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怒ったのだと思う

 コリーさんは再び上段に構える。


 殺して良いのなら、何とでも出来る気がするのだけど。制約があると、難しいなぁ。



 私は同じく構え直す。



 相対を続けていると、私はコリーの唇が動いていることに気付きました。


 しまった! 魔法詠唱しているっ!



 何が来るか分かりません。

 こうなれば選択肢は一つです。

 殺られる前に殺るしかありません!



 私は一気に前に出る。

 左腕を振りかぶる。ちなみに私の利き腕は右です。つまり、本命は右の拳。


 まずは、そのまま左で殴りに行きます。

 伸ばす途中の腕を、コリーは正確に真正面から針のような細剣で突きます。


 それは、私の握った中指の第一間接から手首までを貫通しました。


 激痛が走りますが、覚悟の上です。


 私はコリーの口を観察しながら、足は進める。

 ダメか、詠唱は続いている……。



 剣を刺したまま左腕を外に振る。それに合わせて細い突剣も動き、コリーの腕が開く。


 剣が大きくぶれることにより、私の中指が千切れました。痛みは、この際、我慢です。平気な顔をしていないと突け込まれます。

 剣は折れない。撓っていますね。


 湾曲したそれの先の延長線上には私の左胸が見えるはずです。でも、押し込んで心臓を狙うのは無理ですよね。


 向こうの手は二つ。

 剣を引いてもう一度急所を狙うか、不意に動いた剣を離すか。

 どちらにしろ、私の右の方が早いはずっ!!



 勝ったと思った瞬間でした。

 目の前にコリーの赤い頭が来ていて、それを喰らいました。


 衝撃で目が眩む。逃げるには左腕に刺さった剣が邪魔です。


 やられました。まさかの頭突きです。

 しかも左目を潰された。経験的には破裂までは行ってないと思いますが、瞼が切れた程度でもありません。



 どちらにしろ、片目で十分!

 私はコリーの首を掴みに行く。


 ここでコリーは私に刺さったままの剣を離しました。

 で、バックステップで距離を取った上で、まだ魔法詠唱を続けます。


 本当に死にたいのですね! 逃げれるなどと思うなっ!!

 私は昂る。怒ったのだと思う。



『私は願う。氷、氷、氷の槍。そこの愚か者を突き刺す氷!』


 床から生える三本の槍。極太です。


 今度こそと思ったのに、コリーは避けた。

 何故っ!?


 私が魔法を唱えた事なんて分からなかったはずなのに!!



 ただでさえ狭い通路に氷の槍がびょんと立っています。氷と氷の間は隙間が狭くて、走り抜けるのは難しそう。つまり、私の前進が妨げられました。


 とりあえず回復魔法。指と目を使える様に再生します。


 戦況はよろしくありませんです。




「苦戦中ね。手助けするわね」


 焦る私に後ろから声が聴こえた。

 挟まれたと思った私は、振り向くと同時に床を強く蹴って声のした方へ跳ねる。


 空中で相手の位置を確認。

 高めに跳ねたので天井が近付いてきます。頭がぶつかりそうになる所で、手で天井を押して着地ポイントの狙いを微調整。


 相手の腕に武器がないので大丈夫でしょう。


 勢いを増して空中から飛び込む私は両足を伸ばし、相手の顔面に蹴りを入れ床に叩き付けました。


 ……えぇ、ルッカさんでした。

 馬乗りになって仕留めようとしたところで気付きました。



「……本当にクレイジー。それで、まだ人間だと言い張るの……」


 いえ、どう見ても人間でしょうに。



「ルッカさん、盾になって下さい!」


 謝罪よりも現状打破です。ルッカさんなら、何とかなります。


「まぁ、人遣いが荒いわね。ハードワークよ」


「ルッカさんは人じゃないから大丈夫です!」


「……それ、あなたみたいな自称人間が言うと完全に差別よ。励ましてるとでも感じるの?」


「はいっ!」


 何でも良いので、一刻も早く立ち上がって下さい!

 ルッカさんが受けた所で、あいつをぶちのめしてやりますから。



「クレイジーどころじゃないわね」


 とは言いつつもルッカさんは立ち上がって、私の前に出て守って頂けるようです。



「気を付けて下さい。あいつ、コリーは魔法を唱えています」


「うん、分かるわよ」


 氷の槍で見えないのに、ですか。凄いです。


 にしても魔法がなかなか発動しません。

 どれだけ長い詠唱句なんでしょうか。



「巫女さん、く――」


 ルッカさんが何かを言おうとしたところで、突然、彼女が燃え盛りました。

 私は飛び退いて、その炎を避ける。追撃はないので、単発の火柱魔法か。


 ルッカさん、私は助かりました!

 ありがとうございますっ!

 あとでお助けいたしますので、どうにか凌いでください。


 私は代わりに氷の槍の向こうに炎の雲を出す。と同時に駆けて、邪魔な氷を粉砕。


 眩しい揺めきの向こうを確認しますが、コリーは撤退したのか、姿が見えません。

 逃げられた?



「巫女さん、横」


 後ろからルッカさんの声が聴こえた。


 横?

 牢か!!



 私は壁際に跳ぶ。横跳びですが、直ぐにコリーと正対できるように、捻りを加えています。



 ルッカさん、やりますね。流石の魔族です。燃えながらでも喋れるとは便利な体だと思います。



 私の着地と同時にコリーの体が突然現れる。

 牢の中じゃない! 通路に涌き出た!?

 転移? いえ、認識阻害か不可視化の魔法でしょうか?

 いずれにしろ簡単に使える魔法じゃないです。



 正確に私の眉間を狙って剣先が伸びる。

 後ろは壁。


 しっかり見ながら、避けるために首を振る動作に入る。が、剣の軌道が変わる予感がしました。さっきまで真っ直ぐだった針のような剣が軽く弓形に弛んだと感じたのです。


 そういう魔法なのか、剣技なのか。

 分かりませんが、危ないです。私なら、ここで首元か胸を狙います。そして、もし外れても良いように二撃目を準備します。



 私は炎の雲の中に転がり逃げる。火傷は負うでしょうが、コリーの予測とは違う方向へ。



 距離を稼ぎながら、まずは水魔法で自らの全身を濡らします。

 服が燃えないように。真意としては、蛾がバレないように。


 コリーが開けたままにしていた扉の向こうまで行く。そこで、我慢していた息を吐く。



 氷も柔くて、炎も甘かったです。私の魔法は発動しているものの効果が弱いですね。これはアンチマジックの為でしょうか。


 とりあえず、ルッカさんを助けましょう。

 私は水と回復の魔法を念じる。


「あら、ありがとう、巫女さん。見捨てられたと思っていたの」


 呑気なルッカさんの声が小さいですが聞こえてきました。

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