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階段での戦闘

 満足そうなルッカさんが目の前にいます。


「こんなに食べたの初めてよ。もう動けない」


 いえ、私を聖竜様の所に連れていく、大事なお仕事が残っていますよ。いや、違うわ。

 まずは、この建物から出ないといけませんね。アントンについては、うーん、その後でいいです。



 牢の中の囚人と目があったのですが、反らされました。さっきまで鎖をじゃらじゃらさせながら暴れていたのに、急にどうしたのでしょう。




「では、一気に上まで駆け上がりましょう」


 私はもう一階上がるための扉を開く。


 また、階段です。たぶん、あと五、六階進めば、私が最初にいたフロアに出るはずです。こっちの階段は真っ直ぐで短いんですね。



 向こう側の扉も開きました。

 金属鎧の方が見えました。



「あぁ、おい! 女だっ!! 血塗れの女が来ているぞっ!!」


「一人か!?」


「二人だ! 血塗れと、……エロい奴!」


 全くその通りなんですけど、もっと私に優しい言い方をして欲しいです。


 ちらっとルッカさんを振り返ると、満更でもないお顔でした。



「んふふ、誉められちゃった」


「服ですよ。いえ、その外殻とか言うのが誉められただけですよ」


「あら、巫女さんはそういうのは興味ない系なのね。人生、損しているわ」


 いえ、とても興味はあるのですよ。女の子ですから。



「さて、約束通り、私が盾になりましょう」


 後ろからぬっと出て来そうだったルッカさんを私は腕を横にして止める。


「お任せ下さい!」



 私は駆ける。


 相手の得物は……槍か。


「ちょ、巫女さん!」


 後ろからルッカさんの声が聞こえましたが、ご心配なく。



 槍衾でも作る気かな。だったら、隊形を整えさせては面倒よ。


 まだ出されている槍は一本。それを持った奴の後ろに三人か。柄は木製、先だけ金属。軽くて実用的な装備ですね。


 練度はそれなりみたいで、最初の槍は私の真正面になるように一旦置かれ、それから、先端、穂って言うんでしたっけ、それが上を向いた。

 私が間合いに入ったら叩くため。

 そして、後ろからの槍を刺し込むため。



「ダメ! 行ったら刺さる!」


 ルッカさんが叫びます。あの人、私を心配してくれているのですね。



 私は連中の攻撃範囲に入る。とはいえ、槍を万全に準備できたのは最初の一人だけかな。



 予想通り、最初の槍が私の頭を狙って落ちてくる。撓る柄を、私は正確に殴って折る。衝撃で相手の手から槍が零れました。


 兜に守られているから、相手の表情は分かりません。余裕なのか、驚愕なのか。想定外なのか、そうではないのか。

 情報が欲しいのだけど。



 槍を折られた兵の両脇から、別の槍が一本ずつ待機しているのが見えた。


 想定内の方でしたか。


 私は足を止めずに前に急ぐ。

 ……階段を踏み外すと痛そうですね。気を付けないと。



 先頭の金属鎧の人まで、あと数段で手が届きます。

 もちろん、二つの槍は私の腹を狙って伸びてきます。

 が、刺さりません。なぜなら、私が接近し過ぎて角度的に無理だから。先頭の人の体が邪魔なんですよね。


 ……ここまでは、向こうの戦術内でしょう。


 私は次の手も読めていますよ。



 私は腕を振りかぶる。ただ、これはブラフ。殴るために足を止めた形になっております。


 それに合わせて、先頭の金属鎧が身を低くする。中々に素早い動きです。


 その空いた視野から、別の後方の兵が放った矢が真っ直ぐ飛んできました。高低さや身長さもあるのに、私の額を一直線に狙った形となっています。


 私の両側は先に突き出されていた別の槍の柄二本で挟まれ、動きを封じられており、向こうとしては仕留めたと思った事でしょう。


 甘いです。



 私は頭を振って矢を避ける。それとともに、後で構えていた右手で矢を掴む。

 来るのが分かっていたから余裕ですよ。

 武器をゲットしました!

 ……拳の方が威力高いですけど。

 



 短い矢だから弩ですよね。なら、次の発射まで時間があります。


 私は受け止めた矢の先を変えて持つ。

 それから、トンと両足で跳ねて二段ほど一気に移動した上で、膝蹴りをしゃがんだ前衛さんの兜に入れる。相手の力が抜けるのが鎧越しにも分かります。ちょっと私の膝も痛いけど我慢です。



 前を見る。


 二本の槍は引かれました。もう一度私を狙うことになるでしょう。



 一気にトップスピードに入ります!

 倒れている前衛さんの脇に足を出して、そこを抜け、二人の槍兵の間も走り過ぎます。

 で、後衛に接近して、手にした矢を鎧越しに相手の上腕へ突き刺す! 本当は肩が良かったけど、身長が足りませんでした。



 その上で後ろを振り向いて、半身になっている槍兵を掌で同時に押して、下へ落としました。


 あら、槍が引っ掛かって、片方は転げ落ちなかったか。

 慌てて、そちらは拳で壁に殴り付けました。遠慮しなかったので、足が浮いた状態で壁石にめり込んでいます。


 金属鎧だから、きっと命に支障はないと思っておきましょう。


 逃げそうになった後衛の弓兵を捕らえて、完了です。




「あなた、人間? アンビリバホーよ」


 戦闘後に頂いたルッカさんの言葉です。


「修行の賜物です。お母さんとよく稽古しました」


「さっきの矢を掴むの、なかなか見ない芸当よ」


 そうですか……? 村のレオン君なんか、私よりも上手で、ゴブリンの放ったのを二本くらい同時に振り向き様に手にしていたと思う。



 私たちは下の階に倒した四人を連れていきます。抵抗は有りませんでした。

 鍵はしていないのですが、空いている牢に纏めて入れました。



「すみません、落ち着くまで、ここで待機していてくれませんか?」


 私が言うと、階段で先頭だった金属鎧さんが兜を外して無言で頷きました。


「高低と人数の不利を覆しての圧勝だもんね、巫女さん。ホラーだわ」


 うるさいな。

 聖竜様の所に連れて行ってもらえないのなら、あなたも最後には砕くわよ。



「私は竜の巫女の見習い、メリナです。訳あって、この建屋を占拠したいと考えております」


 牢から声が聞こえてきた。


「メリナ様? 聖衣のメリナ様?」


 私は首肯く。

 兜を脱いだ兵隊さんが口を開きます。


「まさか、本当に!? あぁ、何たるご無礼を……。任務でしたので、どうかご容赦を……」


「メリナ様って、あの神殿の騒ぎのですか……?」


「あぁ、勤務番に入る時に更衣室でメリナ様がここに囚われていると噂を聞いた」


「……まさか……。しかし、アントン殿か……」


「いや、アントン殿だからか……」


 聖衣の効果、凄いです。私の名前が広まっているのでしょうか。



 私は皆に回復魔法を掛けてあげます。

 傷を付けて済みませんでした。


「見てみろ、周りを。囚人たちまでにも、メリナ様はご慈悲をお与えになられるのか……」


 兵隊さん達は、牢から出ないことを約束して頂きました。その上、なんか、階を繋ぐ扉の鍵まで頂きました。

 

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