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使い魔と言い訳

 アントンの視線は私の横のルッカさんに移る。


「さて、次はお前だ。ルッカなる者は私の管轄する囚人の中にはいなかった。何者だ?」


 ここで「吸血鬼です」なんて言うと退治されてしまいますよ。結果、私は聖竜様の所に連れていって貰えなくなるのです。


 それはずっと思っていまして、だから、私は回答を準備済みです。



「私の使い魔です」


 私はそう言いました。


 使い魔については本で読んだくらいの知識しかありませんが、魔法で作り出したり、使役魔法を用いたり、特殊な契約をしたりして、自分の命令を聞かすようにした魔物や魔族のことです。


 ルッカさんを外に出す名目として、どう言い訳をするのか考えていたのでした。



「有り得るか、コリー?」


「……分かりません。が、あのアンチマジックの中でも、メリナ殿は信じられない程の威力の魔法を無詠唱で連発していました。可能性としては低くはありません」


「魔力系統的には?」


「メリナ殿とそこの娘の魔力は似通っている様に感じます」


 血を差し上げましたから、そうなのかもしれませんね。

 でも、コリーさん、エルバ部長みたいに魔力が云々とかが分かるのですね。その能力があると魔法の発動タイミングも見えたりするのでしょうか。



「更に私との戦闘で、メリナ殿は何ら躊躇いなく、そこのルッカを盾にしておられました。使い魔であれば納得の行動です」


「分かった。不確かではあるが、それで処理をしよう」



 よしっ!

 私は足の上に置いた手を軽く握りました。




 私たちが去ろうと背を向けた所で、コリーから私に声が掛かりました。


「メリナ殿、『蛾は蝶になれるのか』という問い、それはあなたご自身のお悩みでもあると思います。ならば、私から伝えることがあります。あなたは私よりも蝶であると」


 そ、そんな……魔法の力で覗き見ですか、コリーさん…………。

 出来たとしても、絶対にしてはいけないことなんですよ……。行なったとしても、絶対に伝えてはいけないんですよ……。それがエチケットですっ!!


 これは私への仕返しなのですか。

 …………今から殺し合いをご所望なのですかっ!



「蝶を目指す。その想いは負けません」


 コリーは続ける。私は背を向けたままです。


 私の殺気は隠せているかしら。

 決定的な言葉を吐こうとした瞬間に不意を突いて、火炎魔法を最大出力で放つ所存です。精神を研ぎ澄ますのです。

 コリーがいなくなるのであれば、やっぱりアントンも纏めて吹き飛ばしてやりましょう。



「横にいらっしゃる巫女様があなたの忠義を示すべきお方と想像します。汚れ、傷付いても不平や苦労を言わず、そして感じさせず、それに対して主人は『お疲れ様』の一言で済ます。お二人の、その厚い信頼と精神性が私を触発致しました」


 マジ分かんないです。何の話ですか。


 私の足を踏んだアデリーナ様の行動も分かんないです。

 私が困っている間にアデリーナ様が返答します。


「赤毛のコリーさん。その様に考えて頂き、照れ臭く、また、恥ずかしい気持ちもありますが、感謝の気持ちも御座います。真実と言うものは常に隠され見えないものです。この度の事は他言なされないようにお願い申し上げます。また、お二人の行く末が幸に満ちることを、畏れ多くも、聖竜様とデュランの清き気高い聖女様にお祈り致します。なお、無粋ですが、メリナさんから没収していた金貨は牢の修繕にお使いください」


「あぁ、無粋だ。無論、そのつもりだった。そんな予算はなかったからな」


 アントンはアデリーナ様の最後の付け加えの部分にだけ答えました。


 で、アントンは別の事を私に訊ねて来ました。

 

「聖衣のメリナよ。血統の話なんだとしたら、お前の基準では俺は蝶なのだろうが、蛾となっても良いのだぞ」


 知るか。想像するでしょ、クソが。

 そもそも、お前の下半身が蝶である事にお前自身、何らメリットがないでしょ! 勝手に切り揃えておきなさいよっ!!

 気色悪いこと、この上ありません。


「……恐怖さえ感じました。二度と口に出さないようにお願いします」


「アントン卿、あなたに伝えるべき真実は御座いますが、第一にはメリナさんと同感で御座います。私に対する不敬罪に問いたいとの思いさえ湧きましたよ」


 それが私とアデリーナ様の答えでした。アントンは大きく腕を広げて言います。


「……私の血は、そこまでに崇高か。呪いのようだ」


 無言を貫きます。仕草にさえイライラが募り、「地獄に落ちろ」と言いたいのを我慢していましたから。



 

 こうして、私たちはアントンが所轄する施設を出ました。

 久々の太陽が眩しいです。


「大丈夫ですか、ルッカさん。日光が痛いとかありませんか?」


 吸血鬼ですもの。話に依りますが、たまに太陽の光を浴びると溶け出すような事を書いた物語も読んだことがあります。


「えぇ、大丈夫よ。私は強いの。ストロング」


 とは言っても、目を押さえていらっしゃいますよね。




 先程までいた建物を庭から振り返りますと、石造りでどっしりとした構えですが、大した高さはありません。恐らくは地下牢の形式なんでしょうね。


 あっ、馬車置き場にラナイ村に向かった時と同じものが置いてありました。

 これで神殿まで帰るのですね。


 当然のように御者台にアデリーナ様が乗り込み、馬に鞭を入れました。


 門を出ると、多くの人々が集まっていました。で、私を見て、大歓声が上がります。


 その中をゆっくりと進みます。花束とかを手渡したり、投げたりする人もいて、後ろの荷台にドンドン積まれていきます。ルッカさんがせっせっと働いてくれて有り難いです。



 あっ! ニラだっ!!


 私は道に立ち並ぶ人々の最前列にいた彼女を見付けます。帽子は被っていますね。


 手を強く振ります!

 向こうも笑顔で両手を上げて振ってくれました。


 馬車から身を乗り出してハイタッチ。ニラの柔らかい手の平にバチンと当てました。

 加減してますよ。じゃないと粉砕してしまいますからね。下手したら開放骨折ですよ。


 それと共に、より大きな歓声が上がりました。



「……巫女さん、凄いじゃない。有名人?」


 ルッカさんが驚くのも心地良いのです。私、神殿に来て良かったです。村には無かった喜びがここにはありますよ。期待通りです。


 名残惜しそうに力いっぱい手を振るニラさんを後ろにして、馬車は進んでいきました。 


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