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イメージだけで判断

 私は端っこの牢に近寄りました。そして、中を覗きます。


 ……ひどい状態です。ぼろ切れを身に纏っていますが、辛うじて昔は服だったと思える程度です。手足も骨が浮き出ていて、もしかしたら死体なのかもしれません。


 何故、私はこれを女性と認識していたのでしょうか。よく見ると男女の区別が付かないのです。髪の毛も延び放題で、かつ、カサカサ乾いているように見えます。



 命がまだ辛うじてあるのだとしても、私の回復魔法では傷は治すだけで、栄養状態までは無理ですね……。



 しかし、死んでまで壁に繋がれて、また口枷までされているのは哀れです。



 私は自分の檻を破った時と同じ様に、床と天井の石を殴って破壊し、牢を潰します。


 それから、無駄かもしれませんが、回復魔法を唱えました。



 やはり動きませんか。腕や足にあった古傷とかは消えているのですが。



 壁の鎖も取ってあげようと、更に近寄ったところで、痩けた頬が動いたのが分かりました。私は口枷を外します。私に装着されていた物と違って革製だったので、簡単に千切れました。尖った牙みたいな歯が見えました。

 食事の度に唇を刺してしまうではないでしょうか。可哀想な体ですね。


 で、かすれた小さな声で私に訴えます。




「み……みずを…………」



 生きてた!



 私は魔法で水を出します。容器はないので、私の手のひらに。

 それをゆっくり飲ませました。



 喉が動くのが見えます。で、次の声。



「血も…………欲しい……」



 血ですか?


「血管に?」


 戦闘中に血を流し続けると、私も欲しくなります。経験則で知っているのですが、血を流し続けると視野が暗くなってくるのですよね。

 治すのは回復魔法でも良いのですが、敢えて血を止めずに戦うことで相手を自分に引き付けたい時に、流れた血を戻す魔法を使用していました。

 血を下さいと願うのです。


 しかし、自分の体にしか掛けた事がないので、自信ないですよ。



「の、飲みたい」


 飲むのですか?

 それは、おかしいですよ……。あやしいです。



「分かりました」


 私の聞き間違いでしょう。危うく変なものを飲ませる所でした。

 もう一度、彼女の口に水を含ませる。



「なんて……薄いの。……もっと、もっと濃いのがいい……」


 濃い?


 水にそんなものは無いのですよ。

 しかし、メリナ、死にかけの人の最期くらいは希望を叶えてあげるのです。こんな体なのに必死に喋っているのですよ! 蝋燭の最期の輝きのように頑張っているのです。


 考えなさい。できるだけ深く!!

 濃い水とは何なのか!?


 あと、この人、やっぱり女性でしたね。そんな口調です。

 男性だとしたら、そのぼろ切れでは大変な物が見え出てしまう可能性がありました。

 ホッとしましたよ。



 あっ、閃きました!

 お父さんの持っていた真面目な方の本に、水は温度で重さが違うと書いてありました。

 氷になる、ちょっと手前が一番重いのです。つまり、一番濃いと言って良いのではないでしょうか!



 なので、冷たい水を飲ませてあげました。

 


 かなり咳き込んでますね。いきなりでびっくりされたのでしょうか。


 私の体温で温めないように、直接口の中に出したのが宜しく無かったのかしら。



 あっ、目が合いました。鋭い目です。死にかけの癖に殺気が籠ってますね。もしかして、私と殺り合いますか? こんなところに入れられる奴ですもの、狂気染みていてもおかしくありませんね。



「血を飲ませて……。 もう死ぬの」



 もう死ねと思いましたが、声は細々です。目の力ほど、体力は無いということですね。


 私は袖を絞って、先程の脱出で染み込んだ血を彼女の口に入れてやりました。とても優しいです、私。



 私、びっくりしました。

 血を飲んだ彼女から光が出たと思ったら、立派なお姉さんに変わりました。でも、縛られたままです。


 何というか、お姉さんです。スラリとした体形と長身。なのに、出るべき所は出ているのです。髪の毛も艶かしく光を反射しています。

 そして、極めつけは、その男性に媚びた服装です。胸は半分開いてるし、太股も露です。いやらしいです。


 たぶん、この人は蝶! 私やコリーさんのような蛾ではなさそうです! イメージだけで判断しましたっ!!


 そんな人が鎖に繋がれたままとなると、背徳的な気持ちになりますね。

 彼女は黒い金属の腕輪を填められていて、その腕輪から鎖が壁に伸びています。

 私は彼女の腕に一番近い部分の鎖を手で破壊しました。

 かなり堅かったですが、厚い腕輪とは違って何とか外せました。



 満足して少し気を緩めた私に、立ち上がった彼女は言いました。


「助かったわ。ありがとう。じゃあ、死のうね」


 いきなりの戦闘開始宣言でして、こちらも即座に腹を殴らざるを得ません。

 何故か私に覆い被るような動作で隙だらけだったので、余裕でした。

 そのまま流れで、足を踏みつけてから肩を押し倒します。


 女の首に足を置いて、私は言います。



「助けたつもりでしたが、死にますか?」



 動かし辛そうに首を左右に振りましたが、私は迷いました。しかし、そうですね。殺人はしないと、アデリーナ様とお約束しています。

 アデリーナ様の言うことを聞いていると面倒が増える気がして来ましたよ。

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