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クヌヤロー!

 目を瞑ったままのアシュリンに向かって、私は足を大きく前に踏み込む。


 ズンッと、地が響く。


 結果、腰は低く据わっています。

 踏み込みと同時に頭の後ろまで腕を引いており、張り詰めた弓のように私の狙いが定まるのを待っている。


 行けるっ!!


 狙いは腹です!


 拳を捻りながら、しなる腕を前に出す。



 相手の気配が変わる。

 そもそもアシュリンは目を閉じていても無防備ではありませんでした。視界を奪われても私が襲ってくる事を、凜とした感じで待ち受けていたのです。

 私はそれを「今、襲われると困る」という警戒心と解釈し、攻撃に移りました。


 が、今は違う。

 相手の太股も腕も動くのが見えたのですが、そこに意図を感じます。

 つまり、私が近付くのを誘ったという訳ですね。


 予想の裏の裏を取られたのです……。


 悔しいですが、構いません!!

 前回は拳を肘で潰されましたが、今回はそうはさせませんっ!!



 アシュリンの足が上り、私の拳の進路を邪魔をする。


 バカめっ! 膝に変わっただけで、あの時と同じじゃないですか!

 二度も同じ手を喰うかっ!!


 指を突き立てて力を込める。腕の伸びも更に速くする。


 先にお前の腹を裂いてやるわっ!!




 アシュリンの腹には確かに指が刺さった。第二関節くらいまで。

 でも、すぐ後に来た膝上げ蹴りで、私の手首が折れました。腫れ上がっています。右手死亡です。


 それでも、私の勝ちでしょう。アシュリンの上着の臍の辺りが血で滲み始めています。深緑の服だから、色合い的に見えにくいけど。

 少しは服が縦に破れているのを確認しました。私の突きの他に、思わずですが、アシュリンの蹴りの勢いで手が跳ね上り、切り裂き気味にもなったと見えます。



「やるじゃないかっ! このクズがっ!!」


 アシュリン、お怒りです。お腹に穴が開いているのに大声です。


「膝蹴りがなければ、更にそこから裂いていましたよ。幸運でしたね」


 私は右手の痛みを耐えながら、答える。

 大丈夫かな。平然とした感じになったかな。痛みを奴に気取られてなければ良いのだけど。

 これは命の奪い合いではないのです。そうであれば、有無を言わずに追撃ですが、この辺りでアシュリンさんが敗けを認めれば宜しいのではないでしょうか。



「本気を見せると言ったっ!」


 まだ、やりますか……。



 アシュリンの体から金色に光る何かが出てきて纏わる。ラナイ村から戻って来た馬車の中で見せた、何かだ。体内の魔力が気合いや怒りで膨れて溢れ出す、そんな現象。覇気って呼ばれているはず。



「行くぞっ!」


 アシュリンさんは一気に近接戦に入った。スピードは蟻猿戦の最後、私が動けなくなった魔法陣が出た時と同じ感じ。

 つまり、目で追えないくらい速いっ!


 左右からの連打を私はいなすのに必死で、カウンターを合わせ切れない。

 やはり、スピード勝負に入ると押し負けるわね……。

 バックステップで距離を開けようにも、アシュリンはそれを許してくれない。一定間隔で付いてくる。



 避けながら状況判断。


 ここは林の中です。いつまでも後ろへ下っていられる訳でもありません。


 下からの攻撃が少ないのは、フィニッシュをアッパーか蹴りにするためでしょうね。


 パンっ!


 考え事をしていて、頬に一発当たりました。……大丈夫、浅い。

 何せ左腕一本ですからね。躱すので精一杯です。むしろ、その状態で足捌きも駆使して避け続けている自分が凄いですよ。



 右腕はダランとしています。

 当然、私は左を前にした半身で受けているのですが、そろそろ反撃しないと倒されてしまいそうです。



「どうしたっ!? 汗が出てきているぞっ!」


 えぇ、知っておりますよ。目に入りそうだから拭いたいです。右腕が痛むのです。


「これは涙です」


 私が喋ると同時にアシュリンの動きが加速した。やはり、誘いか。


 殴りながらアシュリンは言う。


「痛くて苦しいかっ!」


 そうであっても口に出すものではないでしょう。


「アシュリンさんがクソ弱いので悲しくなりました」


 額を狙ったパンチを左腕で払い落としながら答えます。


「あぁ!?」


 次に来た、アッパー気味の右を体を振って避ける。


「やるじゃないかっ!」


「私は攻撃しません。アシュリンさんが出血で動かなくなるまで、避け続けるだけです」


「額からの涙、まさに化け物だっ!」


 いえ、それは強がりでして、そういう事ではないのですよ。



 アシュリンの体が視界から消えた。

 下かっ!


 いないっ!!



 上だと? 舐めるなっ!


 空中から降ってくる敵は撃ち落としやすい。羽でも生えてない限り、スピードも方向も予測の範囲からズレないから。


 せいぜい、足とか腕とか伸びる部分だけを気を付ければ良いのです。


 勝ちましたっ!



 私は左拳を固めて、上を見る。


 えっ、いない!


 代わりに太い木の枝が揺れている。

 そこを蹴ったかした反動で加速!? 音も無くかっ!!


 背後っ!


 気付いた時には右腕を思いっきり蹴られてました。折れてるのにっ!。


 身体中を痛みが走る。



 そこからは一方的にお腹やら肩やらに強打を頂きます。頭だけは首を振って何とか躱せていました。


 実戦なら死んでるでしょうね。

 私なら背後を取った瞬間に右腕を蹴るのではなく、心臓の裏を突き刺すか、若しくは背骨を折りに行ったと思います。


 アシュリンの慈悲でしょう。助かりました。まだ勝機は失ってない!



「なかなか丈夫だなっ!」


 うるさいわっ! ふらふらで御座いますよっ!!


 私は横から蹴りを回す。


 アシュリンは消えた。


 また、背後でしょ!

 今度は土を蹴って上に行ったのが見えたもの。



 蹴りの回転をそのままに、私は振り向く。蹴りを続行したのは背後の間合いを広げる意味もあります。

 アシュリンはいました。で、私の蹴りの範囲外に下がるのを確認。


 私は蹴り足を地面に置いて、即座にそれを軸にし、別足でのもう一度の蹴りに入る。

 回転方向は一緒でして、自ら背中を敵に見せることになります。しかし、後ろ回し蹴りでアシュリンを撃ち抜くのです。激しい動きに私の服が破れる音がしました。戦闘用ではない、むしろ繊細な服でしょうからね。


 しかし、今はヤツを殺すのが先です。ん? 殺す? いえ、迷ってはいけませんね。



 こんな大技の途中で、アシュリンが襲って来ないはずがない。その通りでした。


 回転途中、もうすぐ真後ろにというところで、アシュリンの動きを感知しました。葉を踏む音だったのか、服が擦れる音なのか、何をもってそう判断したのか私には分かりませんが、アシュリンが攻撃に入った事ははっきりと認めたのです。



 クヌヤロー!!


 私は回転を加速させつつ、痛みを堪えて右肘を張る。近付いているであろうヤツにぶち当てるためです。


 一瞬、その肘に触った感じがありましたが、残念。また、逃げられました。


 しかし、私には追撃があります。最上段に上げた足をヤツの頭に当てるのですっ!



 体がほぼ一回転したところで、敵を視認します。


 まだ、いたっ!


 ブワンと音をさせて、私の足が唸る。



 ほう、腕でガードかっ! 本当に舐めるなっ!!


 私は押し切った!

 ガードしたアシュリンの腕を叩き折った上に、頭にも衝撃を与えたはずです。上腕が在らぬ方向に曲がった様に見えましたものっ!

 アシュリンの背がもっと低くければ、上から叩き落として地にも転がせたでしょう。


「これで、腕一本同士ですね」


「ほう、まだやれるか。服の股の部分が破れていると言うのになっ!」


 …………。

 ……破れた音は聞こえましたが、そこですか……。



 凄く気になります。しかし、アシュリンから目を外すのは自殺行為です。

 ん? そのまま闘うことも、誰かに見られたら、社会的な意味合いでより酷い事になりそうな気がしました。

 何よりそんな恥ずかしい所を見られるなんて、私自身が許せるものではないです。

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