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明日は本気で行く

 今朝も聖竜様からお言葉を頂きました。そして、私は日々見守って下さる事に感謝致すのです。今日も一日頑張りますよ。


 

 トコトコと魔物駆除殲滅部の小屋まで歩く途中で、またエルバ部長を確認致しました。

 お暇なのでしょうか。


 私が遠くから会釈をすると、憤怒の顔をされました。

 何故かお怒りです。



 ……ルッカの事でしょうか。きっとそうです。

 推薦書とともに調査部にも連絡が行ったのでしょう。そして、吸血鬼なる魔族を神殿に入れることに調査部長としてお怒りなのです。

 しかし、本件、私は関係ありません。アデリーナ様が決められた事です。お二人でご相談下さいまし。


 私が迂回ルートを選択しようとすると、エルバ部長が他の巫女さんに引き摺られて建物の中に連れていかれました。



 今日も午前中は洗濯です。机の上にオロ部長の石とアシュリンさんが買われた篩とが置かれています。とてもワクワクします。



 今日の昼飯は、パンとスープだけでした。お肉が欲しいのですが、お昼は各部署で用意なので、うちにはありません。シェラに訊くと、礼拝部では牛や鳥の分厚いステーキを頂くのだそうです。この待遇差は何なのでしょうか!?

 ちなみにマリールの薬師処は、各自で用意との事です。だから、マリールも自炊しているらしいのです。とても意外でした。



 さて、まずはオロ部長からの石を粉砕しましょう。私が力を込めると、簡単にバラバラになりました。

 とても柔らかいです。


 オロ部長の筆記用具らしいので、持ちやすい様に細長く切り揃えられているのですが、ちょっと力を入れるだけで面白いように砕けていきます。


 素晴らしいですよ、オロ部長。

 最初から頼れば良かったです。


 初日にあんなに苦労した石の粉砕も簡単に終わりました。

 細かく割った後、机に手でグリグリ押し付ければ、粉になるのです。

 何より感触までもが柔らかいっ! これは大発見ですよ、オロ部長っ!!

 あなたの筆記用具は私の化粧品に生まれ変わるのですっ!



 で、いよいよ、篩に掛けようとしたところで、アシュリンさんが喋ります。


「貴様、いつになったら、料理の訓練を実施するのだっ!?」


「お待ちください。本日は麦の粉よりも重い、この石の粉をもって、練習致します。どうぞ、アシュリンさんはそちらで書類をお読みになっていて下さい」


「ふむ、腕力も同時に鍛えるわけだな。すまなかった。続けるが良い。しかし、持久力も忘れるなっ!」


 お忘れ下さい。あれは悪夢です。



 私は砕いた物を小屋の裏口、ここには水場があるのです。なので、ここであれば、埃が立ってもすぐに水で掃除できます。


 主菜用皿くらいの大きさの篩に乗せて、手で振動させます。当然ながら、下には広口の皮袋を置いています。


 くっ!

 通りが悪いです。目が細かくて、下になかなか行ってくれません。



 私は枠を叩いたり、振動を横だけでなく縦にもしてみたりと、頑張ります。


 しかし、粉は思った程落ちてくれません。むしろ、粉が集まって団子みたいなダマが出来上がるのです。


 疲れた私は篩を置いて袋の中を確認する。少しだけだけど、粉は落ちています。


 水で手を洗い、服で水気を取ってから、その粉を触る。

 まだ少し手が濡れていたので最初の方は湿ってしまいましたが、肌に塗った感触は悪くない。いえ、元は石だったとは思えない程に滑らかです。


 ……私、とても素晴らしいものを見い出したのではないでしょうか。


 それに喜び、私は篩の上に掌を置いて、押し付けながらぐるぐる回します。強引に押し出すのです。良い具合の篩が無い時は小麦粉もこうやって落としていましたもの。



 作業を終えた私はにっこりです。とても肌触りの良い粉末が得られました。



 皮袋を閉じて、私は扉からアシュリンさんに声を掛けます!


「アシュリンさん、これ、凄いのが出来ましたっ!!」


「……何だ?」


 テンションひっくぅ。

 いつも通り、そこは「何だっ!?」でしょうが。


 いえ、構いません。


「見て下さいっ! いえ、触って下さいよ、これ!」


 私は皮袋を持ってアシュリンさんの机に近付く。で、粉を見せる。



「目潰しの粉か? それなら、石よりも蛾の鱗粉の方が良かろう」


 蛾というキーワードに私は体がピクリとしました。


「違いますよ、アシュリンさん。私は蛾では決してありませんよ。認めません」


 いや、違う。そうじゃない。



「この石の粉末をお触り下さいっ! オロ部長の素晴らしい提案なんです!」


「何!? オロ部長のかっ!」


 食い付きが良いです。流石、オロ部長です。アシュリンさんの心をがっしり掴んでおりますね。



 アシュリンさんはガバッと皮袋の中に手を突っ込んで、ガッシリと握り拳を出す。


 あぁ、私が懸命に潰して篩に掛けたのにぃ。決して楽な労働では無かったのですよ。むしろ、私が苦手とするコツコツ系のお仕事だったのです。


「ふむ。滑らかな感触だ。分かったっ! グローブや靴の中に入れて、擦れ傷を緩和するのだな。流石、オロ部長だ」


 お前、何も分かってないです。



「違います。これは、顔に塗って綺麗にするためのものです」


「つまり、戦化粧かっ!?」


 ……それ、あれでしょ?

 蛮族の方々が顔に赤色とか黒色、青色とかの毒々しいのを塗りたくって敵をビビらすヤツですよね。


「そうかもしれませんね」


 面倒なので話を合わせます。



「ならば、色を付けなくてはならんなっ!」


「いえ、結構です。アシュリンさんの分を差し上げますので、ご自分の血でも混ぜれば宜しいのではないでしょうか?」


「遠慮は無用だっ!」


 クソがっ!


「これは白が良いのです。アシュリンさんの血を吸わすなら、一昨日の粉にお願いします」


 私は部屋の端っこに置いていた大きい皮袋を示す。こちらには、外で拾った石の粉末が入っております。私とアシュリンさんで石の潰し合いをした時のヤツですね。

 たっぷりありますが、どれだけ出血すれば着色するのかしら……。



 指した時に視線もそっちに持っていったのが失敗でした。アシュリンに大事な方の皮袋を奪われました。



「その子をお離し下さいっ!」


「子? 何を言っておるのだ、貴様!? これは没収とする。私が魔物の血で染めてやろう」


「ダメです! それは大切な物なのですっ!」


「ほう。この私に逆らうか?」


 こいつ、ダメだ。

 このままでは本当に目潰し粉として、私に振り掛けそうです。許せないです。


「分かりました。決闘です。明日の朝、その子を掛けて死闘を致しましょう」


「そうか。私も体が鈍っていると感じていた所だっ! 受けて立とう!!」


 そう言ってアシュリンさんは、袋を私の顔に投げ付けた。

 飛んできたそれを手で掴み、私は床に叩きつけて叫ぶ。


「アシュリンさんが吠え面をかくのが楽しみですっ!」


「面白い。明日は本気で行く」



 私は袋を拾い直して、小屋を飛び出しました。


 私、冷静です。

 ちゃんと粉を取り戻した上に、早めにお仕事を上がれました。ラッキーです。

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