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コリー、様は……

 私は取調室に戻され、また椅子に座らされました。



「どうだった?」


 私が殺すべき人物であるアントンがコリーに訊きます。


「良い話と、少し不都合な話があります」


「では、良い方から」


「その娘は竜の巫女ではありませんでした」


「うむ。では不都合な方は?」


「その娘のバックに一時期的だと思いますが、王族が付きました」


「お、王族? それはまた不思議だな」


「こちらが証文です」


「本物か? この印章は?」


「後で、竜の巫女の中に王族がいるか確認させます」


「うむ。しかし、書面の内容としては大したものではない。精々、命を奪うな、条件なしでの奴隷売却は避けろくらいではないか」


「はい。しかし、こちらの判断を一部でも妨げるという意味では不都合です」


「慎重だな、コリーは。……囚人として投獄するか、シャール都市内限定で奴隷として売却するかで良いであろう」


 そこまで喋ってから、アントンは私に言う。


「街区での魔法使用。不幸だが、その罪で、お前は裁かれるであろう。裁判まで大人しくしていれば、寛大な処置も有り得よう。そう心得て、留置されておけ」


 コリーも続けます。


「自称コッテン村のシェラ。我々は、犯罪奴隷としてあなたを売却するよう、明日の裁判に掛けます。それまでに、親しい者に連絡したいのであれば、伝言を届けます」


 奴隷ですか…………。

 ちょっと魔法を使用しただけで、そこまでの罪になるなんて。村であれば、知らない顔の者が使用したところで、そこまでの仕打ちはされないのですが。

 何の罪もない人が裁かれる、そんな悲劇も起きているのではないでしょうか。


 

「お前が気の毒ではある。被害者達にも怪我はない。しかし、法は法である。最後に我々に申したい事や質問はないか? お前が希望するのであれば、客観的証拠の提示も行おう」


 疑問はあります。

 しかし、聞いて良いものか。

 

「どうぞ。恐らく、最後の機会です」


 コリーも私に言います。冷たい顔ですが、真意まで事務的な感じではないです。



「では……。蛾はどうやって蝶になることが出来るのでしょうか?」


 私は、今、心の中で最も大きな部分を占める疑問をぶつけました。


「…………。ふん、謎掛けか哲学かは知らんが興味はない。蝶は止まったときに羽を閉じ、蛾は羽を開く。それだけの違いだ」


「その通りです。では、自称コッテン村のシェラよ。お前のいるべき場所へ」


「縄はもう不要だろう。そのまま連れていけ」


「はっ!」




 私はコリーに連れられて、薄暗い通路を歩く。


「……蛾は蝶になれるのか、面白い話ではありました……」


 ぼそりと、コリーが言う。


「神殿の巫女がお前に興味を持ったのも、少しは頷けます」


「そうですか……」


「今更の話ですが、私も蛾のような者でした。それをアントン様のお目に止まり、孤児だった私を召し抱えてくれたのです」


「蛾と知った上で、ですか?」


 立ち止まった私にコリーは首を縦に降った。



 ……な、なんと……。何故、コリーのパンツが蛾の状態だと分かったのですか…………。

 孤児という立場の者に手を出したのですか、あのアントンは!? 地位を、地位を利用したのですね!!



「それは……何と申せば良いのか分かりませんが、今は幸せでしょうか?」


「あなたよりは幸せでしょう」


「何よりです。安心しました。…………その、未だ蛾なのでしょうか、コリー、様は?」


「……蛾なのでしょうね……。これは血の問題ですから。どうしようもありません」


 代々なのですか!? 代々、蛾なのですか!? なんと呪われた一族なんでしょう!!!

 辛すぎますよ。



「剛毛なんですね……」


「ゴウモウ? すみません、シャール方言でしょうが、よく分かりません。では、ここでお別れです。お前の処遇が少しでも良いことを祈っております」



 その言葉の後に、牢へ繋がる扉が開かれた。見張り番が既に待機しております。



「すみません、トイレに行きたいのですが……」


「それは聞けません。逃亡の恐れが高まると考えられます」



 無情にも扉は閉じられました。

 暗い通路に松明の火だけが蠢いています。



「けけけ、俺の目の前で漏らしたらいいんだぜ?」


 何を言っているのかしら?

 いえ、理解はしますよ。

 誰に何を言っているのですかという意味です。



 私は即座に横っ面を殴りました。

 壁に激突する、見張り番。


 何が起きたかも分かっていない様ですね。


「お前! 俺を殴ったな!?」


「そうですか? そんなつもりはないですよ。強風でも吹いたのでしょうか」


「……お前、俺を怒らせたな!!」


 私も怒っているのです。仕事とは言え、よくも水をぶっかけてくれたわね!

 骨を陥没や粉砕しないように、手加減して殴るのは、本当に難しいのです。敢えて言うならば、怒りで殺さないように努力している自分を偉いと誉めてやりたいです。



「誰も見てないんですよ? 私がここで、あなたを殺すことも可能です。黙りなさい」


「ああ!?」


 私は男を無視して、通路を歩き、自分の牢に入る。先程は気付きませんでしたが、他の牢には誰もいないんですね。


 男は腰に付けた鍵を手に取り、錠を閉める。



「くくく、俺が助けを呼ぶ前に逃げたんだな。しかし! そこに入ったと言うことは、俺の思うままだぜ」


 私は黙ったままです。


「トイレは無いんだぜ。さぁ、早くそこでしてみろよ」


 おぉ、そうでした。

 どうしましょうか。


 とりあえず、私は鉄で出来た柵に両手を掛ける。


「ギャハハ、何してるんだよ! 無理にき――」


 私はひん曲げた。結構、余裕でした。ナタリアに付けられていた奴隷の腕輪の方が丈夫でしたね。


 そこから体を出して、見張り番を睨み付ける。



「……な、なんだよ……。脱獄は死、死罪だからな!」


「大丈夫ですよ。殺しはしませんよ」 


 私は通路の奥の牢の前に行く。

 良かった、誰もいない。


 檻を手で破って、中に入る。で、手で床に穴を穿つ。もちろん、下を向いての正拳突きです。

 聖竜様を侮辱したアントンを転がして、その顔面を貫くイメージで殴ります。そうすることで、私の気も少しは紛れるのです。


 三回も撃てばヒビが入り、後は手で穴を広げるだけでした。ヤツの頭もこのように粉砕してやりますよ。

 ただ、それは後からですね。

 まずは、至急の件を片付けましょう。



「今から花を摘みますので、あちらに行って頂けますか? 見たら、やっぱり殺します。あと、音を聞いても殺します。臭っても殺します。というか、今すぐに殺したいです」



 見張りの人、どっかに行ってくれました。扉の音も聞こえたので外にまで行ってくれたのかもしれません。


 最後に脱臭魔法を掛けて、自分の牢に戻りました。曲げた鉄の棒もちゃんと元に戻しました。

読んで頂いている皆様、本年はお世話になりました(^^)

来年も宜しくお願い致します。

それでは、良いお年を!

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