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牢の外での顛末

 アデリーナ様のお部屋に連れていかれました。ルッカさんもご一緒です。

 お酒が変わらずズラッと棚に並んでおりますね。



「まずは、そうですね……」


 アデリーナ様は私の目を見ながら口を開かれました。


「メリナさん、お酒は?」


「お酒は毒です! もう二度と飲みません!!」


 おぉ、まだ反応しますよ、これ。

 突然の声に隣のルッカさんもビクッとされました。


「宜しい。忘れていませんね」


「アデリーナ様、これ、呪いの類いではないですか? 私の意に反して叫ぶんですけども」


「意に反する?」


 笑ってる、笑ってるわ。目は笑ってないのにぃ。


「…………何でもないです」


「なら、宜しいですね」


 なんて非道な方なのかしら。いつか闇討ちに合うのではありませんか。 




「その使い魔は、いつまでお出しになられるのですか、メリナさん?」


 アデリーナ様の問いに、私は返答が遅れました。奥の瓶を眺めておりましたので。

 ルッカさんが代わりに答えます。


「あら、今から秘密のお話なら消えようか? 私、スマートに去れる女」


 いえ、それではダメです。私を聖竜様の所に連れて行かないとならないのですよ。



「いえ、結構です。メリナさんが不服そうですので。分かりました。このまま、お話致しましょう」


 アデリーナ様はルッカさんが私の使い魔ということで納得されているのでしょうか。かなり無理があるかなと思っているのですが。



「メリナさんも状況がどうだったのか知りたいでしょう? お互い話しましょうね」


「いえ、私は大丈夫ですよ」


「そう言わず、私の方だけでもお聞きになりなさいな」


 えー、私、食事がしたいのですよ。何故、このタイミングでお腹の虫が鳴いてくれないのでしょう。



 アデリーナ様は私を待たずに喋られます。

 仕方なく拝聴致します。



 何でもアデリーナ様と巫女長様が、かなり頑張られたようです。


 最初は巫女長が知己のシャール伯にお願いに行ってくれたそうです。流石に巫女長ともなると伯爵様ともお話が出来るのですね。凄いです。


 でも、交換条件として神殿から伯爵様にお出しする、毎月のお金の増額を求められたそうです。

 知らなかったですが、神殿は税金みたいなものを伯爵家に納めないといけなかったのですね。世知辛さも知りました。


 巫女長様はその条件を組織として検討するために持ち帰ることにします。


 アデリーナ様は別に動いて、街中に私が牢に捕らわれているらしいと噂の形で流します。いえ、真実ですから噂ではないですね。

 その際には酒場にいた皆にも協力してもらったようです。ニラさんやその仲間、マンデルさんとかですね。


 ……そういえば、絞め殺しの何とかさんはどうなったのでしょうか。ニラさんをイジめていたら、今度こそ仕留めないといけません。



 それが昨日の昼までのお話とのことです。時間的には、私がアデリーナ様からパンツを頂いた後から、見張り番に猛毒のスープを与えられた所くらいでしょうか。


 夕方くらいには、私が捕らえれているのが確定事項として街の方々に伝わります。

 牢の見張り番が神殿に贖罪に来たからです。聖衣に対して大泣きで謝り倒す、その姿は異様であるものの、人々に私への憐憫と聖竜様の怒りへの不安感を呼び起こすには十分でした。


 アデリーナ様は「裏話だけどね、彼に私が少しお話したのよ」って軽く言われましたが、きっと、実際には違いますよね。退勤する見張り番を見張り、脅して、神殿に来るように仕向け、そして、皆の前で懺悔させる形にしたんじゃないかな。あくまで私の予想だけど。



 夜中までには神殿を参っていた方々と街の住民が私の閉じ込められた施設を囲み始めます。

 あっ、その施設の名前は第三街区治安保持本部っていうのが正式名らしいです。でも、通称名は監獄。文字通りですね。



 この時間辺りでシャール伯自身ではないですが、その側近が動き出されて、私の赦免に動き始められたそうです。街がざわざわしていたのを感じ取ったのでしょう。

 恐らく、私が最下層でコリーさんにパンとリンゴを与えられた時くらいでしょう。裁判官とかいう人が私を釈放したがっていましたもの。


 あぁ、それにしても空腹です。




「アデリーナ様、私、その時分から今まで食べていないんです」


「あら、早く言いなさいよ」


 高貴なるアデリーナ様、感謝申し上げます。

 私は、後ろの棚に入っていた甘いパンを頂きました。表面に掛かっている白い粉末が凄くスイートです。これ、病み付きになります。白い粉だけでも良いくらいです。


「使い魔の方も、お食事が必要ですか?」


「ありがとう。でも、もう巫女さんの血をいっぱい頂いたからお腹いっぱいなの。」


「血? 使役の契約に血が必要だったのね。そういう系統の使い魔ですか……」


 話は続きます。私、興味ないので退屈です。パンを食べるとお酒も欲しくなりました。




 囲んでいると言っても、別に暴徒って訳でなく、私の無事を皆で祈っている感じだったらしいです。で、真夜中に突然、その方々が眠りに付かれたのです。

 コリーさんが言っていた睡眠魔法を使ったというのがこれでしょう。そう言えば、私も椅子の上で寝てしまいましたね。あれもコリーさんの魔法の影響だったのでしょうか。




「アデリーナ様、もう一つパンを下さい」


「はい。あと、お酒は?」


 えっ、頂けるのですかっ!?


「お酒は毒です! 二度と飲みません!」


 えー、ほんとに何なのですか。私は一生、こんな呪詛を唱え続けるのですか。




 巫女長はこの異変を利用します。聖竜様の御業と皆に喧伝。フローレンス様曰く、「聖竜様のご慈悲と怒りの顕現」。




 私はここで引っ掛かります。聖竜様を騙ったのですか。許して良いことではないです。

 

「そんなお顔をしないで、メリナさん。聖竜様は『メリナは我が最も気に掛けている者である』と巫女長様にお伝えされたらしいわよ」


 えぇぇぇ、それは仕方ないでしょう。

 うふふ、聖竜様たら、もう私自身に言って下さいよぉ。




 続きですが、民衆は聖竜様への畏れと恐怖で暴徒となりかけます。ここに至り、フローレンス様は民の前で、「聖竜様の次のご意志を待とう」と厳かに語り、制御を図ります。

 ご自身で煽っておきながら、なかなかの策士です。それだけ、その巫女長の権威に自負をお持ちなのでしょう。

 でも、そんな感じの人には思えなかったなぁ。巫女長は人の良いお婆さんって感じなのに。


 民をコントロールする巫女長に代わり、アデリーナ様がシャール伯と面談。王族が訪問したという事実は無下にできず、そのために夜中で、その上に約束もない状況なのに伯自身が対応しました。


 アデリーナ様は一介の巫女に過ぎませんが、下位であっても王位継承権をお持ちですからね。もしもアデリーナ様が女王になられたら、伯に大きな不利益が出る可能性があると判断されたのでしょう。


 既に伯からの条件は入手済みなので、交渉は簡単ではなかったけれども、難しくもなかったとのことです。


 私にも分かります。


 要は金の話なんですから。しかも、立場は逆になって、神殿が伯に協力してあげる側に変わっているのです。


 巫女長からアデリーナ様への伝言は、神殿域の拡大要望を通すこと。

 それを見事にやり遂げたのが、朝。


 それで、私の解放に繋がったようでした。




「アデリーナ様は何を得られたのですか?」


 私、覚えていますよ。パンツを貰った時にアデリーナ様が良からぬ事を言っていたのを。


「…………シャール伯から王都に出す、私に関する監視報告書の検閲及び書換の権利。正しくは、現担当官全員と関与する者の捕縛と処刑、それから私が指名する者の新任。その執行を終わりまで見届けるのに、朝まで掛かりました」


 ……訊くんじゃありませんでした。 さらっと、実にさらっと恐ろしいことを仰いましたよね。


「ふふふ、聖衣のメリナ。とても役に立ちましたよ。シャールの街さえも手に入れる事が出来そうなくらい、事態は緊迫していたのです。聖竜様は偉大ですね。これで、私の話は終わりで御座います」



 アデリーナ様が立ち上がって、グラスを三つ出して来られました。

 事情は知りたくありませんでしたが、遂に私を労って頂けるのですね。



 ボトルを開けて、トクトクと注いでいかれます。私はじっと見る。笑みが隠せませんねぇ。

 えへへ。悪いことの後には良いことがあるものです。



「メリナさん、欲しいでしょう? 正直に次の問いに答えれば差し上げますからね。…………そこにいるルッカは仇国の魔族?」


「はい。吸血鬼です。以上」


 言い終えて、私は一気にグラスを飲む。


 くはっ!

 マズッ! でも、喉と胃には心地良いのです。


 次の杯にも手を伸ばします。三杯もくれるなんて嬉しいですっ!



「ちょっ、巫女さんの魔力が跳ね上がっているんだけど。何をしたのよ!? クレイジー!!」


 ルッカさんがアデリーナ様に叫んでいるようですね。んふふ、お酒美味しいですねぇ。

 最初は不味かったのに不思議ですぅ。マカマカ摩訶不思議でーすぅ。



「もっと悩むと思っていて油断したのよ!! すみませんが、何とかお願いします!」


 私は三杯目に手を出します。

 なんて魅惑的な赤色、いえ、緋色なんでしょうね。ロマンチックです。私と聖竜様と繋がる運命みたいですね。


「ええ!? 後始末、私なの!? スーパークレイジー!! 巫女さん、ちょっと手を寄越してっ」


 へ? 右手を? じゃあ、左手で呑みましょうか。良かったですね。私がご機嫌で。

 邪魔だったら、あなた、燃え尽きていましたことよ。


『我は願う、その冥き途を往く獅子に。舞い上がるは砂礫の紫葉。幼童を憩う合壁の灯籠。闇を開く、神久への非至たる其は誉れ。錨鎖は打ち砕かれん、血霊の瞬き』



 意識がはっきりした瞬間、感じたのは聖竜様のお匂いですっ!

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