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聖竜と騎士の物語

 ご機嫌なアシュリンさんに案内されて、私は寮の中に入っていた。アシュリンさんとは部屋の外でお別れした。

 「今日は終わり。明日の昼までに来るように」って事だ。今日は部署の場所を知っただけで、特に仕事をしなかった。

 今日も明日も持参した荷物を片付ける時間をくれたみたい。



 アシュリンさんは悪い人じゃない。

 声が大きくてガサツだけど、根は良い人だ。

 だって、事務所で「お腹が空いているだろ」って、パンと干し肉を出してくれたから。

 両方固かったけど、食べられない程では無かったわ。

 だから、『さん』を付けよう。


 決して餌付けされた訳じゃない。



 この寮は数ある内の一つで、見習い巫女さんが住んでいる。って、アシュリンさんが教えてくれた。

 で、私の部屋にはベッドが4つある。

 相部屋ってことよね。


 私は手前のベッドに腰掛ける。鞄はもちろん、床よ。

 タンスはあるけど、1つだけ。幸い大きさは充分だから、皆で分けて使うんだろうな。


 貴重品はどうするんだろ。

 あっ、ベッドの脇に鍵がある。

 どこのかしら。


 なるほど、ベッドの下の部分も物入れになっているのね。ここにお金とかを保管するのね。


 それにしても、ふかふかね。

 ここで毎日寝ることができるなんて、それだけで巫女になった甲斐があったというものよ。


 荷物の整理はすぐに終わってしまった。

 鞄の中身、と言っても、着替えと本とお母さんから貰った餞別を仕舞って終わり。


 どうしよう。


 他の同室の方が来るのを姿勢良く待つしかないかな。

 寮の探検にも行きたいけど、誰もいないこんな時間にフラフラしていたら盗っ人と間違えられても文句言えなさそうだし。

 



 ダメだ、暇ね。

 持ってきた本でも読ませて頂こうかしら。


 私はベッドの下の引き出しに入れたばかりだけど、その中から一冊の本を選ぶ。一番のお気に入り、聖竜と騎士の物語。


 とても有名なお話だから、子供向けから大人向けまであるけど、私が好きなのは絵本。絵本と言っても児童向けじゃないわよ。


 竜と出会った少年騎士が数々の冒険を経験して、最後は王様になって天寿を全うするの。それを時系列順に丹念な細かい描写で一枚一枚仕上げてある。



 一番好きなシーンはここ。

 魔王との最終決戦後に竜と騎士が佇む姿。達成感だけでなく侘しさも含んだ情景が綺麗な筆跡で描かれている。


 各国を旅する竜とその騎士が、ある国でガイコツの魔王と出会うの。

 何度死闘を繰り返しても倒せない。

 そうこうしている内に魔王が逆襲に出る。全ての生物の命を吸い出したのよ。

 人間だけでなく、動物や草まで。


 国の危機に立ち上がる民衆。

 その先頭に立つ、竜とその騎士。

 勇者と呼ばれる彼らに付き添うのは、双子の少女マイアとカレン。


 魔王の宮殿を強襲するんだけど、魔王に竜も騎士も倒されそうになるのを助けるのがカレン。自らの身を投げ出して魔王の渾身の一撃から勇者を助けるの。


 マイアは宮殿に入らなかった。外から封印魔法を使うため。

 とても難しい術式で、詠唱時間が半日、一句でも間違えれば自分が石になるっていう超高難度魔法をやり遂げる。でも、魔力も命も尽き果ててマイアも散る。

 

 戻ってきた竜は、大きく一つ叫び、騎士は静かに竜の体を撫でる。


 戦いで亡くなったマイアとカレンの二人を讃えるために造られたのが、この神殿と伝えられている。

 だから、ここは神話に基づく由緒正しい所なの。そんな場所で働けるなんて誇らしいわね。

 

 

 あら、扉がノックされたわ。

「はーい、どうぞ」

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