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新品の方がいい

 この寒村に下着パンツを売っている店は御座いませんでした。パンツ屋さんというか、お店が見当たりません。

 全て行商人で賄っているそうです。

 はい、私も村ではそうでしたもの。


 パンツは贅沢品です。



 翌日、アデリーナ様は違う服を買ってくれました。

 ズボンです。ただの村娘の服です。茶色です。煤けてます。



 私はスカートの服を丁寧に畳んで馬車の座席の下に仕舞う。


 パンツよ。それをゲットすれば、これが穿けるわ。それまでの辛抱です。



「エルバ部長も馬車に乗られますか?」


「あぁ、頼む。昨日から疲れている、マジで。シャールまで二日くらいか。帰っても仕事が待っているだけだ」


 部長、たぶん、今から更に疲れますよ。

 私、知ってますもの。

 是非とも体験して、私の辛さを共有して頂きたいです。


 小柄な部長は私とアシュリンさんの間に座る。ちょっと嬉しそうです。乗り物は余りご経験されておられないのでしょうか。

 そうであれば、少し可哀想です。乗り慣れないときついですよ、これ。




 相変わらずの暴走っぷりでした。

 シャールに着いた頃には部長のお顔が真っ白になられました。




「これ、は、転移した方が、楽だった……」


 遺言の様に言葉を吐いて、部長は私の方に体を倒されました。


 汗が私の服に付いてしまうので、私は彼女を荷台に移します。まぁ、偉そうな言葉を吐くのに体は軽くて、寝顔は可愛らしいわね。

 荷物が減っているので、ゆっくり寝て下さいね。


 そうスペースが出来ているのです。お酒の箱があった場所、物寂しいです。



 門はアデリーナ様の巫女服のお陰で、ノーチェックで通り過ぎます。

 その先の門広場には人がいっぱい見えました。


 さすが、シャールです。竜のおわす水の都です。


 馬車のスピードも普通になりましたので、ゆっくりと街中を見ることが出来ます。


 私は通りの左右を確認します。


 探すのは、パンツと酒。これを売っている店です。



「メリナ、酒はダメだぞっ!」


 機先を制するアシュリン。


「まさか、私はパンツを探しているだけですよ」


「私のをやろうか?」


 えっ。

 服は中古でも構わないのですが、下に穿くものは……。いえ、ズボンも、まぁ、似たような物でしょうが。


 ちょっと嫌だなぁ。


「臭いません?」


 アシュリンさんに殴られました。




「メリナ、その靴はどうする?」


 アシュリンさん、私の足元に気付かれました。


「使えるとは思うんですよ。ただ、シミですね。これを何とかしたいとは思っています」


 この靴は本当に良いものでした。

 これが無ければ、ダークアシュリンに負けていたかもしれません。


「ふむ、私の若い時の物をやろうか?」


 靴のお古か。

 臭いは魔法で何とか出来るね。あっ、パンツも臭い消しできるのか。


「何色のパンツですか?」


「あぁん? 貴様、靴の話では無かったのかっ!?」


 でも、新品の方がいいわね。


 一瞬だけ、アシュリンのお古パンツを、あの巫女好きの分隊長マンデルのおっさんに高値で売ることを思い付きましたが、止めましょう。二度とアシュリンさんの目を正視できなくなりそうです。



「靴なんですけど、アシュリンさん、何歳なんですか? 私と10は開いてませんか? かなり古そうだなって思いまして」



「クハハハ、メリナっ! 私はまだ本気を見せていないんだぞ。……殺すぞっ!!!」



 す、凄い!

 これが、噂に聴いた事がある覇気!?

 何度もの死闘を潜り抜けた歴戦の戦士、それも一握りの選ばれた勇士だけが身に纏う事だけが出来る…………何か不思議なヤツ。


 アシュリンさんから、そんなものが出ている気がする。ただの殺気とは違うわ。


 高々、年齢を訊いただけなのに、この怒髪衝天なのかしら、まさかね。



 何はともあれ、受けて立ちます!


 このメリナ、アシュリンさんの胸をお借りしたく存じますよ!!



「アシュリン先輩、私もぶっ殺します!!」


 私は立ち上がって宣言する。



「二人とも止めて下さい。とても迷惑です」


 御者台から声が飛んできた。


「街中で殺すなどと言い合うなんて、どこのチンピラですか。周りの皆さん、びっくりされていましたよ」


 はい、そうでした。

 でも、いつか、アシュリンさんと死合いたい。

 楽しみです。



「おかしいわね」


「何がですか?」


「メリナがおかしいのは、いつもだと言っただろ?」


 アシュリンさん、もしかして年齢を気にされていますか?


「神殿への通りって、こんなに混んでいましたか?」


 私は知らないから無言です。


「確かに、人が多いなっ!」


「年初めの祭礼の時みたいなんですよね」



 神殿まで人だかりは続いていました。

 馬車で中に入れそうになかったので、私たちは神殿外の馬車置き場に停めた。

 そこも空きがなくて、だいぶ待つことになったのてすが、流石のアデリーナ様も無理矢理に横入りされることはありませんでした。



「特別行事の話も聞いていませんよ」


 馬車を降りながらアデリーナ様は不思議そう。



 私は部長を起こす。


「うむ、ご苦労。だが、眠らせろ。マジだ」


 そっちが素でありましたか、部長。

 


 気持ち良さそうにしておられますが、私は頬を強めにペチペチして、二度寝を許しません。


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