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お縄となっております

 私は牢屋に入れられました。

 ここの牢の構造は正面だけが鉄格子で、他の三方は石造りです。なので、風通しが悪く、少し蒸し暑い気がします。



 入牢の際に言われたのですが、夜が明けてから事情聴取が始まるらしいです。つまり、今晩はここで眠らないといけません。


 私を連れてきた兵は、この牢全体が簡易のアンチマジックの術式の上にあるため、魔法は使えないと言っていました。


 だからでしょう。魔力式の照明は使えなくて、本当の炎が出ている松明が牢の外の壁に掛かっています。薄暗いです。



 アンチマジックは一度掛かったことがあります。

 村の近くに出た魔法が得意な魔物を倒す時にお母さんが放って、前線にいた私も効果範囲に入ったのです。

 あの時は全身の魔力が引っこ抜かれる感覚で、全く動けなくなったのを覚えています。

 この牢のものは、そこまでの威力ではなさそうです。簡易だからでしょう。



 先程まで、私は冷たい石畳の上に三角座りで座っていました。

 が、下品な顔の見張り番が姿勢を低くして、私のスカートを覗こうとしたので、今は正座です。

 後ろを向いて三角座りでも良かったのですが、お尻が冷たいという理由もありました。


 しかし、脛であっても、直で石の冷たさが伝わってくるのは一緒です。体温を奪われていきますね。



 この牢は天井が低いのです。本来であれば立って過ごすべきなのですが、それが出来ません。藁敷きが欲しいです。



 石の天井を拳で破壊するという、手っ取り早くて確実な手段もあるのですが、より一層、私の罪が重くなりそうで、我慢しております。



 することもなく目を瞑っていると、こんな状態でも睡魔はやって来ました。



 うとうとしていたら、突然に顔から服まで水浸しになりました。

 どうも、見張り番にバケツで水を掛けられたようです。



 …………彼は死にたいのでしょうか。



 いえ、許してあげましょう。

 酒場での広域回復魔法で、私は疲れています。さっさっと寝るに限ります。



 ……余計に床が冷たくなりましたね。

 濡れた服も熱を奪っていきます。季節が冬なら死んでしまう人もいるでしょう。



 私は怒りに(たぎ)る心をもって寒さに耐え忍び、朝を待ちました。

 水を何回も浴びせられました。薄手の生地であるならスケスケになってしまっていたことでしょう。

 そうなれば、私は檻を手でひん曲げて破り、あいつの胴体の真ん中に大穴を開けていたと思います。


 見張り番の方、今は命拾いしたとお考えください。今は。



「おい! 起きろっ!!」


 目を閉じたままの私に見張り番が言う。


「…………どうしましたか?」


「取り調べだ」


 そう言うと、彼は牢の入り口に大きな鍵を挿し込み、扉を開く。

 私は中腰になって外へ出る。


 ふう、足が若干痺れていますが、それよりも立つという普通の動作が出来る事が喜びです。


 腰に手を当てて体を捻ったり、胸を反らしたりして、体をほぐします。



「おい、余裕だな?」


 見張り番の向こう側にいた、若い男が私に言いました。彼は白いシャツに皮ズボン、黒基調のジャケットの貴族風の装いです。


 恐らくは、私を取り調べる役人なのでしょう。その横には赤毛の女性も見えました。その控えめな立ち位置からすると、役人の部下でしょう。



 前に出した両手を紐で纏めて縛られて、その状態で通路を歩かされました。紐の先は赤毛の女が持っており、私はまるで畑に向かう家畜の様です。



 小汚ない机と椅子がワンセットだけ置かれた小部屋に入れられました。

 で、私と彼らは向かい合わせに座ります。私の紐の一端はテーブルの足にくくりつけられました。



「酒場で魔法を使い、その場にいた者、ほぼ全員を気絶させた。それで間違いないか?」


 全員が傷や痕だらけで気を失っていたから、私は回復魔法を唱えたのです。


「順番が逆です。倒れ、傷付いていたから、魔法で回復させたのです」


「魔法使用は認めた、と。ほぼ仕事終わりましたね」


 軽い口調で、赤毛の女性が紙に聴取内容を書き込んでいきます。



「名前は?」


「コッテン村のシェラです」


 ラナイ村で使った偽名をもう一度使いましょう。


 役人の男は赤毛の女性を見る。


「酒場にいた者から裏を取っています。嘘です。メリナと呼ばれていたようです」


 くぅ、そうでした。大合唱で連呼していましたね、皆さん。


「それも嘘である可能性は?」


「あり得ます。調査中です」


 女の言葉を聞き終えて、役人はまた私の方に向き直る。



「どこの街区の者だ?」


 街区? うーん、わかりませんね。


「聖竜様の神殿です」


「浮浪者か?」


 再び、役人は私に聞かずに赤毛の女に尋ねました。


「酒場にいた獣人は確かに神殿の者と言っていましたが、肝心の神殿の方が多忙で裏付け取れていません。連絡来ていません」


「巫女服でもないしな」


「はい。あの時間に酒場に巫女がいるはずはないかとも思われます」


「では、職業不詳と書いておけ。念のため、神殿には、もう一度問い合わせを願う」


「はい。しかし、連日に渡っての聖夜とやらで馬鹿騒ぎ中です。時間が掛かると聞いています」


「カッ。金にがめつい蜥蜴信仰者どもが」



 ……あぁ!?

 今の発言、絶対に許しません!!

 聖竜様を蜥蜴呼ばわりですって!!


 私は両手を結ぶ縄を引き千切ろうと力を込めます。


 と、同時に扉がノックされる音が響く。



「何だ?」


「竜神殿のアデリーナと申す者が被疑者の身元確認に来ています」


 …………アデリーナ様…………いらっしゃったのですか……。




 マジで殺され兼ねないわ…………。

 どう言い訳をすれば宜しいのでしょうか?

 困りましたよ。


 それに、ここで目の前の役人を断罪したら、更に、とても怒られることが明白です。

 しかし、聖竜様を侮辱した罪は償って貰わないといけません。



 悩み深く、私は両手で頭を抱えました。




「おい、コリー。縄が外れてるぞ」


「申し訳御座いません、アントン様。経年劣化で弱っていたかと思われます」


「ふん、地方都市はどうしようもないな。仕方ない。縄無しで連れていけ」


今日は寒いですね。

皆様、風邪にお気をつけください(^^)

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