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今行かずにいつ行くの?

 私が魔法発動の為の精神集中を行う前に聖竜様がお口を開きになられた。


『くくく。そなたらは仲が良いのだな。我も昔の友を思い出そうぞ』


「聖竜様、昔の友というと、あなたに騎乗されたという伝説の騎士でしょうか?」


 アデリーナ様が聖竜様にお尋ねされる。


 私は魔法発動のタイミングを逃しました。聖竜様がお喋りですからね。

 手を前にしているのが恥ずかしいので、元に戻しました。



『ふむ、お主は誰だ?』


 アデリーナ様は聖竜様の覚えにないのですか。つまり、お声をお聞きになっていない巫女様でしたか……。


「私の姓はブラナン。アデリーナ・ブラナンで御座います」


『…………おぉ、ブラナンか。懐かしき名を…………。今日は素晴らしき日である。こうして、ブラナンを含め、新旧の知己を迎えることが出来るとはな』


 ブラナンは確か王家の人の姓ですね。

 まぁ、聖竜様が知っていて不思議はないのでしょうかね。


 それよりも、私は新しい知己なんですよね。と言うことは、まずはお友だちから始めましょうですねっ!



 さて、場も温まって来ましたので、再開しましょう。

 ルッカの駆除を。



「アデリーナ様、お退き下さい。今からルッカさんを望み通り、天に返します」


「えっ、私の話の途中なのですが、そうなのですか? 聖竜様とお会い致すまでという契約なんでしょうかね」


 私はそれに答えません。なので、アデリーナ様が続けます。


「色々あって、私も頭の整理が出来ていないのですが、メリナさんに従った方が宜しいのね。私としては、聖竜様にお会い出来たのだから構いませんよ」


 アデリーナ様は私の後ろへ移動します。



『メリナよ、もしや、先日の『竜の嘶き』をルッカに向けるのか』


「はい、その通りですっ!」


 ウキウキしますね、聖竜様。

 それに、竜の嘶きって言うのかな、アレ。うふふ、私も竜の一員みたいですよね。




『ルッカよ、それで良いのか……?』


「んー、微妙ね。もう少し巫女さんと一緒にいてもいいかな」


 何を勝手な事を言っておられるのですか。

 説得しないと。


「大丈夫です。生まれ変わってから、お会いしましょう。来世でお待ちくださいね」


『……メリナよ、来世など無い、いや、魂と呼ばれるものが解き放たれた後にどこへ行くのか分からないと、我が最も信頼する友、先の騎士が言っておった。止めるが良い』


 止めないといけませんか……。聖竜様の御言葉ですものね……。

 くぅ、やるせないですよ。来世なんて言葉を使うんじゃ有りませんでした! 「毎日、墓場にお花を持っていきますね」くらいにしておけば良かったですっ!


 私は拳を強く握る。血が滲んできそうです。


 そして、最も信頼する友ですか。聖竜様の「最も」ですか……。それを越えるのは容易ではありません。どうすれば良いのか、私は熟考する必要があります。



「メリナさん、ルッカさんを意のままに抹殺しようとしたのですね。良いことでは有りませんよ」


 貴様、アデリーナっ!!

 今朝、何人かの処刑を見届けたって、あなたが言ったばかりでしょう!!!

 聖竜様の前で、私が悪く思われる様な事を言うんじゃない!!



「聖竜様、メリナさんは少しあなた様をお慕いするお気持ちが強いのです。できれば、彼女に度々お優しい言葉をお掛けして頂けると、私どもも助かります」


 おぉ、アデリーナ様!! 白薔薇様!

 私、あなた様の事を誤解しておりました。小うるさくて、先輩風をいつまで吹かすのよと、心の奥底で感じたりしていたことを懺悔致します。


『うむ。ブラナンが言うのであれば従おう』


 おほっ。おほほほ。




「それで、すみませんが、このアデリーナ、聖竜様に二人だけでお話したいことがあるのですが、宜しいでしょうか」


 ……二人きり? まさか、アデリーナ様まで狙っておられたのですかっ!?

 私の気持ちを上げて落とす。何たる悪女っぷり!


『初代の事か?』


「よくお分かりですね。その通りです。しかし、その先は言えません」


『ルッカに託けるが良い。信頼して良い……』


「そのご返答で、ご了解頂けたと理解します」


『う、うーん。……うん』


 アデリーナ様はニッコリされました。




「次は私の番ね。話したいことがあるの」


 ルッカさんが前に出る。


「いえ、ルッカさん違いますよ。ずっと私の番です」


『グハハハ、他愛もない喧嘩こそ、真に仲が良い証拠だな。カレンとマイアの様だ』


 聖竜様が仰った二人は、昔話に出てくる従者の方ですね。魔法使いのマイアと武道家のカレン。大好きな話だから、よく知っています。


『どちらがマイアで、カレンなのであろうな』


「私、メリナなら、両方の役を出来ますよ。ですから、是非、お側に。は、伴侶で宜しいです」


 大切な所で噛んじゃったけど、聖竜様の一番になりたいのです。私も乙女です。考えた末の結論でした。


 私の言葉に場が静まる。




「……確かに両役を出来そうですね」


「武道家っていうか狂戦士でしょ。魔法は間違いないか。グレートね」


 お二人はお黙り下さいね。私のプロポーズ現場なのですから。注目するところが違いますよ。




『えーと、メリナさんは雌だよね……?』


「はい。雌です。立派な雌人間です」


 私は聖竜様に誠実にお答えしますよ。



「聖竜様は、どうして即でお断りにならないの? もしや、脈があるので御座いますか、ルッカさん」


 アデリーナ様が小声でルッカさんに訊くのが聞こえました。


「こう言ったら悪いんだけども、スードワット様は優柔不断なの。押し込めば可能性はゼロじゃない」


 そのルッカさんの言葉に、私は心の中で狂喜します。可能性があることだけでなく、ルッカさんが聖竜様に恋心がないのが分かったのですっ!



「どうですか、私。頑張れば、竜化の魔法も覚えられると思うんです」


 考えるよりも先に口が動きましたが、竜化!! 素晴らしいアイデアですよ。

 乗りに乗ってますよ、今日の私は!



『ちょっと待ってね。少し考えるから』


 重低音の声を発せられた後、聖竜様は首をグネグネさせています。



「おぉ、凄いかもよ。一応、真剣に考えてるわ」


「……信じられない物を目にしているのですね、私。メリナさんを少し尊敬致しましたよ。伝説が生まれるのですか、今日、この場で」




『答え出ましたっ!』


 おぉ、砕けた感じ! これは来たか!


『伴侶にするには、メリナの寿命が足りません。よって不可です』


「ふ、不老不死の魔法を編み出しますっ!!」


 くぅ、ルッカなら良いって言うのかっ!




『うっ、じゃじゃ、メリナがね、もしも10年経ってもそう思っていたら、もう一回考えようね』


「分かりました。では、魔族になるにはどうしたら良いか教えてください。長生きしたいです」


『……ルッカ、助けて……信じられない』


 もっと押すわ。私は負けません。



「仕方ないわね。巫女さん、今日はここまでよ。スードワット様も満更でもなさそうだから、また今度にしましょう」


「ですが、今行かずにいつ行くのですか?」


「進み過ぎると崖に落ちるかもしれないよ。ほら、スードワット様のお目をご覧なさい。……ぷっ、怯えて……いえ、親愛なるあなたを見極めようとお考えなの」


 なるほど。私が相応しいかをですね。

 興奮しすぎて忘れていました。


「了解致しました。非礼をお許し下さい、聖竜様。今後の私の活躍をご覧になって下さいませ。必ずや、もっと傍に置きたいと思って頂けるかと存じます」


 そう、今日はここまででも良いの。この私を意識さえしてくれれば良いのです。徐々に関係を深めていきましょうね、聖竜様。そして、ゆくゆくは私が聖竜様の一番になるのです。



『我は確認したい事がある』


 はい、何でしょうか。


『我の性別が明確に分かる人、手を上げて』


 はいっ!

 後ろの二人も手を上げていますね。




『うむ。分かった』


「何がですか?」


『今の質問が何ら意味も無さないことを』


 ふふふ、もう愉快なんだからぁ。




「あっ、聖竜様。宜しいですか。あなた様が今ご懸念されている事は理解致しました。しかし、それについては然るべき時にお伝えした方が宜しいかと思います。種族の差を乗り越えるメリナさんなのですから、余り意味がないでしょう。意味があったとしても悲劇が待っているかもしれません」


 何の話でしょう。

 …………そうか、断られる可能性か……。いえ、破れかぶれの告白でしたから、ショックですけど、当たり前の事だと私も納得しますよ。またリトライすれば良いのです。



『うむ。その進言、聞こうぞ。我もつい先日メリナの魔法を受けたばかりである。……5000年ほど生きてて、多分一番きつかった。……死んだと思ったの。だから、言えないの。分かる?』


 またまた大袈裟なんですから。ドラゴニックジョークでしたでしょ。


「……お気遣い、本当に感謝致します」


 アデリーナ様とルッカさんが深くお辞儀されました。なので、私も真似てお辞儀しました。

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