尊敬する女性の服
私はニラさん達とお食事の出来る店へと向かっています。
ニラさんとの挨拶を終えた後に気付きましたが、後ろに森で出会った時と同じ少年二人が控えていました。
皆さん、ご無事で何よりです。
「ニラさんも聖衣を見に来られていたのですか?」
「はいっ! 勿論です、メリナ様」
私の横に並んで歩く彼女は嬉しそうに答えました。
「でも、あれ、メリナ様の着ていらっしゃった服ですよね? それが聖衣だなんて、凄いですっ」
ニラさんもお分かりでしたか。何の変哲もない服でしたのに。
それにしても、軽い気持ちで巫女長様にご紹介するのではありませんでした。
ニラの言葉に続いて、後ろの二人が私に教えてくれる。
「二日前の初日の朝に見てから、ニラが朝、昼、晩とお参りしているんだ。メリナ様の服、凄いって」
「しかし、いつの間にか、凄い評判になってるよな。最初なんてガラガラだったのに。服もケースなんかに入ってなかったよな?」
そうですか。私の服は広いスペースの真ん中にポツンと置かれていたのですね。
……奇妙で少し猟奇的な光景が想像できました。血痕いっぱいだったはずだし。
巫女長様、あなた様の企画は服を飾るだけだったので御座いましょうか。
大失態を犯す所でしたね。
「どうして、これ程の人集りになっているのか分かりませんか?」
私は少年二人に訊く。
「さぁ、どうなんでしょうね」
「聖竜様の匂いって言うインパクトじゃないか。ちょっと嗅いでみようかと思うじゃん」
「そうだな。でも、今はお金を払わないと嗅げないんだよな」
「今じゃ、競りで嗅ぐ権利を落とすらしいぜ」
二人はドンドン喋ってくれる。聖衣に興味津々なニラの為に色々調べていたのでしょう。
「あぁ、あの競り自体も誰が勝つのか見るのが楽しかったな」
「知っているか。今、あの聖衣を嗅ぐには金貨が一万枚が必要なんだってよ」
一万!!
当方もない高額ですので、何が買えるのか想像も付きませんが、一万で御座いますか……。
聖竜様の臭いであれば、確かにその価値を感じますが……。元は私の服でして、とても複雑な気分です……。
「ちょっとした村なら、土地ごと買えるんだろうな」
「あぁ。金があるヤツはいるもんだ」
えぇ、大貴族様だとか大商人様でしょうねぇ。手の中の二枚の金貨で喜んだのが、少し寂しくなりました。
「ところで、あなた方も聖衣を嗅がれたのですか?」
私は改めて少年たちに訊く。
「初日に少しだけですけどね。あの時はタダでしたし」
「強烈でしたね。ちょっと僕には合わなかった種類の臭いと言うか」
ほう、貴様、聖竜様の臭いを貶しましたね。殺りますよ。ニラの知り合いでなければ、即座に殺ってましたよ。
念のために弁解を聞いてやりましょう。続けなさい。
「それに、知り合いの、しかも尊敬する女性の服を嗅ぐっていう趣味はありませんので」
合格! その回答は合格です。花丸ですよ!
あなた、見込み有りです。先程の私の判断は取り消しで御座います。殺しはしませんよ。生きて良しっ!
ニラが賑やかな通りに面した、木造の店を指差して口を開く。
「メリナ様、ここです。私、ここの卵料理が好きなんです」
店内からも賑やかな声が聞こえてきて、とても良さげです。
しかし、ニラさん、お酒は?
森の時もそうでしたが、私はお酒が欲しいのです。
でも、この店の騒ぎです。絶対にお酒はあります。期待していますよ、ニラさん。
店の中は、やはり大繁盛しておりまして、人による熱気が凄いです。が、それでも、空いているテーブルはあって、私たちは席に付きました。
汚ない丸テーブル、座ると軋む木製の椅子。騒々しい人々。
全て神殿の食堂とは違います。
しかし、ここにはお酒があるのですよ。
「メリナ様、ここは私達がお金を出しますね。いいよね、みんな?」
「まぁ、いいな」
「そうだな。巫女様にお金を出させる訳にはいかないだろ」
それは流石に、私的には許容できない申し出で御座います。誘っておいてお金までって、どんな悪女ですか。
「ニラさん、ありがとうございます。でも、私もお金を持っていますので」
アデリーナ様から頂いた金貨を二枚出す。
「それはメリナ様がお使いください」
ニラさんは金貨を見ても平気でした。
あれ?
ニラさん達、お金持ちでしたっけ?
そう言えば服装も前より良くなっていますね。少年達は皮鎧だし、鞘に入った剣もご立派に見えます。
「巫女様から貰った報酬がまだ残っているんですよ」
あぁ、アデリーナ様が渡されたヤツですね。一人当たり三枚は渡しておられましたから、10枚以上か……。
「あんな大金を自分達だけで使うなんて出来ないです。是非ここは奢らせて下さい」
少年がテーブルに頭を擦り付ける様に頼んできました。
横のテーブルの人が怪訝そうに見てきました。まるで、私が謝らせているような感じになっています。
ちょっと人目を引いてしまいますね……。つまり、私がここにいたという事実がアデリーナ様に伝わる可能性も高まるのです。
「分かりました。遠慮すべきだとも思っているのですが、それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
「はいっ!」
ニラさんが嬉しそうです。
……申し訳ないですね。また今度お礼の品を用意致しましょう。
ある神様は言いました。
金貨一枚、40万円くらいだと。




