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私はそれが出来る女

 暗くて湿っぽい、そして、床から立つ棒の先に灯り。それに、芳しいこの香り。


 私は戻ってきたのだ。聖竜様の御座す空間に!!



「メリナさん、ここ、どこですか? 鼻を強く刺激する臭気がこの世とは思えないのですが……」


 あれ、アデリーナ様もいらっしゃったのですか?


「ちょっと、あなたまで来るなんて思ってなかったわ。どういうつもりよ」


「私は何もしていません。手を寄越せと仰るものですから、私の手を差し出したまでです」


「もうバカねぇ。転移魔法に付いて来るなんて思ってなかったわ。あなたもクレイジーよ」


 薄暗い中、私達三人は固まって立っています。

 なので、アデリーナ様の表情も見えます。

 ルッカさんの暴言にも柔らかい微笑みでした。えぇ、言葉と違って嬉しそうなんです。


「ここは、魔族の住み処? いえ、吸血鬼の城で御座いますか。魔物の巣の様に異臭が漂っていますね」


 これは、早めにお伝えしないと。聖竜様への侮辱をアデリーナ様が重ねてしまいます。

 


「アデリーナ様、ここは聖竜様の御前です」


 私は照明魔法を唱えました。




 聳えるような、お眠りの聖竜様の白いお体が眼前に現れました。とてつもなく荘厳で、とてつもなく安らかなお顔です。

 眼前と私は言いましたが、聖竜様のお体全部が見るのですから、相当離れていますね。




「! こ、これが聖竜スードワット…………様……」


 アデリーナ様が感動の余り震えられました。おぉ、王家の方であっても、やはり聖竜様の偉大さの前にはそんな反応になるのですね。


「やっぱりね。巫女さんの聖竜はスードワット様か」


 あっ、忘れてました。ルッカさんの失言を誘いたかったのに嵌め忘れましたよ。うっかりです。


「私が牢に入る前は邪竜って呼ばれていたのにね」


 なっ!?


「それ、同じ名前の別の竜でしょう。ルッカさんは、一刻も早く、そちらのスードワットさんの所にお行き下さい。じゃないと、私があなたを駆除しますよ」


「まぁ、怖い。私、遂に死んじゃうのね。でもね、邪竜って呼ばれてるだけで優しかったよ」


 刻を飛べるなら、その当時の人たちを懲らしめてあげたいですよっ!




「ルッカ、何故、これ程までに畏れ多い場所に転移したので御座いますか?」


「巫女さんと約束していたからよ。それに、さっきの場所から近くて、暴発しても何とかなる場所がここしか思い付かなかったの」




 そこで、ゆっくり聖竜様の目が開きました。私の照明魔法の光で目がキラリンとしたのが、また何とも私の心を揺さぶりますね。



『また会ったな、メリナよ』


 腹に響く重低音。足が感動で震えながらも、私は堪能します。


「はい。再会でき大変光栄です」


「……人語。しかも、現代のか」


 本当に無粋ですよ、アデリーナ様。何を小難しい事を言っているのですか。




『む、そこの娘はルッカか!? 久しいな!』


 ちょ、聖竜様!! そこの売女みたいな格好の娘に話を振らなくて良いのです!!


「久しぶりね。元気してた?」


『う、うん……。いや、お主も息災であったか?』


 親しそう!!

 聖竜様が『うん』って言ったよ!!! 聞き逃さないよ。メリナ、悔しくて憤死しそうですっ!


「死ねなかったね。横にいるメリナが助けてくれなかったら、永劫の苦しみを味わう所だったよ」


『そうか。シャールから魔力が消えたため、望み通り死んだものと思うておった。メリナよ、よく我が使徒であるルッカを救出してくれた。感謝するぞ』



 私、複雑です。聖竜様からのお言葉は大変素晴らしいのですが、それよりも、隣のルッカを生かしておいて良いものか。私は考えないといけません。




「ルッカさんは死にたかったのですよね。私が殺します。感謝の言葉は不要ですよ」


 はい、結論出ました。


『メリナよ、待つが――』


「一応訊くわよ。どうやって私を殺すの?」


 聖竜様のお言葉に被せるとは良い度胸ですね、ルッカ。



「私の全力、聖竜様のお体を傷付けた魔法を唱えます」


 アデリーナ様が呆れた顔をされました。


「メリナさん、聖竜様をお慕いしてるんでしょう。何故にそんな事が出来るのでしょうよ。いえ、そういう娘であることは承知していますが……」


 えぇ、私もあの時は青褪めました。傷どころか首を落としましたからね。言いませんけど。


 

「その程度で私を殺せるの?」


 是非試しましょうよ、ルッカさん。私は殺る気マンマンですよ。死にたいのなら、遠慮も要りませんよね。


 私は手を前に出す。でも、ちょっと近いなぁ。アデリーナ様も巻き込んでしまいそうです。



「ルッカ、お止めなさい。メリナさんの全力は本当に危険で御座います。聖竜様であるからこそ受け止められたと考えて良い代物です」


「うふふ、ありがとう。でも、受けないと分からないわよ」


 その余裕が恐怖に変わる前に命を奪いますから、ご安心下さいね。

 笑顔で去らせてあげるわっ! 私はそれが出来る女です。

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