表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/421

謁見の練習

 エルバ部長との用件も済みまして、私は一応、魔物駆除殲滅部の小屋に戻りました。

 洗濯物を取り込まないと行けませんからね。


 くそムカついていますが、私、アシュリンの服も洗って干してあげています。それを綺麗に畳んで、アシュリンの机の脇に置きます。



 さて、私は一人でお茶を啜ります。

 とても静かです。


 存在感のあるアシュリンがいないだけで、こんな感じになるのですね。


 先程終えたばかりの水浴で体が冷えておりまして、お茶の温かさが染み伝わっていく感じが心地良いです。

 しかし、この水浴ですが、寒い季節なら修行になり得ますね。湧き水を利用しているみたいだから、そこまで水温は変わらないのかもしれないけど。



 水で思い出しましたが、シャールの街の近くには大きな湖があります。だからか、水の豊かな土地なんでしょう。街自体にも水路が多くありまして、この水路を流れる水も湧き水なんだそうです。マリールが言っていました。

 湿地帯に造り上げた都市なのかと思ったりもしましたが、そうではありませんね。そうであれば、大きな外壁なんか設置し辛いでしょうから。



 さてさて、何をしましょうかね。

 そうです、伯爵様への謁見を練習しましょう。


 私は主のいないアシュリンの机を伯爵様の座るであろう椅子に見立てて、その前で片膝立ちになる。絵本で読んだ騎士がこんな感じで王様に礼を言っていましたね。

 で、頭を下げます。



「おぉ、シャール伯爵。この聖衣の巫女メリナはあなたに永遠の忠誠を誓いましょう」


 こんな感じかな。

 違うな。私が誓うべきは聖竜様だけです。

 だから、やり直しです。テイクツーです。



「おぉ、シャール伯爵様! お会いできて光栄で御座います。このメリナ、聖衣に掛けてこのシャールの街をお守り致しますぞ」


 いい感じじゃない。

 ……騎士だったらね。

 ダメ、ダメ。私は巫女なのです。

 誰だよというセリフになってしまいました。もっと巫女らしさが必要です。



「シャール伯爵様。私は聖衣の巫女のメリナです。とてもか弱いので、よろしくね。きゃぴ。きゃぴきゃぴ」


 何を目指そうとしているのかしら。私が伯爵様なら、こんな事を目の前で言う奴なんか処刑したくなるわね。


 先程から私の巫女に対するイメージの無さが溢れ出ております。



 意外に難しいわね。どんなスタンスで行けば宜しいのかしら。


 アデリーナ様は巫女長さまから「対等の立場でのご挨拶」に向けての調整を依頼されていたのでしたか。

 ならば、それで臨みますか。



「おい、伯爵。我が聖衣の巫女のメリナであるぞ。頭が高いっ!」


 ……魔王ですね。対等どころか思いっきり見下した感じです。

 こんな事を言ったら、たぶんアデリーナ様の笑い声だけが謁見の間に響きそうです。いえ、あの人でさえ笑ってくれないかもしれません。


 無論、やり直しです。

 初心に戻りましょう。普通で良いのです。



「伯爵様、お招き頂き感謝しております。今日という日がシャールの繁栄の礎の一つとなりますように」


 いいじゃない。これよ。

 私は続けて伯爵の演技も行う。もちろん、声色も男性っぽくします。


「うむ、足労であった。顔を上げるが良い」


「はい」


「何と美しい! 我が嫁となるが良い」


「殺すぞ!!」


 おぞましい。

 シェラの義理の母になってしまいます。


 エルバ部長が伯爵様は女好きとかいう余計な情報を与えたせいです。


 しかし、これは恥ずかしいですね。

 こんな独り言を他人に聞かれたら命を絶ってしまいたくなりそうです。



 途中からやり直しです。


「うむ、足労であった。顔を上げるが良い」


「お言葉、大変ありがとうございます。しかし、私は只の村娘で御座います。顔を上げれば、畏れ多くも閣下を拝むこととなり、この身には過ぎたる行為となるでしょう」


 まずは断ると。

 しかし、これでは下手に出すぎでしょうかね。


「そう自分を卑下するのではない。行き過ぎた遠慮は無礼という言葉を知らぬか」


「決してそのような気持ちでは御座いません。全ては閣下のご栄光が眩しいため」


 なんて言いながら、私は顔を上げる。


「そのような憂い顔をするでない。しかし、なんと美しい! 我が妻となるが良い」


「死ねぃ!!」


 ……ダメです。これは私の密かな願望が出ているのでしょうか。これ程までに、てっとり早く私は貴人になりたいのでしょうか。

 まさかです。私には聖竜様がいるのですよ。


 そもそも謁見の場で求婚するような方が伯爵などしているはずがありません。伯爵様の性格設定を変えましょう。

 それに、出会って即座に結婚を求められるなんて、私、自分を過剰に評価し過ぎです。




「足労であったな。顔を上げなさい」


 ナイスミドルの優しいおじさんを想定しました。


「はい」


「うむ。これからも勤めに励むが良かろう」


「有り難きお言葉です」


 ここで、伯爵様が立ち上り私に寄って来る。


「聖衣の巫女メリナよ。そなたの祈りがシャールの一層の繁栄と繋がるであろう」


 言い終えて、伯爵様が何か儀式的な行為をすると。

 ここまで完璧です。こんな流れですかね。

 伯爵様は更にどう出てくるでしょうか。私は頭を働かせる。


「さて、メリナ嬢よ。いい体をしておるな」


「ぶちのめすぞっ!」


 本当にダメです。

 エルバ部長の一言のせいで、伯爵様が色魔の様になっております。


 私は延々と残りの時間をシミュレーションで試行錯誤致しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ