怒られる
「あなた達は竜の巫女が何たるか、聖竜様のご加護に与るということがどれほどの事か、一から叩き込まないといけないみたいですね!」
私たちは巫女見習いの寮を管理する先輩巫女に叱られていた。
夕食時まで不穏な空気を持ち込んでしまい、訊かれたシェラがそのまま伝えたのだ。今は先輩が案内した小部屋で座らされている。
すみません、私も大人げなかったです。腹立たしさを隠せなかったのだから。
聞けばマリールは14歳になったばかり、年下なんだね。
一つしか変わらないけど、私の方がお姉さん。生意気されても子供のする事と思いましょう。
「聞いてるの!? メリナさん!」
……上の空で御座いました。話長いんだもん。
「いいですか、メリナさん、マリールさん。あなた達も巫女の一員なのです。巫女である間は皆でスードワット様に身を捧げないといけないのですよ。お分かりですか?」
「……はい」
私は自分への情けなさもあって控え目な返事になってしまった。
マリールは無言ね。
「シェラさんもご自分は関係ないという態度は宜しくないですよ。仲の良くない方々の間を取り持つ程度の事は、礼拝部でもこれからの仕事で行うのですからね」
そうなの? そんなの礼拝と関係ないんじゃない。礼拝に来るお偉い人の間でそういうのがあるのかしら。
でも、シェラは全く悪くない。流れ弾もいいとこだわ。
「はい。至らず申し訳ありません」
くぅ、素直に謝るシェラ、凄い!
かっくいいよ。
「マリールはまだ不満?」
先輩は脹れっ面の彼女を見やる。
「そこの村娘から呼び捨てされました。おぞましさで死にそうです。今も目眩が止まりません。父に言い付けて村ごと破滅させてもらいます」
「まぁ、まだそんな気持ちなのですか? メリナさんはどう思います?」
私? 何も思ってないけど。
頭の足りない子が何か言ってるくらいだけど、そのまま答えるとまた叱られるなぁ。
困ってシェラを見ると目が合った。
彼女も多分に困惑の表情だ。
初日からこの騒ぎだもんね。
「叶うなら、同室の方とは仲良くしていきたいと思います」
主に、特にシェラと。口に出せないけど。
「結構なお答えです」
目の前の先輩巫女さんが微笑んでくれた。
この人も気品を感じるなぁ。
シェラに劣らず綺麗な金髪。肩までの長さでスパッと切り揃えている上に眼光がたまに鋭いから、怖いお姉さんっていうのが強調されるわね。
私の髪は真っ黒なんだけど、少し染めてみようかな。
「じゃあ、後はマリールの気持ちだけですね」
先輩は問題児に顔を向ける。
「メリナはあなたと仲良くしたいと思っています。私どももお二人が仲良くして頂ければと思っています。聖竜様へのお勤めは一人の力ではできません。皆様、部署はばらばらですが、全ての仕事はリンクしているのです。どこかの部署が欠けたり、連携が悪くなるだけでも、それは聖竜様への冒涜となります」
ほんと? 私の魔物駆除殲滅部もお役に立てるの?
誰もそこを教えてくれないのよ。本当に巫女なのかしらと疑問が隠せないのよ。
「メリナの部署は不要ではないでしょうか。そこに配属されている人間も不要だと思います。軍やそれこそ冒険者といった荒くれ者で十分だと考えます」
ちょっと、マリール、直球勝負じゃない。嫌いじゃないわよ、その性格。
でも、私を不要とは言わないで。別の所に異動した方が良いって進言してくれたら、私の中のあなたの株が急上昇だったのに。
先輩巫女を見たら、変わらず朗らかな表情なのに、こめかみがピクピクしてる。青筋が入っているようにも見えるわね。
笑いながら怒ってるわ……。
器用さに感心。で、底知れぬ恐怖を感じるね。




