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石鹸の粉

 今日もアシュリンは小屋にいません。つまり、お昼御飯を自分で用意しないといけないのです。


 日課のお掃除と洗濯を終えていますので、困った私はアデリーナ様の所へ向かいます。そう、寮に戻るのです。


 道すがら、私は小石を拾っては潰しを繰り返します。昨晩、マリールからもっとツルツルした粉を持ってきて欲しいと依頼されたからです。

 貸した粉は皮袋に入れられたまま返されまして、私の腰に紐で括られています。



 今日は、石の色には拘っていません。アデリーナ様が黒い砂から白い粉を作る地方があると教えてもらいまして、自分なりに色は後から魔法で何とかなるんだろうと思ったのです。


 それなら、魔法でツルツル感を付与すればいいじゃないとも考えたのですが、そちらは私のプライドが許しませんっ! 自分の力で作りたいのです。


 オロ部長に貰った石から作った粉を触った時の、あの感動が忘れられないのです。魔法に頼らずに、あんな素晴らしい物が出来るなど思っていませんでした。私は巫女ですが、職人魂が芽生えたのかもしれません。


 しかし、やはり良い石は有りませんね。どれもオロ部長の石にも及ばないです。

 私は腰に付けた皮袋の中の粉を触る。やっぱり、このオロ部長の石の粉はとても良いです。



「メリナさん、どうされましたか?」


 相変わらずの美しく輝く金髪を誇るアデリーナ様は私を部屋の中に案内してから尋ねて来ました。


「すみません、アデリーナ様。今日もアシュリンがいなくて昼御飯がありません。なので、貰いに来ました」


「ん? どういうことでしょうか?」


 かなり直接的に申したのですが、分かりませんでしたか。



「アデリーナ様は王族なので、美味しいご飯を食べておられると思いました。それをご馳走されに来ました」


 少しだけ眉が動きました。私の気持ち、通じましたね。


「ごほん。メリナさん、確かに私は王家の者です。そこまで理解していて、私にたかりに来たという訳でしょうか?」


 たかりって、そんな悪い言葉をお使いなられなくても宜しいのに。


「はい。そうです」


 認めましょう。私は正直です。

 神殿で最も美味しい物が食べられそうな所に来ました。



「しかも、まだお昼時でもなくて、ほとんどの巫女さんはお仕事中なので御座いますよ。無論、私も。分かっておられる?」


 確かに机の上に書類がありますね。インクの容器の蓋も開いていて、書き物の最中だったのでしょうか。


「メリナさん。あなた、どうも勘違いされていませんか。確かに私とあなたは共に神殿で働く身で御座います。しかしながら、そこに礼儀というものが――」


 長くなりそうです。来るんじゃありませんでした。



 私は暇と共に手に握った小石を潰す。持って来ていて良かったです。ポケットにあと何個か拾った物が入っていますよ。


 部屋にギリギリと音が響きました。



「メリナさん、今の音は何ですか?」


「小石です。小石を砕きました」



「!!」


 アデリーナ様が目を見開きました。私もびっくりしました。


「……小石の話と言えば、アレで御座いますよね?」


 何の件で責められるのでしょう。私、ドキドキします。


「聖竜様とのお話の時でしたね」


 なんでしょう。早く言いなさい! 怖いでしょ。


「人々は道に落ちている小石の様な物と私は言いました」


 あぁ、仰ってましたね。正直、ドン引き発言でしたよ。

 しかし、そこからどうやって私を怒るのですか!?



「あなた、それを逆手に私を脅しになられているのですか? 『お前も同じく小石だ。この手の石の様に潰すのは簡単だ』と示しているので御座いますか」


 …………。


「まさか。そんなつもりはないですよ」


 ある訳ないでしょ。深読みもここまで来ると笑えますよ。

 でも、安心しました。私、また怒られるのかと思いましたよ。


「本当に?」


「はい。その気ならもう攻撃しています」


「……確かに」


「早くご飯を下さい」


 アデリーナ様はじっと私を見詰めてから、ご自分の机の方に向かいます。



「しばらくお待ちになって下さい。まだ食事の用意がなされていません」


 おぉ、さすが、私のアデリーナ様です!


「ありがとうございます」




「メリナさん、床に落ちた粉は綺麗にして下さいね。あと、手をお洗いになって下さい」


 はい、ご飯のためなら喜んで。

 私は廊下から箒を持ってきて掃きます。もちろん、塵取りも持ってきていますよ。


 それから、手洗い場に行きます。置いてある石鹸で泡を立てようとしました。ちびて小さくなったのと比較的新しい大きいのと、二つありますが、もちろん、大きい方を使います。


 小さい方って、泡立たないんですよね。



 手もすっきりしましてアデリーナ様の部屋に戻ろうかと思ったのですが、私、ふと気付きました。


 石鹸ってスベスベです。粉にすれば、とても気持ち良いのでは無いでしょうか。



 早速、石鹸を粉砕しましょう。

 ……石より難しい。砕けはしますが、柔らか過ぎて思った感じで粉になりません。石の時みたいな砂のような粉にならないのです。

 圧し潰されて変形するだけです。それに加えて、破片同士が引き伸ばされてくっつくと再び一つの塊にもなるのが分かりました。



 私は諦めました。いえ、それは語弊がありますね。小さく固くなった方に狙いを変えたのです。


 小さい方を爪でカリカリすると粉が出てきました。それを集めて手の甲に乗せ、指でなぞるように動かして感触を確かめます。

 少し粗いゴツゴツした感じもしますが、石とは違う滑りがあります! これは良いかもしれません。


 私は残りの石鹸粉を腰に付けた皮袋の中に入れました。オロ部長から頂いた石の粉と混ざってしまいますが、良いもの同士、仲良くしてくれるでしょう。



 アデリーナ様のお昼御飯はとても美味しかったです。鳥の胸肉のソテーです。あと、琥珀色をしたスパイスの効いたスープもなかなかの物でした。


 王家の方はやっぱりお金がありますね。聞いたら、毎日、店を変えて街のレストランから運ばせているらしいです。

 ご馳走になって大変満足しております。

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