥ずかしいです。


「あなたが聖衣の巫女! そう言われると、気品を感じるわね」


 内心嬉しいですが、すごく照れ臭いです。

 どう返答して良いものか困惑しますね。


「マリールって事は同じく見習いのマリールね。分かったわ。一緒に来なさい」



 案内された先にいたのは、確かにマリール。赤茶色の髪の毛ですぐに分かりました。

 でも、服装がいつもと違いますね。寮で見る時は、もっと生地が輝いているような服を来ているんだけど、仕事用に着替えているのかしら。

 白いズボンに、上も長袖のシャツ。村の人が着るようなボタンなしのスポッと頭から被る感じの服です。少し汚れています。

 何かを記しているようで、ペンを持って机に向かっています。



 私は巫女さんにお礼を言ってから声を掛ける。


「マリール」


 彼女は面倒くさそうに顔を上げました。少し吊り目気味の彼女ですが、今はもう少し目が細くなっていて不機嫌なのでしょうか。


「何で御座いま、えっ、メリナ。何をしに来たの?」


 驚いた表情に少し笑顔が出たのを私は見逃しませんよ。良かったです。私たちは友人ですものね。



「この粉を触って下さい。昨晩、ご依頼された物に近いかと思うのです」


 私は腰から皮袋を外して彼女に渡す。

 マリールは、それを黙って開けて、中に手を入れました。


 目を開いて、誰が見ても仰天している様子です。

 それから、妙に小声で私に言います。



「メリナ。これは何?」


「私はそれを相談しに来たのです」


「ちょ、私の手に負えるものなの? これ、凄すぎるよ」



 マリールは私を机と椅子しかない別室に連れて行きました。何故か、私をマリールの所まで案内してくれた巫女さんまでやって来ています。



「フランジェスカ先輩、外して頂けませんか?」


 マリールが巫女さんに言いました。


「あら、私も興味があるのよ。でも、マリールの心配も分かるわよ。聖竜様と聖衣の巫女様に誓って、あなたの成果を奪うことはしません。これで良いかしら」


 巫女さんは私を見て言いました。


「フランジェスカ様、私への誓いは不要で御座います。ただ、聖竜様に誓われたと言うことは、その誓いに反す時は私はあなたを許しません」


 即座に殴り殺します。問答無用です。その場合はマリールの何かを奪っているのですし。


「あなたも固いわね」


「いえ、聖竜様の名を使われるとはそういう事です」


「聖衣の巫女っぽいわね」


 どんなですか。



「メリナ、いいわ。私もフランジェスカ先輩を信用していない訳じゃない」


 マリールの言葉にフランジェスカさんは柔らかく微笑まれた。


「アレでしょ。昨日、マリールが言っていた、もっと凄い粉って言うのが出てくるのね」


 マリールは黙ったまま、フランジェスカさんに皮袋の中の粉を一摘み渡しました。



「……想像以上よ。何これ?」


 フランジェスカさんは鼻に粉を持っていく。


「石鹸? でも、こんなのは触ったことも聞いた事もない……」




「メリナ、作り方!」


 椅子に座ったマリールが私に強く言う。既に紙とペンを持っています。


「は、はい」


 彼女の勢いに飲まれて、私も椅子に座る。

 フランジェスカさんもマリールの横に座られました。


 マリールの目がとても真剣です。

 これは私も気合いを入れて臨まないといけませんね。しっかりお伝えしましょう。

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