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お化粧品様

「メリナっ! どうしたの、その頬は!?」


 仕事が終わって寮の部屋に戻った途端に、先に帰宅していたマリールに叫ばれました。


「ん? 頬ですか?」


「そうだよ! 分かってないの?」


 全く分かりません。殴り合った後に部署の部屋で、アシュリンさんが魔法で治癒してくれたのですけど、少し残っていたのでしょうか。


 私はマリールに手鏡を借りて確かめる。



 …………アシュリンっ!!!



 私の両頬に分けて『負け』『犬』という文字の形をしたアザが残っておりましたっ!!



 あの野郎! ぶっ殺してやる!



 午後半日、私と目を合わせなかったのは、この為か!? 一度だけ、茶を持って行った時に笑いやがったから「やはり後を引かない性格ですね」って誉めてやったのに!! 


 その返しが「お前の顔も正直だなっ!」だったのは和解の合図だと思っていたけど、器用な魔法の使い方をしやがって!! 私のあの時の嬉しそうな表情を返してよっ!


 そもそもよ、殴って作ったアザの一部だけを回復させて文字を書くだと!? どれだけの才能と魔力の無駄遣いよ!

 ふざけるなっ!


 小屋に取って返そうと思ったけど、アシュリンも終業済みか。あの人がどこに住んでいるか、そういえば聞いたことがなかったです。


 明日の朝に厳重抗議ですね。なんなら、もう一戦ですよ。



 遅れて入ってきたシェラにも驚かれる。

 事情を話すと、びっくりしながらも微笑んでくれました。


「そんな魔法もあるのですね。うまく使えば頬紅要らずなんですね」


 いえ、ダメでしょ!

 私の頬は内出血で赤紫ですよ! 仮に赤色であっても化粧のために殴られるのですか。頬をペチペチ自分で叩いた方が絶対に良いですよ。



 一通り話を終えまして、私のお腹は空きました。しかし、この顔で食堂に向かうのですか…………。屈辱的ですっ!




 私が憤慨していると、マリールが自分のタンス棚から薬瓶を出してきました。回復薬でしょうか。


 蓋を回して開封して私に渡してくれます。


「メリナ、これ、アザ隠し。西方からの輸入品だから高いわよ」


「治癒系のお薬ではないのですか」


「何言ってるの? すぐに効果が出るような薬なんて貴重過ぎて持ってきてないわよ」


 そういうものなのですか。私はお金持ち間違い無しのシェラに目を遣る。


「生憎ですが、私もご用意しておりません。風邪薬ならお渡し出来るのですが」




「ほら、早くしな」


 マリールが指に軟膏みたいなのを付けて、私の頬に塗る。私は大人しくされるがままです。


「あー、メリナは肌の色が私と違うから目立つね。顔全体に広げるから座って」


 マリールは白色だけど、私の肌は薄オレンジ色ですものね。こればかりは致し方ありません。


 私はマリールのベッドに腰掛けて為されるがままとなります。

 彼女の指が私の顔を縦横無尽に走ります。ちょっとくすぐったい。


「メリナっ! 動かさないで」


 我慢するのが難しいのですよ。頬が引き攣りそうです。


 マリールは別の容器も出してくれて、顔に粉を塗ってくれました。それから、黒いインクみたいなのを、私の目尻に筆で付けます。



「はい、完成」 


 何これ?

 渡された鏡を覗くと、別人のようになった私がいました。頬は血色良く、お目々はぱっちり。

 もちろん、頬の文字は見えなくなっています。


 それどころか、とても美しいです。

 自分ですよね……? 凄いです……。


 お化粧したことがなかったのですが、こんな気分になるんだ。

 自信なのかな。私、今なら貴族様のパーティでも気後れせずに出席できそうです。

 これは魔法みたいです。病み付きになりますよっ!


 何がお酒様ですか!?

 私、聖竜様の次に、お化粧品様を信仰致します!


「悔しいけど、素材がいいと違うね」


 鏡の中のマリールと目が合います。

 そのまま、私は礼を言う。


「ありがとうございます! マリール、薬師処で何か素材が必要な時はおっしゃって下さいっ! 私、最上級のものを狩って参りますので!」


「いいよ。メリナの事だからトンでもないものを持ってきそうだし」


 ご遠慮なさらず、私は立ち上がって彼女の両手を握る。

 ついでに、ずっと作業を見守ってくれていたシェラにも頭を下げる。


「メリナ、これもどうぞ」


 シェラが手にしていたのは、いつぞやの香水でそれを私の襟首に付けてくれた。有り難いことです。持つべきは同室の友で御座いますよ。


 ……ん?

 私は香水の匂いの中にお酒様の香りが混じっている事に気付く。


「マリール、香水ってお酒も使うのかな?」


「えぇ、お酒そのものじゃないけど、酒精は原料の1つよ。揮発性を利用しているの。その匂いが目立たないように処方するのが香水作製のコツ」


 ふーん。……ふーん。

 お酒様とお化粧品様のコラボレーション…………ですか。

 …………飲めるのかな。



「マリールは本当に博識ですね。お屋敷で聞いた噂通りです」


 シェラの感心の言葉に、私も同意致します。


※念のため

酒精はエタノールの別名でして、精霊では御座いません。雰囲気作りのためにカタカナを使いませんでした。

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