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本当に不愉快なので

「ここまでか」


 あっさり罠に掛かった魔族が呟きました。


「そうですね。諦めてください」


 私は戦闘が終わる前に喋るのは嫌い。相手に同情してしまう時があるから。



 さてと、今の間に私は足をくっ付けましょうかね。それが終わってから始末しましょう。

 トントンと片足飛びで、遠くに投げてしまった私の右足を拾いに行く。

 うーん、片側の先がないだけなのにバランスが取りにくいものなのですね。頑張りましょう。


 あぁ、私の足、可哀想に血塗れです。土もいっぱい付いてます。


 仕方ありませんでした。隠れているアデリーナ様達の方にダークアシュリンが視線を遣る恐れがあったのですもの。足を投げて、私に注意を戻したのです。石とかよりもインパクトありますから。


 切れた足を水魔法で洗ってから回復魔法で切断部を接着する。

 うん、元に戻りました。ちゃんと小指までも動きます。



 首を人間では有り得ない程に回したダークアシュリンが驚く。それ、アシュリンさんの体なら、今ので死んでいませんか?


「……そこまでの魔法が使えたのか……」


「聖女ですから」


 適当にそれっぽいブラフを混ぜておきましょう。


 まだアデリーナ様もエルバ部長も崖の上から降りてこない。何を警戒されているのか。

 フロンさんも倒れたまま、お動きになられません。こちらは死んでるのかしら。



「聖女か、それ、いいな」 


 魔族の顔におぞましい笑みが溢れる。

 まだ何か隠しておられましたか。早く殺っておくべきでした。会話に応じたのが失敗です。



 私は壁から離れられない魔族の背を前蹴りする。クソ固いな。でも、もう少し力を込めて氷の壁に押し込めば、骨を折ることが出来そう。


「じゃあ、またな」


 転移? クソ、間に合わないか。

 どうやったら止められるのよ!

 ぶち殺さないと、聖竜様との約束が守れないっ!


 背骨を折ることを断念し、相手の頭を持って、氷の壁にぶつけたところで、ダークアシュリンが白いアシュリンになりました。




「……っつう! メリナ、やってくれるじゃないかっ!」


 まだ転移していないね。

 良かったわ。一刻も早く冥土に送り出しますからね。


 氷の壁に爪が食い込んで動けなかったはずなのに、アシュリンがこちらに体を向ける。見ると、長い爪がなくなっていました。


 なるほど出し入れ自由だったのね。


 私は目の前のヤツが体勢を整える前に、横腹を殴りに行く。肋の直ぐ下、血反吐を吐きなさい!


 でも、避けられた。

 速くなってるな。逆に頭を掴まれそうになったので、後ろに下がる。


「背中が痛いじゃないかっ!」


 えぇ、殺す気で蹴ってましたから。



 正対した所でホワイトアシュリンが叫ぶ。


「メリナっ! そこのフロンを押さえろっ!」


 その手を食うかってーの。目を動かした瞬間に襲う気でしょうが。

 私は腰を深く、足を前後にして構える。勿論、両手も軽く握って前です。



「ったく、メリナ、そこをどけっ!」


 私は答えない。



 痺れを切らしたかのように、突っ込んでくる白くなったアシュリンを迎い撃つ。


 横からですね。


 私は重心を変える。

 で、間合いに入った瞬間に中段回し蹴り。アシュリンからの攻撃はありませんでした。


 私の蹴りをホワイトアシュリンはジャンプして飛び越えた。完璧に捉えたと思ったんだけどな。


 相変わらず、身軽ですね。


 蹴りの最中に私は腰の捻りを無理矢理、逆にする。腰に負担が来て、痛いよ。でも、我慢。


 軸足で飛んで、捻った勢いのまま、ホワイトアシュリンの背を追って、回し飛び蹴り。さっきと回転が逆になっております。

 ビュンって、良い感じに風を切る音がしました。


 私の足先はホワイトアシュリンに追い付いた。が、当たっただけ、大したダメージじゃない。

 バランスを崩したホワイトアシュリンは地面に手を付いて支えてから、また走り出した。



 逃げる? 走って?


「待て、ゴラッ!!」


 待たないだろうけど、一応、声に出してみる。無意味な威嚇です。



 フロンさんが地面の上で蠢いていました。よく見たら、近くの代官様の配下と頭が重なっています。


 意識を戻した? で、また倒れたのかしら。


 そのフロンさんをホワイトアシュリンは豪快に蹴り上げた。軽く宙に浮いてから、フロンさんはゴロゴロと地を何回も転がる。

 非道です。そして、そんな物を見せられても私には無影響ですよ。動じません。


 フロンさんが止まった先は別の兵隊さん。彼女はその兵隊さんの顔にキスをした。偶然に唇が当たったんじゃない。絶対に自分から口づけをしに行った。



「くそ、やられたかっ!」


 ホワイトアシュリンが叫ぶ。他人の恋を目撃してヒステリックに非難するおばさんみたいです。


 殺られるのはお前です。


 私は隙だらけのホワイトアシュリンの背後に迫る。が、ヤツもフロンさんの方へ向かいだした。



「た、助けてくれ」


 突然、倒れていた兵隊さんが起き上がって私の腰に正面からしがみつく。

 クソ、うざい。何故にこのタイミングで!


 私は膝を彼の顔面に入れて無力化し、アシュリンを追う。ヤツを殴り倒す為の貴重な一瞬を失ったなぁ。



 あっ、でも、ラッキー。


 アシュリンも私と同じ様に代官の兵によって動きを止められていた。頑張って引き離そうとしているけど、なかなか、その男も力があるじゃない。離れないわ。

 巨体の癖に錯乱し過ぎでしょ。自分を倒したそいつを頼るのはどうかと思うんだけどね。それに、アシュリンの見た目も一応女性に見えるでしょうに、だらしない。



 でも、よくやった。私が最後に魔法をぶちこみます。特大の魔法ですよ。


『聖竜様、私、メリナです。お力をお貸しく――』



「お、お助けを……」


 あぁ!? どこから湧いたっ!!

 ふらふら寄ってきたフロンに私は詠唱を邪魔された。

 目障りなんですけど!


 彼女は疲れていたのでしょう。悪いことに、足まで縺れさせて、私の方へ、もたれ込んできました。

 私の視界がフロンの顔で遮られる。



 本当に不愉快なので、顔面を横殴りに撃ち抜いて倒しました。



 勝機を逸するでしょうが!!

 私には聖竜様の願いに沿うという大切な使命があるのです。

 ナタリアのお姉さんみたいな者であっても許せません。大人しく寝転んでいなさい。



 もう一度、ホワイトアシュリンに向き直した所で、光の矢が飛んできた。


 遅いですよ、アデリーナ様ぁ。

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