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同室の貴族様

 ゆっくり静かに扉が開かれる。


 その先にいたのは配属発表の時にいた女の子。一番奥にいた伯爵様の家の人だっけ。

 綺麗で長い金色の髪の毛が、その艶だけで育ちの良さを語っているわ。年齢はどうだろう。丸顔で幼くも見えるけど、私と同じくらいかしら。でも、身振りに落ち着きがあるから歳上かな。



 本当の貴族様。

 本来なら近くにいるだけでも私なんか罪になりそうなくらい偉い人。

 真実かどうか知らないけど、貴族様の馬車の影を踏んだとかいうつまらない事で、隣村の子供と親が処罰されたらしいのよね。



 入ってきた時と同じようにゆっくりと扉を閉めてから私に向き直す。


「こんにちは。メリナさん」


 とても高貴な人が私に話し掛けてくれた。


「はい、こんにちは」


 まずいわ。あっちは私の名前を覚えているのに、私は全く覚えていないわ。

 それに『こんにちは』なんて普通の言葉で返して良かったのかしら。

 何の話をしたら良いかしら。

 副神殿長みたいに何気ない会話から妙に親しくなれたりしないかな。

 でも、この人については礼拝部とかいう真っ当な部署に配属されたことしか知らないわ。


 それにしても、煌めくような金色の髪と黒い巫女の正装がとても似合っている。もう、そんな服を着せてもらっているのね。

 いきなり上司と殴りあった私とは雲泥の差だけど、それは我慢できなかった私も悪いわ。



「どうでしたか? 神殿でのお仕事は慣れそうですか?」


 とても優しく語り掛けてくれる。柔和な笑顔が眩しいわ。

 そう、この人こそ、私の理想だわ。優しくて、優雅で、気品に満ち溢れている。

 こうなるために神殿に来たのよ。


「まだ始まっていませんでして、仕事がどうなるかは分かりません。あの、あなた様はどうでしたか?」


 貴族様はクスッと軽く笑う。嫌らしいのでなくて、私を子供のように笑うような感じね。


「シェラよ。シェラと呼んで。同期なんですから、対等にお話ししましょう。私も巫女になるのです。それくらいの心持ちで来ております」


 そうなんですか!? それで良いのですか。

 貴族様を初めて見たけど、とても気さくな方。


「シェラさま、いえ、シェラ。私の事もメリナでいいです」


「そう、ありがとうございます」


 シェラは私の隣のベッドに腰掛ける。


「礼拝部はどうでしたか?」


「うん、まだ勉強が足りないですね。まずは神殿の歴史と仕来りを覚えないといけません」


 そうなんだ。いいな。


「ほら、配属の際に部屋へ迎えに来た先輩がいらしたでしょ?」


 いた、いた。

 私の先輩のアシュリンさんだけ遅れてきたから、置いてけぼりにされたんだよな。


「あの方が一ヶ月後に結婚で巫女をお辞めになるの。私はあの方の仕事を引き継がないといけないのよ」


 結婚退職ね。

 うん、とても憧れるわ。


 シェラもその内、そうなるのかもね。

 貴族様は結婚相手を幼いうちから決めてもらっているってお聞きするし。


 はぁ、シェラさん、完璧な人生ね。

 こんな方とお知り合いになれただけでもこの神殿に就職できて良かったわ。


「メリナ。あなたの――」


 シェラが私に質問しようとしたところで、扉がノックされた。

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