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捨て駒と思わせて

 私が目を上げると、魔族は少し離れて浮いていました。


 まだ、生きてるか……。



 魔族の爪があった方の腕は、溶けるように爛れています。

 顔の半分もですね。


 私は最後の気力を振り絞って言います。


「転移はもう出来ないのですよね、殺します!!」


「……白薔薇、大した駒を手にしてるようで。捨て駒と思わせて、これですか……」


 捨て駒?

 そんな事、されてないわよっ!



 私はすかさず、魔法を唱える。

 よく喋るヤツだから隙だらけなのよ。


 次の瞬間には、フロンは消えていた。

 私の氷の槍はまた間に合わず、さっきまで魔族がいた場所にグサグサっと無駄に刺さっていった。

 いつの間にか、そこへ蹴り込んでいたアシュリンさんに当たりそうになりながら。



 まだ転移できたのか……。

 魔族の言うことは信じてはいけないわね。




「メリナさん、本当によくやってくれました。でも、これは私のミスです。すみません」


 アデリーナ様が傍に来て労ってくれました。

 何か謝っていますが、殺せなかった私が悪いです。次は、ちゃんと頭を粉砕しなくては。


「ありがとう、ございます……。でも、ちょっと休憩……。疲れました」


 私は倒れました。ガッと支えてくれたのは、たぶん、アシュリンさんです。




 そんなに時間を立てずに私は目を覚ましたと思います。

 地面に寝かせて貰っていたようです。




 周りを見ると、村長がまだ呆然と立ったままでした。



 それを皆は無視しているようで、エルバ部長の可愛らしい声が聞こえます。


「アデリーナちゃん、どうして、あの子をわざと逃がしたの?」


 エルバ部長が小首を傾げるように訊く。

 そうですか。

 宙にいる時に、矢を放たないからおかしいとは思いました。


「……流石ですね。……色々あるのですよ」


 アデリーナ様はそれ以上教えてくれなかった。


「ふーん、白薔薇も偉い人だもんね。訊いたら怖いかなぁ」


 エルバ部長も、そう答えて、寝転んでいる私の方にやって来た。





「私は……私は……どうすれば良いのでしょうか?」


 次は村長の声が聞こえます。アデリーナ様に訊いているようです。

 私はだいぶ回復してきたので、上体を起こしました。エルバ部長が腕を引っ張って手助けしてくれました。



「ふぅ、あなた方は魔族に誑かされたという線で処理しますよ。ただし、ナタリアはあなたに戻しません」


 村長は首肯く。


 そんな説明をされても村人の不信感は消えないでしょう。ナタリアが言うには、村長の命令を聞くように術を掛けられていた村人もいるそうですよ。

 村長、村八分からの孤独とかに耐えきれなくなるんじゃないかな。


 でも、言わない。自力で頑張りましょう、村長。それが、フロンの影響があったといえど、背徳に堕ちたあなたの贖罪になるのです。『そういうプレイなんですっ』と思って乗り切りましょう。私、ナタリアに対する発言は許しません。

 



 村の中央広場で、アデリーナ様が村長を後ろに置いて今回の件について説明する。


 私はもう普通に歩いて、ここまでやって来ました。アシュリンさんが「化け物だなっ!」って言いました。きっと、照れ隠しでしょう。誉めて下さったと思っています。



 代官とアデリーナ様とのやり取りの噂が短時間で村中に流れていたみたいで、身分が高そうなアデリーナ様の話を遮る人はいない。

 フロンの術を掛けられていた人も効果が抜けているのでしょう。



 その話が終わると、村人たちも村長も自分の家に戻って行った。触れぬ神、いえ聖竜様に祟り無しなのでしょうか、私たちを恐れているのだと思います。

 巫女服を着ているアデリーナ様だけでも印象を良く思って頂きたいのですが。




「ご苦労、メリナ。マジでな」


 周りに村の人がいなくなって、エルバ部長が私の名前を呼んで労ってくれた。


「部長、ありがとうございます。聖竜様のお言葉があったとはいえ、逃してしまった事は失態でした。次は必ず骨も残さずに消し去ります」


 聖竜様は魔族ではなくなったと言っていたんだけどな。まさか、聖竜様が間違えるとは思えないんだけど。


「メリナ、マジ怖い」


「貴様は暴力にすぐ走ってしまうなっ!」


 ちょっと、アシュリンさん、あなた、同類ですよ。


「そうですよ。壁にぶつけて敵の頭を力付くで割ろうとする自称聖女なんて、誰も信じませんよ」


 アデリーナ様、それは巫女であると言っても信じないと思いますね、うん。


「あぁ、私もあれを見て迷ったな。こいつ、実は悪魔なのかと」


 部長、それ、魔族から一歩進化してますよね。



 私は話題を変える。


「アデリーナ様は白薔薇なんですか。平凡過ぎませんか? もっと似合う呼び名の方が宜しいのでは?」


 暴れ馬車とか。暴走金髪族とか。


「そう? 平凡な方が誰だか分からなくて都合が良いと思うのだけど……。メリナ、あなたが名付け直してもいいのよ?」


 絶対言えないです、すみません。



 私たちはフロンとの一戦の疲れとストレスを軽い話で解消していたのだと思う。黙っていると気が重くなるから。

 ヤツはまだ生きている。




 私たちは神殿から乗ってきた馬車の前に立っている。


 新たな事件が発生していました……。



 お酒が盗まれていますっ!!

 一本も無いですっ!!!!


 許しません!!!!!


 魔族フロンを仕留められなかった怒りは、酒泥棒へのそれへと上書きされました。



「……メリナさん、何を考えているか手に取るように分かりますよ。お止めなさい。偽巫女の持ち物だと思われていたのです。馬がいるだけ、まだマシでしょう」


 その馬は慌てて返したのではないでしょうか。飲んだものは戻せないだけなのですよ。


 そう言えば、当たりの本物のお酒は一本だけだったのに、盗んだ人は大丈夫だったのかな。



「でも、私、一滴も飲んでないんですよ!」


「メリナさん、あなたに対しては、『触るな、飲むな、見詰めるな』と書いていたはずです。飲む気でいたのですか? あなたの物でもないのに? 反省文、もう一度書きます?」


 くぅ、厳しいわね。矢を私に射つだけあるわ。



 しかし、私、メリナは閃いたのです。

 自分でお金を出して買えばいいのよ。

 どうして思い付かなかったのかしら。都会なら絶対に酒屋さんや酒場があるわ。



 こうして、私たちはラナイ村を離れて、神殿のあるシャールに向かった。


 フロンに関しては、調査部が探すと部長が言っているのでお任せすることにしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応聖竜から魔族じゃなくてなったというお墨付きがあるとはいえ 元魔族で色々好き勝手やってた奴を見逃す事情って相当ろくでもないものなんだろうなと思ったり どう考えても逃がしちゃダメな手合いなん…
[一言] アデリーナ様が魔族なんじゃないかと思いました。
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