七十六話 ホテル・アランドゥ※
2021/02/05 16:28 修正
高級宿。ホテル・アランドゥ。
高級宿の名前通り厩舎もやけに豪華だった。
馬の意匠が施された看板に手摺から馬を囲う柵までの全ての色合いがベージュ淡褐色に統一されている。
その厩舎にポポブムを預けた。
ささっと、玄関口へ誘導を受けているような気がする石畳の道を歩いた。
ここが玄関か。
十字が仕切るガラス窓の出入り口。
取っ手も冷んやりとする銀の螺鈿細工で、蝶番も銀で出来ていた。
取っ手を持ちガラスの両扉を押して高級宿に入る。
黒猫は俺の肩に乗ると、頭巾の中へ潜った。
中は広々とした奥行きのあるホール。
中央に受付がある。
床は煌びやかな白色の高級石材が敷き詰められていた。
貴族が住んでいそうだが……。
冒険者と思われる客も何人か見える。
入口できょろきょろと周りの様子を見回していると……。
帽子を被るホテルマンが対応してきた。
「お客様、いらっしゃいませ。そのまま中央へお進みくださいませ」
笑顔で出迎えだ。
お辞儀の頭を下げる角度を維持してから、顔を上げている。
礼儀正しい所作。
この辺りなんか、日本を思い出す。
あ、そういえば、ペットは大丈夫なのだろうか。
一応、受付で確認してみよ。
ホテルマンに会釈してから中央の受付に向かった。
「いらっしゃいませ。お客様」
「暫く、泊まりたいのですが、ここは使い魔というかペットは可能ですか?」
「はい。大丈夫でございます。そのペットの大きさは?」
「にゃ」
頭巾から肩に顔を出す、ロロ。
「これぐらいです」
受付係は黒猫を見ると納得するように笑みを浮かべて頷いていた。
「なるほど……家具を大切に扱ってくだされば、大丈夫ですよ。では、一泊夜食事付きで銀貨八枚。オプション付きで銀貨十枚です」
大丈夫だった。値段はやはり高級宿。
三十日だと……銀貨二百四十枚か。
受付台の横にはカレンダーらしき物がある。
今日は春の五十九日。
夏の季節まで残り三十一日、……銀貨で二百四十八枚。
とりあえず、夏になるまでの期間三十一日間とプラス十日間分、四十一日分を払うとしよう。
後、オプションは何だろ。
「オプションとは何ですか?」
「食事が高級料理となり〝商売女〟が付きます。指名制度もありますが、それは次回以降になります」
商売女! それはお試しをしたくなる。
「それでは、初日だけオプション付きで、四十一日分泊まりたいです」
「長期間の一括ですね。 それではその期間のオプションは無料とさせていただきます。自由に食堂の二階をご利用くださいませ、では手続きを行いますので、少々、お待ちください」
良いね、無料か。
受付係は計算するためか、後ろに下がっていく。
一日銀貨八枚で計算して……三百二十八枚かかる。
アイテムボックスから取り出した金貨三枚を、受付台の上に先に乗せた。
続けて、じゃらじゃらと三百枚は超えた沢山の銀貨を乗せる。
受付係は計算が終わったのか戻ってきた。
彼は俺のアイテムボックスを見ても平然としていた。
「代金は、銀貨で三百二十八枚となります」
指で硬貨を揃え、
「……これで丁度かな」
「……なるほど。計算がお早いのですね……」
受付の男は少し驚いたように眉を動かし、俺を見る。
彼は一生懸命に計算道具なのか何個か連なる金属棒を使い計算していた。
「……確かに。では、こちらにお名前のサインをお願いします」
受付台の記帳には客の名前が並び書かれてあった。
俺も記入欄に偽名とかじゃなく本名の名前を書いてゆく。
「書きました」
「お部屋は希望はありますか?」
「一階の奥で」
「はい。では、一階右の端、剣の部屋の十番が空いております。よろしいでしょうか?」
「そこでいいです」
「わかりました。鍵はこちらです」
鍵を手渡された。
「では、係の者がご案内致しますので、少々お待ちを」
受付前で少し待った。
俺の借りた部屋は剣の部屋十番だ。
受付台の上には案内板が設置されているので分かりやすい。
矢印付きで剣の部屋、盾の部屋とか書かれてあった。
案内係がいなくても分かると思うが……そんなことを考えていると、案内係が近寄ってきた。
「お客様、ご案内致します」
案内係は軽い御辞儀をしてから歩き出す。
ホールには受付の他に、玄関口に近い右手位置に一対の小さい真鍮製の牛像に挟まれる形で大きな食堂の入り口があった。
案内係は受付から離れて右寄りに進み、ホール奥へ進む。
宿の二階に上がる階段は受付の左奥にあった。
……トイレはここか。
「ン、にゃ」
そこで、黒猫が俺の頭後ろにある頭巾から顔を出して、鳴く。
「ロロ、おしっこか? 今、部屋へ向かうとこなんだけど」
黒猫はおしっこではなく、欠伸をしてから肩に首を乗せて案内してるホテルマンの背中を見つめていた。
あぁ、ホテルマンの背中にある長い紐のような模様が気になるのか。
しかし、天井と壁横には受付にもあった矢印の案内板が設置されているので本当に分かりやすい。
案内係は当然のように、案内板などは見ないで歩いていた。
ホール右奥の角を曲がり廊下を進む。
廊下も幅広だ。敷かれている石も光を帯びて灰色に変わる。
十番の部屋はつきあたり。
廊下には部屋番号の標識があり一目瞭然。
あった。あそこか。
つきあたりの部屋に到着。
案内係は鍵を使って十番の部屋扉を開けてくれた。
「こちらでございます。どうぞ」
「はい」
「お客様、この入れ物へお召し物を入れてくだされば、毎朝係の者が洗濯をいたします。他に所用がございましたら、お申し付けください」
部屋の手前には確かに木製の箱がある。
洗濯もしてくれるらしい。便利だ。
「特にない」
案内係はそこで頭を下げ踵を返して廊下を戻った
チップとかは必要ないようだ。
早速、十番の部屋へ入る。
広い、手前の部屋だけで十畳ぐらいはあるだろうか。
綺麗な臙脂色の床板が敷かれてある。
中心に大きな茶色丸机と椅子があった。
机の上には沢山のフルーツが盛られた皿。
高級そうな水瓶もある。
壁にはホルカーバムの風景画が並んでいた。
大きな丸机を触りつつ、広いなぁと、思いながら奥の部屋に移動――。
奥は窓付きの清楚な部屋だ。
高級な布製のカーテンがある。
寝台というか、洋風ベッドが三つもあった。
さすがに天蓋がつくようなゴージャスさはない。
水入り瓶とランプ消しが乗った小さなサイドテーブルがベッドの縦に三つ並ぶ。
俺が泊まったヘカトレイルの宿とは月とスッポンだ。
「ンンン、にゃ~」
黒猫は早速、柔らかそうなベッドへダイブ。
いつものように飛び跳ねたりはしなかった。
このベッド、スプリングが凄いのか、衝撃を吸収するようだ。
俺も柔らかそうなベッドにダイブしたいと思ったが、まずは背曩を下ろし、胸ベルトを外して外套を脱ぐ。
服を飾るマネキンが数体あったので、そこに外套と胸ベルトを掛ける。
足のグリーブ、腰の段だらキュイスを外し、指抜きグローブを脱いで、左腕の紫竜を形どったリアブレイス腕の防具も外して、丁寧に床板に置く。
身軽になった状態でベッドに腰掛け柔らかい感触を尻に味わった。
むにゅっとした感触を持つふわふわベッドだ。
ウォーターベッドとは言わないが、ふんわりしていて気持ちが良い。
特に意味もなくベッドの上で転がって遊ぶ。
黒猫とぶつかるが構わない。
転がって遊んだところで、白いひらひらが逆さま視界の中に入った。
カーテンか。
端のベッド横から立ち上がり、白色のひらひら付きカーテンを開ける。
木製の窓が備え付けられてあったので、戸を横にずらし全開にしていく。
ひゅ~、広いベランダ付きか。
臙脂色の板で作られたベランダだ。
ベランダの床には水を流せる穴もちゃんと空いている。
横には淡褐色の大きな桶があった。しっかりとした箍付き大桶。
風呂用の大きい桶だから泳げそうだ。
だけど外の光景はいまいちだな。
裏庭が少し見えるだけ。
しかも、洗濯物が視界を塞いでいる……。
洗濯を干している頭にプラトークをかぶった使用人の娘と目が合った。
使用人の娘はニコッと笑顔を見せる。
俺も笑顔を返してから部屋に戻った。
ここは一階なのでしょうがない。
さあて、古竜防具の品でも磨いて拭いておくか。
まだまだ綺麗だが、ベッドの隅に腰掛けながら紫色の古竜防具を手に取り、丁寧に拭いて、磨いた順に防具を床へ並べていく。
これで全部終わりっと背筋をベッドに伸ばして大の字で休む。
何しよ……食事の時間までは、まだ暫くあるから風呂に入るか。
その前に、
「オープン」
アイテムボックスを操作。
ピッポッパッと、コンピュータを操作するように腕輪型アイテムボックスを操作していく。
【ヘカトレイル】で買っておいた石鹸と皮布を選択し取り出す。
ついでに、髭剃り用の古竜ナイフも出しておく。
大桶に生活魔法のお湯を注いで満杯にしてから、全裸になった。
意味もなく腰を振っては、金玉をぶらんぶらんさせる。
黒猫が変な目で見た気がしたが、気にせず、ゆっくりと、足からお湯に浸かっていく。
その黒猫も傍に来た。
桶の上に前足を置きながら、いつものように水面へ向けて肉球パンチを繰り出している。
「ロロも遊んでないで入っとけ」
「にゃぁ」
一鳴きすると、大桶の揺れる水面に飛び込んでくる。
跳ねっ返りの水飛沫が舞い、顔に水を被ってしまう。
――ぷはっ、また、いきなり飛び込んだな。
「いきなりだな」
黒猫はそんな俺の顔は無視……水中へ潜り、大桶の大きさを満喫するようにスイスイと泳いでいく。
いつのまにか、泳ぎが達者になっていやがる。
耳をちゃんと塞いでいる小顔がまた可愛い。
黒猫が泳ぐ姿を見ながら、俺も頭から水に浸かっていく。
――ふぅ。
ふと、疑問に思ったのだが、この生活魔法で作られる水は純水なのかな?
今まであまり意識してなかったから、味わいながら飲んでみよう。
顔を上に口を開けて水を注いでみる。
ん~味はしない。イメージ次第で味は変わるのか?
変化なし。ここで砂糖味とか、甘くなれば、砂糖売りの大商人の道が開けたんだがなぁ、ま、喉の乾きは満たせる。
……そんなことより明日は領主と面会だ。
領主の名前も知らない。ま、飯の時に商売女が来るようだし、そんときに領主の名前でも聞いておけばいいか。
能力を見ておこう。
ステータス。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:超越者
種族:光魔ルシヴァル
戦闘職業:魔槍闇士:鎖使い
筋力20.0→20.1敏捷20.8体力19.1魔力24.3→24.4器用19.2精神24.6→24.7運11.2
状態:平穏
スキルステータス。
取得スキル:<投擲>:<脳脊魔速>:<隠身>:<夜目>:<分泌吸の匂手>:<血鎖の饗宴>:<刺突>:<瞑想>:<魔獣騎乗>:<生活魔法>:<導魔術>:<魔闘術>:<導想魔手>:<仙魔術>:<召喚術>:<古代魔法>:<紋章魔法>:<闇穿>:<闇穿・魔壊槍>:<言語魔法>
恒久スキル:<真祖の力>:<天賦の魔才>:<光闇の奔流>:<吸魂>:<不死能力>:<暗者適応>:<血魔力>:<眷族の宗主>:<超脳魔軽・感覚>:<魔闘術の心得>:<導魔術の心得>:<槍組手>:<鎖の念導>:<紋章魔造>
エクストラスキル:<翻訳即是>:<光の授印>:<鎖の因子>:<脳魔脊髄革命>
僅かに成長したかな。
立ち上がりながらステータスを消して、体を石鹸で洗っていく。
股をごしごしと手で擦り、爪間の汚れも落としていった。
髭は少し伸びて生えているが、まぁこれはこれでありと判断。
ダンディズムを追求してみる。
黒猫も洗っていく。
黒々とした毛をさっぱりとするように水で洗い流してやった。
猫の体は毛が濡れると、筋肉がはっきりと見える。
細いけど筋肉が発達していた。
そんな黒い毛並みを新しい皮布で拭いてやり一緒に大桶からベランダに出る。
おっと……吸水が早い。不思議、吸水性が高い皮なんだな。
この布皮、令嬢的な雰囲気を持った店員が人魚の皮とか言っていた。
これがオマケとはあの店、なかなか良い店だ。
布皮に感心しながら身体を拭き終えた俺はまた、ベッドへダイブ。
横になって柔らかい感触に包まれながら、黒猫と一緒にまったりと過ごしていった。
そろそろ腹が減ったから食堂にいくか。
ベッドから起き上がり、鎧類を装着。
外套を着て、冒険者として食堂へ向かう。
黒猫も肩に乗ってきた。
高級宿の食事だし、正装を身に着けないと入れないかも……。
と、疑問に思っていたが、大丈夫らしい。
小さい牡牛像の間にある食堂に入ると、ホテルマンが話しかけてきた。
「お客様、指定席までご案内します。こちらです」
指定席があるようだ。
オプション付きのサービスか。
どんなサービスが待っているんだろう……期待大だ。
案内マンの彼についていきながら、食堂内を見学していく。
ここはやはり高級ホテルの食堂なのだろう。
清潔感あるオセロのような白黒タイルの床が敷かれ焦げ茶の無垢な机と椅子が並ぶ。客層もそれに似合う貴族、商人、エトセトラ。金持ちそうな人たちが豪勢な肉の料理を食べているのが目に入った。
冒険者の格好と思われる者は少数だけ。
服装に関しては、バラバラだ。武装を解除してない冒険者も居る。
格式が高いとかないようだ。
案内人は食堂の真ん中にあった豪華な階段を上がっていく。
丸みを帯びた木製の手摺がある。
俺は手すりの作りに感心しながら、螺旋のとぐろを巻くような階段の樹板を踏みしめて二階へ上がった。
二階は臙脂色の床板が広がり自然の樹木がデザインされた大木の幹が柱としての存在感を示す。
柱と壁との間には縦長の先が曲がった流木が設置され滝をイメージした作りなのか、真ん中の窪んだところから下へ水が勢い良く流れ、水を運ぶ弧線を描く流木の先には天然の岩に囲まれた小さな池が用意されていた。
池では魚が泳いでいる。
ここだけは日本庭園のような雰囲気とも言えた。
凝った内装に広間の造形が見事だ。
肩にいた黒猫も飾り木を見て、登りたくなったのか、頭をぐいっと庭園へ伸ばし肉球を見せるように片足を上げて遊びだそうとしていた。
「ロロ、遊んじゃだめだぞ?」
「ンン、にゃ」
黒猫は俺の言葉を聞いて耳を凹ませていた。でも、黒猫が遊ぼうとする気持ちは分かる。
ここの内装は本当に凄い……上と下じゃ雰囲気が違う。
庭園の風景を楽しみながらの食事かぁ、オプションは意外にアリかも。
しかも、無料ときたもんだ。
でも、食事と女の良さをこの目で確認しないと。
「お客様? こちらです」
「あぁ、すまない」
案内係は爽やかな笑みを浮かべ待っていた。
済まんね、田舎者で。
俺は満面の笑みを、案内マンへ返す。
案内係は仕事に徹して、俺のスマイルには何にも反応を示さなかった。
……そのまま、無言で案内される。
案内されたところは二階の内装が一望できるところで段が少し高く、赤みがかった茶色の大木をくり貫いた作りの豪華な専用個室だった。
中には女性が座っている。
「どうぞ。では、すぐにメニューを持った係が参りますので、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
案内係は下がっていく。
すると、個室の中で座っていた金髪の女性が立ち上がり、俺の傍に歩み寄ってきた。
丈長のカーディガン系を着こなしている女性。
首襟には白絹の薄いヒラヒラが付いていた。
胸元が少し開けている。
「シュウヤ様。今日はよろしくお願いいたします。わたしは【べルガット】に所属するメリッサという者です」
俺の名前を知っているようだけど、受付に書いた情報を受け取っているのか?
メリッサと名乗った綺麗な女性は華麗に御辞儀する。
頭を下げた時、髪留め針が見えた。
髪の長さはミドルだけど、もっと長いのかもしれない。
少しいい匂いが漂ってきた。
「……此方こそ、よろしくです」
俺は外套を左右に分けて両腕を出し、軽く会釈した。
でも〝ベルガット〟とは何だろう。所属?
「ンン、にゃ」
肩にいた黒猫も声を出す。
「あら、猫ちゃん」
「こいつはロロディーヌ。愛称はロロ。使い魔みたいなものです」
「そうですか。よろしくね。ロロちゃん」
「ン、にゃ」
「では、シュウヤ様、こちらにいらして」
メリッサの細い手に俺の手は握られる。
手を繋がれたまま優しく個室部屋へ導かれた。
何か、楽園へ誘うようにも感じられた。
誘われた個室にある茶色の大きな切り株のような丸机と椅子は一つに繋がっている作り。
よく見たら、丸みを帯びた机の角には動物系の意匠が彫られてあった。
そして、机の上に置かれた食器の上には何かの紋章が真ん中へ出るようにたたまれてある糊の利いたナプキンが置かれてある。
この辺は高級店らしい。
椅子には柔らかいクッションが置かれ、ちょうど俺が座る位置から二階に広がる自然庭園がハッキリと見れる構造になっていた。
黒猫は肩から机へジャンプ。
そのまま反対側の椅子へ歩いてクッション上に足を乗せると、くるくるとクッション上で回り出す。
黒猫は料理が来るまで丸くなって眠るようだ。
メリッサは差し向かいに座らず、俺の隣に座る。また――いい匂い。
匂いに釣られ彼女の顔を見た。金髪に釣り上がった薄い眉。
澄んだ青い瞳。鼻梁が薄い。
頬は化粧の効果か、うっすらと赤みを帯びていた。
上唇が下唇より少し大きい……吸い付きたい。顎も小さく首筋も悩ましい。
赤茶色の上着は少し胸が開けている。
下にはノースリーブ系のドレス仕様な服を着ているようだ。
綺麗なネックレス……。
ん? 鎖骨の右下にかけて傷らしきものが見えた。
「ふふ、シュウヤ様? そんなに顔や体を見られては恥ずかしいですよ?」
俺の変態視線に気づくと、胸元を襟のヒラヒラで隠してしまった。
そりゃ、嫌だよね。謝っておこう。
「……すみません。メリッサさんが、綺麗でしたので、つい」
「もう、お上手ですね。それと〝さん〟は止してください。呼び捨てで構わないです」
メリッサは口を手で隠しながら、若干に顔を傾けて、微笑みを作る。
気軽に話せか、それじゃお言葉に甘えて。
「了解。それじゃ、俺も〝様〟は抜きで、でも、綺麗と言ったのはお世辞ではないよ。ま、こういう台詞には聞き慣れてると思うが……」
「そうですね。賛辞は素直に受け取ります。シュウヤさんも独特な男らしさを感じますね、右手、腕回りの筋肉も鍛えられてそうですし。外套も紫がかって綺麗です。鎧も覗き見ましたが、紫色なんですね」
そう言って、素肌を露出している右腕の皮膚を指でなぞるように触られた。
――くっ、テクニシャンかっ!? ボディタッチが然り気無い。
「はは、参ったな――」
「お客様、メニューとお飲み物でございます」
と、鼻の下を伸ばし調子良くしたところで、メニューと飲み物を持ってきた給仕の邪魔が入った。
ゴブレットが机に置かれていく。
竜の意匠が掘られた木製ゴブレットだ。
中には無色の液体と氷が入っていた。冷たそう。
掴むと竜の意匠の部分だけが冷たく反応。
魔察眼で見ると、この部分だけ魔力を帯びている。
コップからして魔道具とは、この店やるねぇ……感心しながらゴブレットを口へ運び中に入った液体を飲んでいく。
わぉっ、マジかよ、甘くないが天然のサワーとか。
まさか……炭酸飲料が飲めるとはなぁ、しかも、冷たいから喉ごしがあっさりだ。爽やかなハーブな香りも良い。
そして、メニューを見せてもらう。
目につくのはルンガの肉料理だな。豊富にある。
だが、たまには違うのを頼むか。
ハウザンド産レーメのロースト。
カジゾックの果実酒煮込み。
ランターユとペソト実のスープ
冷えたエール麦酒。
この四つを注文した。一つはロロにあげよ。
「わたしは、ヘルゼイカのロースト。クアリとレーメの豆煮込み。冷えたエールを一つ」
彼女もそんな料理を注文していた。
給仕は俺とメリッサが注文した料理の書き物もせずに全て暗記したらしい。
「畏まりました。少々おまちください。後ほど前菜のスープが参ります」
そんな感じで素早く答えると、頭を下げてメニューを持ち去っていった。
自然体で動く仕草が様になっている。隙がない。
「シュウヤさんは見た目通り、冒険者の方ですよね?」
スマートな給仕の仕事っぷりに感心してると、メリッサがそう聞いてきた。




