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決闘開幕

 魔物駆除殲滅部の小屋の前で、私は深く息を吐く。憂鬱なのではなく、気合いを入れるためです。


 扉を開けた瞬間に殴り掛かられてしまう可能性を否定できないからです。



 なので、いつもと違って、まずはノックして入ります。相手に警戒している事を暗に伝えるためです。



 アシュリンはいつも通り、自分の机で座っておりました。服もピチピチの巫女服です。

 あれ? いつもより艶光している服です。新品かな。アシュリンの勝負服なのでしょう。私のパンツと同じですね。


 彼女はいつもと違って書類は読んでおらず、静かに目を閉じて精神統一されていたみたいです。


 私が小屋に足を入れた所で、彼女は目を開きます。


「来たかっ!」


「えぇ」


 言葉でのやり取りは短かった。お互いに、もう臨戦態勢です。



「場所はどうするんだっ!?」


 選ばせてくれるのか。……そんな余裕を感じているとは、舐めやがっていますね!


「人目に付かない所なら、どこでも」


 お前に選ばせてやるよ。


「ふん。では、裏の林だな」


 あっ。得意な所を選びやがった。


 蟻猿戦の時の軽やかなアシュリンの動きを思い出しました。木々を跳び跳ねての動きで翻弄される可能性があります。

 しかも、一応は私が魔法を使ってはいけない街の中です。



 くそ。汚ない。さすがアシュリン、汚ない。


 しかし、私も不得意ではないのです。何せ森の中での戦闘経験は村でいっぱい有りますから。



「念のためにルールを決めませんか? お互いに殺害は避けたいでしょう」


「あぁ。背中が地面に着いた方の負けにするか。あと、魔法は控えてやるっ!」


 アシュリンは手加減するつもりかな。転がせば勝ちという事ですよね。いえ、これは油断を誘っている可能性があります。


 魔法はそもそも使用できないでしょ。唱えてたなら、その隙を私は絶対に突きますから。分かっているでしょうに。



「それだけで宜しいですか? 頭部への攻撃は無しとかは要りませんか?」


「ふん、私がそんなルールを守るとでも思ったかっ!?」


 そうでした。でも、自分で言うなよ。

 アシュリンは平気で打ってくるでしょう。仮に私が敗けを認めても追撃をしてくる事さえ考えられます。



 アシュリンの先導で、私たちは林の中に入っていきます。


 ちょっと土が湿っていますし、枯れ葉が多くて踏ん張りが効きにくい場所ですね。

 木と木の間は意外に空いておりまして、戦闘の邪魔にはなりそうではありません。



「この辺りで良いかっ!?」


「構いませんよ。この木がアシュリンさんの墓標となるのですね」


「ガハハ、貴様っ! 調子に乗るなっ!! それに先ほど殺害はしたくないと言ったばかりだろっ!」



 アシュリンは巫女服を脱ぎ捨てた。というか、首元から両手で縦に破り切った。

 中にはもちろん別の服を着ておりまして、深緑色の軍服が出てきました。

 ……何の意味があったのでしょうか。最初から軍服でいなさいよ。もったいない。それ、新品っぽい感じでしたよね?


 しかし、初日と違って蹴りを解禁するという事は分かりました。



「では、やろうか。このゴミクズ虫がっ!」


 ちょっと懐かしいフレーズです。ならば、私も同じ様に出会った時の言葉で返しましょう。


「イエス、マム!」


 周りに誰もいないので、私もそう応えてやりました。

 アシュリンも少し唇が動いて、笑ったように見えた。


「くそ生意気な新人とは思っていたが、許さんっ! お前の母親はゴミクズ虫の親玉だなっ!」


 見え見えの煽りですね。テクニカル的な雑言だと分かりますので、私の怒りは湧きません。

 が、乗るのが楽しそうです。戦闘的に。


「クソがっ! そんな事よりも酒を飲ませろ、コノヤロー!」


 つい欲求が口を突いて出ましたが、何でも良いです。勢いが大切だと思いますです。



 私は静かに足を前後に、拳を前に構えます。お母さんに教わった、いつものスタイルです。

 対して、アシュリンも同じような構えで静止する。



 今日は奇襲をしません。アイツの実力は知っています。避けられたら、すぐに反撃されるのです。そして、その一撃が重いであろう事も知っています。リスクが高いのです。



 待ちます。アシュリンから仕掛けてくるのを。そこにカウンターと最初から決めていました。メチャクチャ痛いヤツをお見舞いしてやろうと考えています。



 しばらく互いに動かず、風に揺れる枝や葉の音だけが耳に入ります。


 間合いも遠めです。

 ……アシュリンの方が体力がありますね。このまま、止まっていると私が不利なのか。


 考えましたね、アシュリン。


 そういう作戦なのでしょう。敢えて先手を出させて迎え撃つのですね。しかし、それは力量に差がないと悪手ですよ。同じ事が私にも言えますね。


 街壁の外なら、私、魔法で牽制してから突っ込めるのになぁ。



 こちらから誘いますか。


「年増の分際で、私に勝てるとでも思っているのですか!? 早く這いつくばりなさい!!」


 私は敢えて大きな声で言います。微妙に拳をずらしたりして隙を作りました。



「ふんっ!」


 アシュリンが動き出す。

 速いっ!


 あっちの初撃は私の間合いの外からの横蹴り。私の肩口を狙っている模様。


 腕でガードするか、後ろへ避けるか、前に突っ込むか。

 私が色々と選べるのと同じだけ、アシュリンもそれぞれに対応策を知っているでしょうし、用意しているでしょう。それこそ、無意識でも対処できるように軍などで訓練していると思います。


 なので、予想の上を越えるのが最良です。


 私は遅れて、アシュリンと同じく蹴りを準備する。ただ、回し蹴りでなく、ボールを蹴るような後ろから前への単純な前蹴りです。

 リーチ差もあるので、私の蹴りは空振りすると思うでしょう! いえ、それどころか、無抵抗でアシュリンの蹴りの餌食になると彼女は思うでしょう!


 私は土を蹴り上げて、アシュリンの顔へ目掛けて飛ばす。視覚を奪うのです。

 でも、そんなものを無視して、アシュリンの蹴りは私の肩に炸裂し、その衝撃で私はすっ飛ばされました。

 致命傷では全くありません。ちょっと痛かったですが。


 そんな急所でも無いところを何故狙ったのか分かります。恐らくは浮かせるための一撃。そこから追撃で仕留めたかったのでしょう。

 そういう連撃だと私は知っていましたよ。その足の軌道からの攻撃は、お母さんに習いましたもの。


 しかし、足が浮いて私は無防備になっていたにも関わらず、アシュリンはその場で止まっていました。作戦成功です。

 土礫で、目を攻撃したのです。


 さあ、視界を奪われたままのアシュリンに私の渾身の一撃を入れましょう。

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