先輩を頼る
スードワット様の所から帰ってきて一週間、特に何もなく暇で御座いました。
毎朝恒例のマリールの胸モミモミに関してもシェラさんとの攻防を見守るのみです。
マリールさん、私にすると仕返しされる事をようやく学習したというか、シェラさんの方が揉み甲斐がありますものねぇ。
しかし、何事もないなど、私は畏れ多いことを考えてしまいました。
マリールがシェラと遊んでいる、その時間くらいに聖竜様から『息災か?』とお声を掛けて頂けるのです。で、私は「はい。ありがとうございます」と答えて一日が始まります。素晴らしい事です。
アデリーナ様のお願いを聖竜様がお聞きになってくれているのです。
そんな毎日を暇だなどと感じるなんて、私は贅沢でした。幸せに慣れてはいけません。
そうそう、二着目のスードワット様の匂いが染み込んだ服は皮袋に入れて、いつでも吸えるように保管しています。巫女長様にも言いません。
今は、ゾビアス商店から別に支給されていた服を着ています。部屋に帰ったら、替えの服まで用意されていたのです。太っ腹です。
問題はパンツです……。
私はゾビアス商店から頂いた物とアデリーナ様から頂いた物とで大きく異なるために密かに悩んでおります。
シェラの下着姿は見たことあります。あれは胸も下も、とても綺麗な白い布で出来ていました。
しかし、どの様な形状だったかまでは注目していなかったのです。
最近は私たちのいない所でシェラはお着替えされているので、確認することが出来ません。
ゾビアス商店からのパンツは薄桃色と水色の物でして、二枚とも多分前だと思われる面の真ん中に、小さなリボンが付いております。
対して、アデリーナ様からの物は真っ赤で、スケスケの網になっているんですよね。おまけに、蝶の形に穴が空いているし。
どちらが淑女として相応しいのでしょうか……。蛾の問題はさておきですよ。
マリールやシェラにお尋ねするのは、何となく恥ずかしいのです。
いえ、アデリーナ様から高級な物を頂いたと自慢する事になるのではないかと案じているのです。そう、貴族様のご息女であるシェラでさえ身に付ける事が出来ない程の物を。
ということで、パンツローテーション的に、アデリーナ様からの物が当たる日は、隠れて着替えております。
私のパンツは現在三枚有り、それを順繰り毎日交換して穿いているのです。
穿き心地という意味では、両者とも利点があります。
アデリーナ様のものは通気性に優れており、意外に快適です。
但し、これ、もしも見られた時には生尻を見られるより恥ずかしいのではないでしょうか。
ゾビアス商店からの支給品は、その何でしょう。締め付け感があるのですよね。でも、これは慣れれば良いのでしょう。蛾にならないという最大の利点を感じております。
しかしながら、ルッカさんのパンツもこのタイプだったというのが大きな問題です。
あの人の格好は、夜の妖しい街角に立っていてもおかしくないものなのです。そう言った方々が御用達の形式なのかもしれません。
シェラやマリールのパンツをこそっと確認したいのですが、靴どころの騒ぎでは無くなってしまいそうです。
別室にされてしまう恐れさえあります。
で、色々考えた結果、私は魔物駆除殲滅部の先輩を頼ることにしました。
先輩もここ数日は暇そうで、ずっと自分の机で書類を眺めておられます。いえ、たまに、書き書きしてますね。
部屋にはアシュリンさん用の事務机の他に、主に打ち合わせで使う四角い食卓みたいな粗末な机があります。
その食卓みたいな方で、私はお茶を飲みつつ、アシュリンさんの仕事が一段落しないか観察しています。
ん、良い頃合いでしょうか。
「アシュリン先輩、ご相談があります」
「何だ!? 奇妙な話なら、アデリーナに振れ」
その選択肢も熟考しました。が、失礼でしょうよ。折角下さったのに、どちらを身に付けるべきかを訊くのは。
「真剣な話です」
私的には。
「ならば、聞こう」
私は腰の所に付いているポケットから二枚の布を出す。パンツです。水色と赤色です。つまり、今、私は薄桃色を穿いております。締め付けられております。
それをアシュリンさんの机の上に広げて置く。アシュリンさんは座っていて、私は机を挟んで立っております。
「……何のつもりだ?」
「私のパンツのつもりです」
「殴られたいのか? 何が真剣だ」
「ご無礼だとは思いますが、私の相談に乗って下さい」
「……仕事の書類の上には置くな。話はそれからだっ!」
おぉ、すみません。まだ読んでいる途中の書類の上に置いてしまっていましたか。
「で、何だ?」
「アシュリンさんのパンツは、どちらのタイプですか?」
「……貴様、私がこの様な下着を身に付けると思っているのかっ!?」
指差した先は真っ赤な方でした。つまり、アシュリンさんは、この蝶のタイプでは無いという事ですね。
逆説的に、やはり淑女にはスケスケか。
勉強になりました。ご協力に感謝です。
「了解です! ここぞと言う時にはこれを穿きますっ!」
何せ1枚しかありませんからね。
「ふん。仕事ではこちらを穿くんだっ! 分かったなっ!」
アシュリンさんは水色を指しました。
それから呟きます。
「貴様もそういう事柄に興味を持つ歳なのだな」
ふふふ、レディーを目指していますから。
そして、目下最大の疑問も訊くのです。
さすが先輩ですよ。私、何でも相談できます。
頼りにしているというか、この人、バカっぽいって言うか、後腐れしそうにないのが大きいですね。
「この赤いのを使用しますと、アミアミの部分から黒い何かが見えてしまいます! 意味が分かりませんっ! どうしたら宜しいでしょうかっ!」
「意味が分からないのは、こちらのセリフだっ!」
立ち上がったアシュリンさんに額を正拳突きされました。……痛いです。でも、手加減済みですね。
それから、ドシンと椅子に再び座られます。
しばしの沈黙の後、アシュリンさんは言いました。
「処理の仕方を知らないのか?」
えっ、知っておられるのですか……?
私は唾をゴクリ飲み込む。
「野営が続くと不衛生になる為、全部剃るっ!」
なっ!!
マジですかっ!!
その発想は無かったですよ……。
やり方まで教えてもらいました……。
ハサミで短くしてから剃刀ですか。そして、一番のコツは、剃刀負けを防ぐためにスライムの粘液を塗る。あれを泡立てて塗るのですか……。レベル高いですよ…………。
すみません、当分は蛾で良いですわ。
コリーさん、今度会ったらご報告致しますので、お先にお試し下さい。




