表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/421

お金になるからだろうね

 契約はしました。しかし、私は状況が飲み込めていません。


 何が起こっているのでしょうか?


 もしや、私は魔族フロンによる精神魔法に掛かっているのでしょうか。


 この私に良い夢を見せて現実に戻し、血塗れの服を着たままであることに絶望を感じさせる気なのかもしれません!



と思いましたが、すごく非効率なダメージの与え方ですね。有り得ません。

 むしろ、物凄い敵意を抱えることによって、私の戦闘意欲が湧きます。



「マリールのお兄様は、何故、この様な契約を私などに?」


「お金になるからだろうね」


 はい?

 私の全財産では、おたくの寝間着の袖くらいしか買えそうになかったのですよ。



「すぐではないでしょうが、私の家からも、メリナにお呼びが掛かるやもしれません」


 エルバ部長風に言うと、マジか。



 伯爵家というと、遠くに見える尖塔がいっぱいある所ですよね。

 


 大丈夫でしょうか。

 私は、オロ部長、エルバ部長と、初見では偉く見えないのに実は偉い人系の頭を攻撃する癖があるようなのです。


 伯爵様にそんなことをしたら、本人が許したとしても、周りの人間が許してくれません。

 恐ろしいです。身が震えます。決して、武者震いなどとは申しません。



 夕食も終盤、皆、カップに注がれていた茶も少なくなって来たというところで、マリールが頬杖を付いて言う。


「メリナ、知らないの?」


「マリール、メリナさんは二泊三日の旅行に行かれていたのですよ」


 シェラ、違います。旅行でなく任務です。物見遊山をした訳ではありません。


 かなりハードでした。

 私、何回、戦ったかも覚えていません。



「楽しまれましたか? お土産もお母様に渡されました?」


 シェラが続けて、私に訊いてくれた。


「あっ、お土産の件はありがとう。お母さん、美味しいって言ってくれました。私も一つ頂いたけど、薔薇の香りが上品でした」


「そうですか。良かったです。何せ、シャールの名物なのですよ。私、自信を持ってお奨め致しました」


 シェラ、笑顔が素敵です。紹介したものが好評だと嬉しいものですものね。



「で、何をしに行ってたの? あんたの事だから、また、殴り合ったりしてるんでしょ?」


 私は黙って、ゆっくり首肯く。



「ちょっと待って。心の準備をしてから訊くから。一番印象に残っていることは?」


「聖竜様とお話をした事ですっ!」


 もちろん即答です。


「……案外、普通で良かったわ」


「えぇ、メリナさん、本当に嬉しそうな顔です」


 そうなんです。今思い出しても、聖竜様のお声が頭の中でリフレインされていきますよ。



「じゃぁ、二番目は?」


 二番目?

 それは難しいですね。

 魔族フロン? これは、確かに印象深いですが、でも、余り口外しない方がいい気がします。


 盗賊紛いの人たちを捕まえて、毒を飲まされて、森を颯爽と駆け抜けて、お母さんに転送してもらって、部長と犬蜘蛛を食べて、アシュリンさんが青黒くなって、足を切られて、矢を射られて、村長が一人になって、パンツが欲しくなった。


 あぁ、そうだ。エルバ部長の頭を蹴ったの忘れてた。ナタリアも元気にしてるかな。



 この中で二番目か、難しいな。


「お酒を飲めなかった事でしょうか」


「ふーん、まぁ、騒動はなかったって事ね。安心したよ」


 私は狂犬ではありませんからね。

 ご安心を。



「こっちはね、メリナがいない間に特別行事が始まったの。巫女長様の発案らしいよ」


 あの巫女長の案であるなら、とても素晴らしいイベントになると思います。

 皆様もそれを期待されて、参拝されているのかもしれません。


「なんと、聖竜様の臭いが嗅げるんだって!」


 臭いですか…………。

 ……巫女長様の発案ですか…………。



 私は唾を飲み込む。

 何が起きているかをうっすらと理解すると共に、その恐ろしさに緊張して、妙に喉が乾いたのです。


「それって、もしかして……」



「えぇ、神殿が参拝者だらけになっていたでしょ。あれ、全部、あなたの服を見に来ているの。大金を出せれば、臭いを嗅げるわ」



 ひー。

 ひー、ひー。

 

 いえ、確かに聖竜様の臭いは服に付いていましたよ。それは本当です。


 でも、見るだけだと、それ、ただの私の服ですよ! 戦闘でボロボロになった布切れみたいなものですよっ!!



「街の人たちに受けているんだって。皆、あなたの服に祈っているわ。涙を流している人も見たわよ」


 ………………。

 ……私の着古した服ですよ……。

 血もいっぱい付いてますよ……。



 詐欺だわ。

 巫女長様、これは犯罪で御座いますっ!

 聖竜様を利用した、悪徳商法なので御座いますっ!


 一刻も早く止めさせなければ。



 殴り飛ばしてでも実行する必要がありますっ!!

 恥ずかしすぎるのも、理由の一つで御座います!!!



 慌てて席を立とうとしたところで、いつもみたいに後ろから声を掛けられた。


「ちょっとよろしいですか、メリナさん?」


 アデリーナ様です。私、緊張します。

 今回の騒動でまたお叱りを受けるのではと思ってしまいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ