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連行されました

 私たちは食堂に赴いて、食事を終えました。

 巫女見習いの先輩方が私の顔をちらりと見る率が高くなったように思います。

 何せ、今晩はメイクアップ済みですからね。


 この私を存分に見てくださいな。



 化粧って、殿方を喜ばすためにするものだと勘違いしておりました。

 明確にそれは違いますね。断言できます。


 化粧は自分のためです。

 今までの自分に自信がなかった訳ではないのですが、気持ちを高めてくれるのです。

 今なら聖竜様へ、より深く愛をお伝えできますよ!!

 届け、この私の愛の魔法!



 そんな感慨無量な雰囲気を、鬼が踏みにじりにやって来ました。


 視界の端に見えましたよ。金髪暴走野郎が近付いて来るのが。



「あら、メリナさん。今日は気合いが入っておられるのね。でも、ダメで御座いますよ。お外にはまだお出掛けできない約束でしょう。夜会はまた別の機会になさいね」


 今日は優しいモードですね。良かったです。


「巫女服が届きましたよね。お着替えになられていないの?」


 あっ。まずい。アシュリンとの事を喋らないといけませんか。


 黙っていると、マリールも私を見て、気にしていそうだった。以前にどちらが先に巫女服を手に入れるかの勝負をしたこともありましたから、少し引っ掛かったのかな。



「……すみません。少々破いてしまいまして……」


「えっ。もうですか? ほつれ程度なら、総務で補修しますから、明日お持ちになってください」


 私は笑顔のままだ。

 あれ、補修できるのかな? 縦に裂かれてましたけど。


「……まさか。凄く破きました、メリナさん?」


 えぇ、そのまさかですよ。



「こう胸元から縦に、アシュリンさんに裂かれました。で、中から軍服が出て来たのです」


「はぁ。何故、アシュリンが出てくるのでしょう。そういうプレイで御座いますか?」


 やめろ。

 ラナイ村の村長を思い出しました。アデリーナ様のロイヤルブラックユーモアですか。

 センスゼロですよ。


「決闘をしました。その中での出来事です」


「メリナさん! 私の部屋に来なさい」


 あぁ、やっぱり鬼が出現しましたよ。

 私が連行されるのをマリールとシェラが手を振って見送ってくれました。

 お二人とも馴れたものですね。




「はい。ではご説明を頂きましょうか?」


 意外な事に、にこやかにアデリーナ様は仰有います。私はソファに座らせられたまま答えます。


「私が作った大切な石の粉をアシュリンさんが奪ったのです。だから、決闘となりました」


 まずは原因からです。


「ん? 石の粉で御座いますか?」


「はい。私、レディーとして化粧の仕方を身に付けたくて自作の粉を作ろうとしました」


「初っぱなから困惑しております。が、続けて下さい」


「はい。それが昨日の事です。それで、今日が対決だったのですが、アシュリンさんは私の巫女服を着ていて、それを破いてから闘いが始まったのです」


 何言ってるんだ、私。

 アデリーナ様はローテーブルをトントンと指で叩く。


「で?」


「私はアシュリンの腹を裂きましたが、引き分けとなりました。あっ、アシュリンさんは生きてますよ」


「……生きているのですか? さすが、アシュリンです」


 私はアデリーナ様の言葉を聞きながら、目は後方に遣っていました。

 おぉ、今日は棚のお酒を見ても、そんなに欲求が出て来ないです! お化粧様のお陰ですか!?



「お二人とも意味が分からないですね。いえ、分かってはいけない気もします。武断派にしか分かり得ない事なんでしょう。それで、巫女服は?」


「もはや着れないので、林に放置しました」


「ゴミはゴミ箱にお願いします」




 アデリーナ様は続けます。


「アシュリンは私の命の恩人で御座います。これからは絶対に戦わないで下さい」


 そうなんですか。


「メリナさんに強く言うと、おかしな事になると気付きました。だから、遠慮した物言いなのですよ。お分かりですか?」


「はい。もう殺そうなんて思いません」


「あぁ!?」


 アデリーナ様、ブチ切れ。でも、すぐに戻りました。


「もう乗せられませんよ」




「もう一つ。そのお化粧は何で御座いますか?」


 これは言いたくないです。

 なので、沈黙です。


「落としなさい。他の見習いの方々にも示しが付きません。伯爵令嬢のシェラでさえ、されていないのですよ」


 アデリーナ様は空の金属製の手洗を持ってきました。なぜ事務机の下にあるのでしょうか。


「はい。ここに水魔法。使用して宜しい」


「ですが、街のルールもありますし」


「あなた、一昨日も使用されたでしょう?」


 一昨日? あぁ、石を割るために氷の魔法で敷き物を作ったんだった。あの件か。


「シャール伯側から神殿に確認連絡が来ました。もちろん、メリナさんの仕業とお答えしていますよ。なかなかの挑発行為で、素晴らしく感じました。捕まえられるならやってみなさいという意気込みですね」


 そうではありません。が、反論しません。何故なら、話が長くなって、この鬼の住まう空間を退去できるのが遅くなるからです。


「シャール伯側も二度目の屈服を恐れて、アントン卿まで話を下ろさなかったみたいですね」


 アデリーナ様はご機嫌なので、黙ってニコニコ聞いておきましょう。


「近々、神殿域の監視についてはシャール伯側は外れるでしょう」


 つまり、私は魔法を使い放題になるわけですね! それは嬉しいです。アシュリンをギッタギッタに出来るわけです。




「はい。では、水をお出しください」


 私は水を出す。こうする事で、より早く魔法を自由に使える環境になりそうだからです。

 しかし、私は忘れていました。水を出すと言うことは、化粧を落とすことなのです。



 アデリーナ様は、ふんわかタオルも出してくれました。




「ぎゃははは!! メリナ、あなた、見事にヤられているじゃないの!」


 私の頬の文字を見てアデリーナ様は大爆笑です。

 アシュリンめ、戦闘が終わったところでの、この仕打ち、絶対にやり返して差し上げますわ!!



「ひー、負け犬っ! メリナが負け犬!!」


 お黙りなさい。

 私はこの無駄な時間を耐えないといけないのですか。



「いい酒を飲めそうだわ」


 どんなお酒の飲み方よ。性悪さが現れ出ておりますよ。


 一頻り笑ったところで、アデリーナ様は言う。目は私の顔を見ていない。

 吹き出すから。


 私はタオルを巻いて、鼻から下の顔を隠します。石鹸の良い匂いがしました。


「魔法で治していいのですよ。笑い死んでしまいそうなの」


 アデリーナ様のご許可を頂きましたので、私は顔のアザを治癒しました。


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